愚地克巳とドイルのハードBLダンジョンが地球上に生命を誕生させた 乙女の聖典 女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その13

 皆さんは「刃牙」シリーズに、何を求めて読んでいますか。私は「男同士のセックス」を求めています。そういうわけで早速、『バキ』通常版12~16巻の感想戦を開始(はじ)めます。

 『バキ』通常版12~16巻では、2つの重要な物語が同時進行する。「刃牙さんと梢江と花山さんの物語」そして「ドイルによる男めぐりの物語」だ。もし高校に「バキ」という科目があったら、この2つを別立てにして週1回ずつ、合計4単位を割りふらなければいけないほどの重要項目だ。今回、欲張りな皆さんのために4単位を一気に授けたい。

 まず1時限目は「刃牙さんと梢江と花山さんの物語」だ。刃牙さんと梢江が連日デートを重ね、交際が肉体的な段階に及びつつあるのは皆さんもご存じだろうが、その二人を常に見守る影がある。花山薫だ。花山さんと刃牙さんは、15歳と13歳のとき出会い、熱い拳を交わし、さらに恋文を交わし、一夜を共にした仲だ。
 この期に及んで「花山さんと刃牙さんはそういう仲じゃないから」と言い出す輩がいるかもしれないが、二人が過去につきあっていなかったとしたら、お前それは唐突すぎるだろうという出来事が『バキ』通常版13巻で起こる。花山さんが突然、刃牙と梢江の河川敷デートに割りこみ、オンナが欲しいだけなら世話する、と言いだすのだ。
 これを見るに、花山さんのほうは刃牙さんにまだ未練があるのだろう。そこで、梢江という一人の女性に心から惹かれているのか、誰でもいいから女体を知りたいだけなのか、刃牙さんの欲望を見極め、女体だけならば、あわよくば寄りを戻そうとしているのだ。
 しかしこれに対して、刃牙さんが激怒したのはもちろん、梢江さんも無視して話をされたことに激怒する。このシーンで、私は梢江さんの自我の強さ、想いの真剣さをまざまざと知り、自然と「さん」づけになった。

(梢江さんのかっこよさが炸裂)

 その後、もう一人のストーカー=範馬勇次郎(はんま・ゆうじろう)が、夜中に説教をしに来て、ドアを使わず霊のように現れたり消えたりした。完全に通報していい案件だし、心霊現象みたいになっている理由を説明して欲しい。
 ここで刃牙さんは、強くなりたいからではなく、「したいから」(※注1)セックスをする、という意思をはっきりと梢江さんに伝え、梢江さんもそれに同意する。二人の初体験は、花山さんと刃牙さんが初夜を過ごしたのと同じ、「刃牙死ねハウス」で決行される。この様子がつぶさに描かれた『バキ特別編 SAGA』については別稿で語ったので、ぜひご参照頂きたい。マンガ史に残る、素晴らしいセックスシーンだと思う。

ちくまweb(無料記事) フェミニスト両手ぶらり旅 round.2 『バキ特別編 SAGA』
http://www.webchikuma.jp/articles/-/1609

 ちくまwebの記事では、話題がそれるので書かなかったが、二人の性愛関係=カップリングに注目して物語を解釈していく立場からは、当然のこと、初体験は最もつまびらかに描かれるべきポイントである。「誰が得してんだよ」と言われがちな『SAGA』だが、刃×梢(リバ)を語るために絶対に必要な描写だ。あと刃牙さんは乳首が敏感という事実を知ることができて本当によかった。ありがとうございます。

 幾晩にもわたって繰り広げられた神話的な初体験ののち、刃牙さん・梢江さんカップルと、柳龍光・シコルスキーコンビの戦いになるが、セックスという闘争を通じてパワーアップした刃牙さんが、当然のごとく圧勝する。

 二人の初体験が、描かれたそのまま誇張がなかったとすると、刃牙さんよりもむしろ梢江さんのフィジカルの強靭さが半端ないし、最大トーナメントに出場して優勝を狙えるほどのレベルだと思う。そりゃ刃牙さんもパワーアップするわという、納得の闘いだった。

 そこに現れたーーというか多分ぜんぶ見ていた花山さんが「アンタの勝ちだ」と梢江さんに宣言する。花山さんが、梢江さんのことを「わが恋敵ながら、天晴れ」と認め、ついに刃牙さんのことを完全にあきらめた瞬間であった。

 この一連のシーン、私の中では晴れ晴れとした寂しさがあり、刃牙さん梢江さんの充実感よりも、花山さんの孤独感のほうが胸に迫ってくる。二代目にもこれからいいヒトが見つかるよ!と言ってあげたいし、柴千春(※注2)がそばに寄り添ってあげてほしい。しかし花山さんはもともと、先祖を守って死んだ侠客という、究極の男の影を背負っているから、孤高の侠客(おとこ)立ちが似合う……とも思う。

 さてここからいよいよ二時限目、「ドイル男めぐり」の講義を開始(はじ)める。ここまで講義中のおじや、バナナ、炭酸抜きコーラ(※注3)の飲食を許可してきたが、ここからは試合(試し合い)ではなく、私自身が生きて帰れるかわからない真剣勝負の世界なので、皆さんもそのつもりで挑んでほしい。

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金田淳子

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金田淳子

金田淳子。やおい・ボーイズラブ・同人誌研究家で、フェミニスト。在野武将。共著に二村ヒトシ・岡田育・金田淳子『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA、2015年)(増補文庫版2017年)など。はてなブログもやっています。https://www.kanejun.net/
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