Inked乙女の聖典サムネその6_LI

刃牙さんの恋のアプローチが重すぎる 乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その6

  これまでのあらすじ……愚地克巳が愛らしすぎて、私の脳内のおじや(※注1)が溢れ、文字数がパンパンになった。克巳を愛する夢女子・夢男子で集まって、あなたの家の克巳はどんな感じ?とか、1ミリも社会の役に立たないトークを8時間ぐらいしたい。
 そういうわけで引き続き、『グラップラー刃牙』最大トーナメント前半戦(21~32巻)の感想を書く。今日も元気にグラップルしていくぞ! 

 克巳に完全に気を取られていた私だが、主人公の刃牙さんも、最大トーナメントに普通に参加している。ただし、顔と性格が「そういう人だったっけ?」という不安を与えてくるので、個人的には「刃牙さんも参加している」という事実をたびたび忘れそうになる。推測するに、何年も幼年編を書いているうちに、板垣先生が17歳の刃牙さんのことを忘れてしまったのだろう。好意的にとらえれば、以前の刃牙さんのままではいけないと思って、あえてブラッシュアップしたのかもしれない。

 この時期の刃牙さんの顔については、板垣先生の、90年代の荒波を必死に乗り越えようとする努力が感じられる。個人的には、鼻の上にサッと横に引かれたラインなどに中途半端な古さを感じるため、好みではないのだが、顔がなかなか安定しないのが功を奏してか、いい意味で「別のマンガみたいだな」「BLに出て来そう」と思える表紙、扉絵もある。

(あら素敵……「ジョイント・フェチ」……新しく始まったSFマンガかしら? )

(もうこの扉絵には感謝しかありません。ヤるぞという希望に満ちている。)

 とはいえ、私はこの時期の刃牙さんの性格にあまり魅力を感じない。出番が少なくなったのもあり、刃牙さんが行動するたびに「あ、そういうことするんだ?」と唐突に感じてしまう。
 私が最も「いかがなものか」と思っているのは、松本梢江(こずえ)へのアプローチが性急すぎる件だ。梢江との交流は、作中ではこれまで「大家の娘で、たまに一緒に高校に行く。梢江は刃牙の生活態度に不満を持っている」ということぐらいしか描かれていない。だから刃牙さんが地下闘技場という修羅界にいきなり梢江を連れて行き、血まみれの試合を見せ、さらにいったん外に出て、凄絶な人生を語り聞かせたことについては、素で驚いたし、「この男、重すぎる」と思った。

 刃牙さんの「男子(おとこ)はねーーー 誰でも一生のうち一回は地上最強ってのを夢みる」(※注2)という言葉も、私はちょっと引くやつだった。刃牙さんらしい男性観だなぁ、と納得する部分はあるが、梢江という一人の女性の、なぜ闘いを見せたのかという戸惑いを前にして、「男はみんなこうだから」という一般化によって説明するのはいかがなものか。「男はね……女より尿道が長いから、おしっこが我慢しやすいんだよ」みたいな純粋に器質的な話題ならともかく、常軌を逸したバトルに自分が挑むことの説明になっているだろうか。この後にも、将棋にたとえようとして叱られている(※注3)し、刃牙さんは自分自身を説明するための言葉が少なくて残念、と言わざるを得ない。うまく説明できないので、結局は過去を全て語る作戦に出たのは、客観的には重すぎる行動だが、まあそうなるよなという予想はできる。

 一方で、刃牙さんは控えめに言っても尋常でなく苛酷な人生だったので、これまで誰かに説明などしている暇がなかったし、おそらく住民票とかそういう部分では朱沢(あけざわ)コンツェルンがなんとかしてくれていて、説明の必要もなかったということは納得できる。むしろ肉体と行動のみが先行し、言葉が欠落していることが刃牙さんというキャラクターの根幹なのだろう。

 いずれにせよ、これだけのことを数時間で説明され見せつけられキスされて、ドン引きしなかった梢江のポテンシャルがすげぇと言わざるを得ない。平凡に生きてきた17歳の高校生が受け止められる物量じゃない。いや逆に、17歳ぐらいの人間だけが、恋愛の盲目ぶりを利用してやっと受け止めきれるのかもしれない。松本梢江、包容力最大トーナメントがあったら確実に優勝を狙える逸材だ。

 刃牙さんの場外戦の話が長くなってしまったが、闘技場内での刃牙さんは、そこそこかっこよかった。ふっとばされた加藤清澄(かとう・きよすみ)(※注4)をお姫様だっこで受け止めきってからの、「まさか『アンタじゃムリだ オレがかわる』……なんて言いだすんじゃねェだろな 刃牙ちゃん」「アンタじゃムリだ オレがかわる」(※注5)にはニヤリとさせられたし、この時点で、加藤のかませぶりが末堂さん(※注6)を越えてきた。ズール戦では、まさかの敗北!?というドラマを楽しませてくれた。

 今回、BL成分が少ないんじゃないか?と、読者が暴れはじめる気配を察知したので、ここで、最大トーナメント前半のBL大賞を発表したい。これは、私の好みや妄想を極力排して、作中の描写で最もBがLしていると客観的にみなすことができるカップルに捧げられるもので、私が思いついた時に不定期に開催される。

★お知らせッッ★
 このシリーズを加筆修正し、『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考え続けた乙女の記録ッッ』として、河出書房新社から2019年11月に書籍が発売されました! 電子書籍もあるよ! もちろん秋田書店さんの許可をバッチリと取っております!!
書籍に収録されている範囲は、その1〜その16まで(『グラップラー刃牙』『バキ』までの感想全部)です! ぜひ一家に一冊、いや百冊!! 

 さらにこの奇書を原案として、松本穂香さん主演の実写ドラマ『「グラップラー刃牙」はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』が制作されました!!(WOWOWさんが制作幹事) 2020年8月20日〜10月1日まで、全7回放映! 現在、いろんなサブスクで配信中ッッ! お一人で、またご家族で、そしてご友人とぜひお楽しみください!!

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