「小金井モデル」という困難(4)

  この記事を書こうとしたきっかけは二つであり、一つは立憲民主党の東京のパートナー達は小金井の選挙戦に注目し「小金井モデル」と呼び研究しようとしているらしいということである。もう一つは、同じく立憲民主党の東京のパートナー達から聞いた話だがどうも彼ら彼女らがSNSを過信しているようだということである。これまで書いてきたように小金井モデルはSNSだけで成り立つ話ではなく、また、そのことが、この連載のタイトルにつけた「困難」さにつながる。

 このモデルの一つ目の困難さは、「党外の動き」であるということである。このボランティアチームの中には立憲民主党のパートナーもいたし立憲民主党の市議会議員との連携もあった。しかし、ボランティアの人脈や活動体は党組織が意図的に生み出したものではない。そもそも、候補者個人の応援団であり、党の比例代表候補を応援しないというスタンスである。また、政党と距離を置く市民派の伝統もある。党が組織体やネットワークを作っていくノウハウ・経験・信頼関係は小金井にもあるとは言えないし、他の地域にもあるのだろうか。

 このモデルの二つ目の困難さは、「市民派ソサエティ/ネットワーク」の存在の有無である。小金井では、市内の様々な運動・活動の歴史があり、主体となる人達、アクティビストやオーガナイザーと呼ぶべき人達が多く住み、また、その人達のつながりもしっかりとあった。地域のインフルエンサーやオピニオンリーダーとしての役割も果たしていた。そのような社会文化を持つ地域は都内でもずいぶん限られるのではないだろうか。武蔵野市・三鷹市・小平市・国分寺市・国立市+αといったところではなかろうかと思うが、その中でも今回、小金井市のみでできて他の名前を挙げた地域ではできなかったのか、ということも研究しないといけない。

 このモデルの三つ目の困難さは、あくまで野党支持者の中での票割を行ったに過ぎないということである。新たな支持者を獲得した結果ではないことは、小金井市の投票率が過去よりも低いことで明らかである。立憲民主党ができた当時、代表の枝野氏がいった、投票に行かない50%に響かせる運動ではなかった。政治参加の障壁が高い層は切り崩せていないし、まして、自公支持層には何も響いていない。

 これは困難さではないかもしれないが、このモデルを使ったのは山岸陣営だけではない。小金井市内でもたぶんれいわ新選組・野原陣営も同じことをしていただろう。なぜなら彼らもまた市民派ソサエティ/ネットワークの住民だからである。加えて言うならば、共産党の組織力が強いところでは、共産党が同じことを主導するかもしれない。

 立憲民主党は旧民主党のテレビ政治を引き継ぎ、テレビをSNSにかえメディアのイメージ戦略に頼る選挙戦を続けてきた。twitterをはじめとしたSNSのユーザーには限りがあり、政治に関する情報を収集する人はもっと少なく、また、多くは、ROM専と呼ばれる見るだけの人達である。立憲民主党はできた当初から、SNSで政治を積極的に語る一部の人達に浸透したら頭打ちする運命が、結党当時から明らかであり、そのタイミングが今回の選挙であった。

 小金井の選挙戦は、そういったイメージ戦略にあまり頼らないやり方であった。先の総選挙の枝野氏であれ今回の選挙の山本氏であれ、候補者のメッセージの内容の良し悪しが過度に論評された。けれど、実際は、メッセージは届かなければ意味がない。特に非アクティブな人達はメディアを見ない。候補者や政党の間につないでくれる人を確保し、伝達されるチャネルを形成していくことの重要さを「小金井モデル」は教えてくれると思う。

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