人手不足を嘆く地方の組織が陥る「4つの矛盾」

変化しない職場や地域に「明るい未来」はない

地方の企業や自治体のトップの方々とお話をすると、口をそろえて「人手不足」という言葉が出てきます。実際にはどうなのでしょうか。地方の有効求人倍率はほとんどの都道府県で1.2を超えており、100人の希望視野に120以上の仕事があるという状況にあります。つまり、地方のトップが言いたいことは「地方には仕事がないどころか、むしろたくさんの仕事がある。でもやってくれる人がいない」というわけです。ではなぜやりたい人がいないのか。ありていに言えば、「あまりやりたくない仕事」がたくさん残っているのです。

なぜ地方は「あまりやりたくない仕事だらけ」なのか?

これはなぜでしょうか。背景には、2つの理由があります。1つは地方の人口減少、とくに生産年齢人口(15~64歳)が大きく減っていることです。地方の人口減少の問題点は、幼年人口や高齢者人口ではなく、この生産年齢人口が急激に減っていくところにあります。これは、もはや短期的に回復できるようなレベルをとっくに超えてしまっています。こちらはマクロ要因です。
もう1つは「働き手が寄り付かない組織」になっているということです。

これは、「戦後の人手余り時代」かつ「地域間の情報格差も著しい時代」に適合した人海戦術的な仕事が残っていたり、はたまた若者や女性に不当な人事制度が残っていたりすることによるものです。要するに、マネジメント層が優位だった時代に、働き手側の立場に立っていない「身勝手な雇用モデル」が多数残っているのです。これは個別企業のミクロの要因です。

そもそも、今はインターネットも発達し、全国での求人情報に簡単にアクセスして相互評価できるようになり、圧倒的に働く側のほうが優位に立っています。地方ではこうした事態に気づいていないか、気づいていても放置しているので、「選択されない職場」が増加しているということです。

トップ層が身勝手な話を平気でしている組織や地域からは、若者がいなくなっていくのは確かです。人手不足を嘆くだけで何もしない組織のマネジメント層は、4つの「矛盾だらけの話」を平気でしています。

4つの矛盾だらけの話とは、どんなことでしょうか。それは以下のことです。

1. いい人材がほしいけど、給料はあまりあげたくない
2. 終身雇用はしないけど、会社には忠実でいてほしい
3. 即戦力になってほしいけど、教育投資はやりたくない
4. 積極性がほしいけど、自分には従順に従ってほしい
まず1. ですが、いい人材が欲しければ、権限と報酬を与えることは当たり前です。次に2. は、従来ならば終身雇用という安定性を担保していたからこそ、会社組織に忠実であることを要求できたのであって、雇用が不安定なのに忠実に働くことまで求めることは難しいわけです。

3. は、もし即戦力になってほしいのであれば、より優れた技術や経験を積める研修投資をしなくてはならないのに、「それは個々人でやってね」などと言って、できればおいしいところだけ組織で刈り取りたいということを平気で考えます。

最後の4. ですが、「これから必要なのは、イノベーションだ! 従来と違う画期的な発想を持って行動する積極的な人材がほしい」などと理想を並べておきながら、なんのことはない「自分に逆らうような人は駄目だ」というような具合です。

仕事ができる若い人ほど、辞めていく

冗談のようではありますが、実際に起きていることです。地方に人が来ないのは、確かに生産年齢人口の減少のようなマクロ要因もありますが、私に言わせれば、当事者側の組織問題のほうが大きいのでは、と思うところです。

その結果として、市役所などの行政側からは、仕事のできる若手公務員ほど、独立したり転職する人が増加していたり、都市部へより条件のいい教育や就労機会を目指して出ていったりするわけです。そのほうが合理的だから当然のことでもあります。

以前から地方の会議や、国の経営者が集まる会議で「もっと若者や女性の視点で改善しないと、ますます人が来なくなりますよ」と言っても、「そもそも最近の若い世代は苦労をしようとしない」といったような話で経営者たちが盛り上がってしまい、「ウチなんかこんなに人が来なくて大変なんだ」といった、訳のわからない苦労話に花が咲いて終わってしまいます。

しかも、最後は「外国人労働者を入れていこう」と安い労働力を導入することで、問題を先送りするということも少なくありません。抜本的に仕事を変えたり、人事制度を変更するよりも、はるかに簡単だからです。しかし、これまでやってきた仕組みをまったく変えずに温存しながら、仕事の引き受け手を探し続ける企業の将来の将来性はあるのか、甚だ疑問です。

しかし、こうした状態でも、変化を生み出し始めている地方の取り組みが多数あります。民間だけではありません。

ご紹介したいのが、熱海での民間の取り組みです。昨年から地元の中小企業が以下のような画期的な募集をしたのです。

すなわち「今ある仕事の人手不足解消策ではなく有効に活用できていない資産を使って新たな事業を作ってほしい」「やりたいけれどもこれまで地元の人材ではできなかった広報などの展開をしたい」、ついては「副業としての応募も歓迎」と募集したところ、熱海の人手不足に悩む企業にあっという間に100人ほどの応募が集まりました。

ほとんどのケースで話はすぐにまとまり、応募者は現地で大活躍しています。さらに今年は独自の募集サイトを立ち上げ、副業をしている応募者を積極的に地元中小企業とマッチング、新たな事業の創出を狙おうとしています。

自治体の人材争奪戦が起き「公務員戦国時代」に

さらに、自治体でも大きな変化が見られます。例えば、四條畷市(大阪府)では、東修平市長が2017年の当選後、すぐに全国に女性副市長を公募しました。その結果、リクルート「SUUMO」の元編集長の林有理氏を採用。林さんはその後、大活躍されています。

同市では今年さらに全7職種にわたる中途採用の募集に踏み切り、なんと1100人以上がエントリーしています。テレビ会議を用いた面接を行うなど、徹底的に応募する側の立場に立った採用手法は非常に好評です。しかも、同市は中途採用の本格化と同時に報酬制度や職種の権限も適宜見直しながら、優秀な人材を獲得する方針です。東市長は「これからは自治体の人材獲得が激化し、公務員戦国時代になる」と語っています。

こうした例でおわかりのとおり、従来とは異なる地方の価値を創り出すために、新たな雇用形態を採用したり、募集方法を抜本的に変えたりしたところには、これだけ多数の応募があるわけです。「人手不足だから、どこもかしこも人が集まらない」ということではなく、工夫によっては人が集まるわけです。

結局、「人が来ない、若者が悪い」などと文句を言っているだけで、過去のやり方を変えようとしない組織や地域からは人が去り、今の時代に合わせ、働く側に沿った採用・雇用を推進すれば人は集まります。

そもそもとして、地方に必要なのは人口ではありません。「安く、たくさんが普通で、万年赤字体質」といった既存の産業構造を変え、「稼ぐ地域」に変化を遂げることが何よりも重要です。そのためには、従来の仕事をそのまま次の世代に押し付けていては、地域の持続可能性は担保されません。「人口1人当たりの所得」を増やしていく先にこそ、少ない人口であっても地域は存続します。

地方のマネジメント層の方々は、単に人手不足を嘆くだけでは失格です。地方でも多くの人を集める職場に学ぶことが、多々あるのではないでしょうか。

木下 斉 : まちビジネス事業家
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