雅也の家_切り返し_

亜季と珠子と青空と

 映画『案山子とラケット ~亜季と珠子の夏休み~』の魅力は、佐渡島で撮影された雄大な自然。田圃と森の緑のコントラスト。そして、主演を務めた平祐奈と大友花恋の功績が大きい。彼女たちは初主演という大役を背負って、明るく前向きに役に挑み、カメラの前で常に亜季と珠子であり続けた。

 主人公、小田切亜季は東京からトラウマを抱えて、島を訪ねた中学三年生。それは若さ故の現実逃避と云える。閉塞した都会の生活に耐え切れず、父の住む島に新天地を求めたのだ。亜季は学校や家庭でトラブルを抱えているだけでなく、過呼吸(過換気症候群)を患っている。これは、ある種の精神疾患で、劇中で演じるには困難を極めただろう。主演が二人存在しても、主人公は一人しかいない。その大役を若さで演じ切った。


 亜季の相棒、松丘珠子は明るく前向きなお転婆娘。東京へ行ってみたいが為に亜季を巻き込み、インターハイを口実に東京に出る。この無邪気な嘘が愛らしい。劇中で珠子の成長は三点しか語られない。母・松子に「食っちゃ寝、食っちゃ寝」と窘められる場面、兄・大樹が亜季に「こんなに一生懸命なの初めてなんじゃないか?」と云われる場面。そして、クライマックスで自分たちを支えてくれた大人たちに正対して「有難う御座いました!」と言う場面。それでも、珠子の成長は垣間見れる。珠子の快活な表情あってのことだ。


青春賛歌の直球映画。これは、若い女優たちが、愚直に溌溂と挑んだ青春の記録でもある。彼女たちは、これから大きな青空へと飛翔することだろう。

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