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今日の一曲 #4【わかってほしい / ゆらゆら帝国】

※注意
 当記事は投稿者の個人的な見解と自己満足によって成り立っています。「自分語り乙」「隙自語」といった具合にアレルギー反応を示す方にはブラウザバックを推奨します。


 ゆらゆら帝国を知ったのは3年ほど前。新型コロナのパンデミックで家に籠るのが日常的になっていた頃のこと。暇を持て余していた僕はサブスクやYouTubeを駆け回り、退屈な日々から自分を引き剝がしてくれる音楽を探し求めていた。
 そして、とあるアルバムのジャケットに目が留まった。言わずと知れた名盤、「空洞です」だ。ゆらゆら帝国というバンド自体はよく知らなかったのだが、そのジャケットだけは見覚えがあった。当時よく見ていたYouTubeチャンネル「みのミュージック」で度々取り上げられていたからだと思う。どの動画でもみの氏は絶賛していたし、コメント欄でもゆらゆら帝国への賛辞が数多く見受けられた。それで印象に残っていたのだ。
 ふむ。ぜっかく時間があるのだし、ここはひとつ新しい音楽に踏み込んでみようか。解散後もこれだけ支持を集める理由も分かるかもしれない。その謎を解明するため、我々調査隊はアップルミュージックでゆらゆら帝国のページへと向かった—―。

 まずはトップソングの一番上にある「空洞です」を再生してみる。新しいアーティストを聴くときはとりあえず最も人気のある曲を聴いておけば間違いない。そんな、普通に考えれば真っ当な思考からの行動だった。
 結果、よく分からなかった。スカスカな音に感情の全く乗っていない歌声。歌詞にこそ惹かれる部分はあったものの、何故この曲およびこのバンドがこれほど持ち上げられているのか見当もつかなかった。僕には合わないのかな、と見切りをつけそうになったほどだ。

 まてまて。一曲だけで判断するのは早計すぎる。よく見れば「空洞です」はゆらゆら帝国がキャリアの最後にリリースしたアルバム。素っ裸のままラスボスと対峙しているようなものじゃないか。僕の耳はゆらゆら帝国を聴くに足るものに育っていないのだ。
 ならば古い作品から順に聴くことにしよう、と思い立った3年前の僕を今から抱きしめに行ってやりたい。あの時引き返していたらと思うとゾッとする。このバンドとの出会いを皮切りに僕の音楽的嗜好は更なる広がりを見せてくれた。マジでナイス自分。ありがとう。

 こうして出会った楽曲が、サブスクで聴ける最古のアルバム「3×3×3」の一曲目「わかってほしい」だ。導入が長くなってしまったが、僕をゆらゆら帝国に夢中にさせてくれた一曲なので熱くなるのも勘弁してほしい。


 初めて聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。出だしの轟音は僕の脳みそに容赦なく食い込み、一生消えることのない傷をつけていった。とくに心を奪われたのは刃物のように鋭利な坂本慎太郎のギターだ。これまでV系やメタルといったラウド系の音楽を好んでいた僕には新鮮な音色だった。
 この音を目の当たりにすると、ゆらゆら帝国がスリーピースであるという点にも驚かされる。3人でこれだけの音圧が出せるなんて。しかもやかましさや不快感は全くなくて、いつまでも聴いていられる。

 いきなりの爆音に呆気に取られているのもつかの間、突然歌が入ってきてさらに度肝を抜かれる。独特な声と歌唱。歌っている人の人間味が匂ってこない不思議な体験だ。かと思えば突如奇声を発し、狂気的な演奏へと続いていく。それに酔いしれる間もなく、また歌に戻っていく。この曲はたった2分半程度にも拘らず目まぐるしい展開を見せてくれるのだ。

 歌詞についても少し触れておきたい。

雲が太陽をかくした
雨が彼女を湿らせた
俺達何も変わらない だけど
どうしてお前は泣くんだ?
〇か×の夢
〇か×の今日
〇か×の明日
〇でも×でもないもの
わかってほしい わかってほしい わかってほしい

 一度目では完全に理解できないから何度でも聴きたくなる。聴く度に発見がある。この曲も然り、坂本慎太郎の歌詞にはそんな魅力がある。
 この歌詞を見ると、かつてタワーレコードのポスターで坂本慎太郎が残したあの言葉が思い出された。

音楽は役に立たない。
役に立たないから素晴らしい。
役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。

坂本慎太郎 NO MUSIC, NO LIFE.メイキングレポート 

 歳を重ねると人は様々な部分が変わっていくが、中でもあらゆる物事に合理性や明確な意味を求めるようになってしまうことはとても悲しいことだと思う。電子書籍で完結する時代にわざわざ紙の本を買ったり、サブスクで事足りる時代にCDやレコードを買ったり。上手くいかない恋愛を頑張って続けてみたり、安定を捨てて夢を追いかけたり。これらに意味を問うのはあまりにも野暮だ。正論が常に正しいわけではない。心に無防備な部分を残しておくのが人間らしさだと思う。

 坂本慎太郎がこの曲で訴えているのはこういうことだったんじゃないかと僕は考えている。もちろん正しいかどうかは分からない。坂本慎太郎がわかってほしいことは何だったのかを知りたいから、僕はゆらゆら帝国の音楽を聴き続けている。


 序盤にも書いたが、最初に「空洞です」を聴いてゆらゆら帝国の魅力がいまいち分からなかったという経験をした人は少なくないと思う。そんな人は是非昔のアルバムから順番に聴いて行ってほしい。
 野性的なガレージロックサウンドが楽しめるメジャー初期。実験的なアプローチが楽しめる中期。引き算の芸術を完成させた後期。順を追って聴くことで彼らがどんな道程を辿って「空洞です」に行きついたのかが分かるはずだ。「3×3×3」は入り口として非常にオススメなので、未聴の方は是非とも「わかってほしい」の衝撃を味わいに行ってもらいたい。


 ゆらゆら帝国は今後も度々書くことになりそう。では今回はこの辺で。


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