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今日の一曲 #5【愛のテーマ / 毛皮のマリーズ】

※注意
 当記事は投稿者の個人的な見解と自己満足によって成り立っています。「自分語り乙」「隙自語」といった具合にアレルギー反応を示す方にはブラウザバックを推奨します。


 先日従姉妹の結婚式に参列したのだが、あまりにも美しいひと時でこっそり泣いてしまった。

 結婚式はやらなくていいのでは?という派閥の僕だったが、初めて結婚式を見て、しかもそれが幼い頃から仲良くしていた従姉妹の式ということもあり、感極まって溢れてきた涙が僕の捻くれた心をすっかり溶かしてしまった感じだ。もちろん参列者のお金や時間をいくらかいただく形にはなるけれど、愛し合う二人が築き上げてきた幸せを惜しみなく披露された参列者の辞書からは、損得勘定という言葉がいとも容易く消え去ってしまう。圧倒的な幸福を目の当たりにすると、二人の末永い幸せを願う気持ちで心が支配されてしまうのだ。「もし僕が結婚する日がきても式は挙げないかな(笑)僕なんかの為に時間もお金も使ってもらうのは何か悪いし(笑)」といった具合にすかした態度をとっていた過去の自分を説教してやりたい。


 このままだと自分語りが過ぎるので本題に。結婚式の帰りの新幹線でずっと聴いていた曲の話をしようと思う。毛皮のマリーズが後期にリリースした『ティン・パン・アレイ』の収録曲、「愛のテーマ」。結婚式の余韻のまま聴くと、「僕が結婚式を挙げるなら絶対にこの曲を使おう」なんて妄想が自然と搔き立てられる曲だ。
 純粋で真っ直ぐなラブソング。歌詞は一見平易な言葉で構成されているけれど、だからこそ何年経っても聴かれる普遍的な名曲となり得た楽曲と言えるだろう。

 曲調やMVからは60~70年代の香りが漂っている。曲はビリー・プレストンの「Nothing from Nothing」っぽさがあるし、MVはビートルズの「Hey Jude」に似ている気がする。この曲に限らず、マリーズの曲に対して「なんだ、昔のロックのパクリかよ」という意見は少なくない。しかし僕は、彼らがただ模倣を繰り返すだけのバンドだったとはとても思えないのだ。その最大の理由はフロントマンの“志磨遼平”という存在、とくに彼の声にある。

 彼の声は好き嫌いが分かれる。一歩間違えれば素っ頓狂で面白い声にも聴こえてしまいそうだけれど、僕はそんなひねくれた少年みたいな声がたまらなく好きだ。その声は無邪気に聞こえる一方で、豊富な経験によって擦り切れていて、それ故にたくさんのことを知っているから、僕たちを次から次へと知らない世界へ誘ってくれる。それは彼の声でなければ成り立たないマリーズ(並びにドレスコーズ)の楽曲たちが作る世界だ。
 志磨遼平は学生時代からたくさんの音楽、文学、漫画を嗜み、それらのエッセンスを下地に曲を生み出し続けている。たしかにそれは過去の作品の模倣のようなものも含まれているのかもしれないが、それを彼自身のオンリーワンな作品たらしめている秘密は、間違いなく彼の声にある。


 そろそろ歌詞の話をしよう。全文触れたいところだがそれほど時間の余裕もないので、特に気に入っている箇所を語らせてほしい。

そうだ二人の距離それがこの世界の直径
そしてそれを縮めていく人類の歴史
ねえ結婚しようよ 子供を作ろうよ
こうして世界は一つになるのだ

 唐突だが、僕は恋バナが苦手だ。人の話を聞く分には一向にかまわないのだが、自分の、しかも今現在付き合っている人とのエピソードを大っぴらに語るのが好きではない。SNSに思い出を載せたりするのも気が引ける。
 僕にとっての恋愛とは、僕と相手二人だけが行くことのできる世界を作ることだ。そこに他人の踏み入る余地は無いし、その中で行われるすべての出来事は二人だけの大切な宝物として隠しておきたい。“僕と君しか知らないこと”が増えていくってすごく素敵なことだと思うんだ。でも、人生でたった一度だけその宝物を自慢するとしたら、結婚式でそれをやりたいと従姉妹の式に心打たれた今は思うよ。
 そんな僕だからこそこの部分にはすごくしっくりきた。誰も入ることのできない僕と君だけの小さな世界が縮まっていって、それがひとつになることを夢見る。これぞ「愛のテーマ」と名付けられた楽曲に相応しい歌詞だ。

 そうそう。先ほど志磨さんの声について熱弁したが、「ねえ結婚しようよ」「子供を作ろうよ」の部分はまさしくその声の魅力が発揮されていると思う。少年のような無邪気さは大人の目から見れば無責任でいい加減に聞こえるけれど、そこに込められた想いは純粋で淀みない真実だ。「結婚しようよ」だなんて重大な申し出をサラッと歌ってしまう志磨さんからはまっすぐさが感じられて、そんな裏表のなさがたまらなく好きになってしまうのだ。

古い話をするのはあんまり趣味じゃない
だってまだまだ良くなりそうだから
ねえ愛してるよ 愛してるよ
君だけをそう 世界が終わるまで

 一人の人と長く付き合っていると、良いことは勿論だが良くない局面もたくさん経験する。それこそ僕は、一人の人と二度別れて二度復縁したことがある。この一件についての周囲からの意見は圧倒的に疑問が多かった。あんな想いをしたのにどうしてまた、と。もちろん浮気などの信頼そのものを失わせるようなことがあれば話は別だが、僕はそうでない限り一度好きになった人への想いを断ち切ることができない。何度終わりを迎えそうになっても、どこかで「まだなんとかなるんじゃないかな」という確信に近い期待があるのだ。その理由を聞かれても直感としか言えないのだが、そもそも恋愛なんてそんなものだと思う。
 この歌詞は呑気に構えているようで、それほどの信頼に足る相手がいることの幸福を歌っているのだと思う。


 原曲も最高だが、ライブバージョンもオススメしたい。
 YouTubeではマリーズ、ドレスコーズ含めていくつかのライブ映像を見ることができる(ドレスコーズ公式チャンネルのライブフル動画がオススメ)し、サブスクでは昨年の味園ユニバース公演の音源を聴くことができる。

 未聴の方は是非。ではまた今度。 

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