見出し画像

愛しのおまんじゅう

トッパレの余韻に浸りつつ、今書いている。客の票でその日の面白さをランキングする形式をバトルライブと呼ぶ文化をこのあいだ初めて知って、"バトル"という言葉の強さに思わず笑ってしまった。賞レース、という言葉に対してバトルライブって、あまりにもホビーアニメの語彙で好きだ。体調の都合で今回も劇場で観ることは叶わず配信を購入したが、いつか絶対に生で観に行きたい。

まんじゅう大帝国

7/27時点でトッパレ四連覇を達成したまんじゅう大帝国。2023年ツギクル芸人にも出場した実力者で、爆笑問題率いるタイタン所属の芸人だ。お笑いライブ制作会社K-PROのライブに主に出演しており、"ナルゲキ四代エース"の一角として劇場から愛されているコンビのようだ。また、二人とも大学時代に落語研究会に所属しており、その縁もあってか落語メインの寄席に漫才師として呼ばれることもあるようだ。

YouTubeではタイタンのチャンネルにネタがアップロードされている他、まんじゅう大帝国チャンネルでは週2でウェブラジオと"2023年◯月"という無骨なタイトルの漫才動画が月イチで上がっている。この月イチの漫才がバトルライブで披露する新ネタなのだが、その月にあったニュースを軸にした時事ネタが中心だ。これが本当に強い。爆笑問題の後輩としての意地なのだろうか。毎月ニュースを素材に面白いネタを作れるの、無限であり無敵じゃないのか。

まんじゅう大帝国の漫才は、竹内さんの大仰な表情や動き(もうサムネでお察しかと思う)で笑わせるボケが直感的に面白く、田中さんもあまり強くツッコミを入れずほどよく乗っかっていくものが多い。とにかく明るくトンチキな竹内さんを冷静な田中さんが並走しながらテキパキ処理していくような形だ。

個人の好みなので深くは言及しないが、私は正直テレビのバラエティが好きではない。芸人って芸を売る仕事だよな?という固定観念が私にはあるので、仕切りが面白いとかリアクションが面白い芸人にあまり魅力を感じず、また、芸能人いじりみたいな身内ネタも正直言って興醒めだった。純文学が好きな性分も相まって、普遍的な素材を面白く魅せられることこそが技量だと思っているところがある。

だからこそ、まんじゅう大帝国が"くだらない"を二人で掘り下げ続けるお笑いが堪らなく好きで、憧れる。ツッコミの田中さん頻出ワードが「たしかにな」なのがもう、最高だ。「知らねえよ」や「どうでもいいよ」ではない。ボケの竹内さんも、聴衆も、決して突き放さない。その空気感が、配信で見ていても心地いい。

ラーメンズ、落語

私はラーメンズのコントが好きだった。小林さんが得意とする緻密な言葉遊びに震え、片桐さんの問答無用のキャラクターの爆発力にひっくり返った。賢いんだけど馬鹿馬鹿しい、引くほど巧みだけどベタな素直さもある芸風。何となく、ラーメンズが漫才をやったらこういう感じのネタもありそうだな…なんて、まんじゅう大帝国を見ていると夢想してしまう。愛嬌と、巧妙さのバランスがそう思わせるのだと思う。まんじゅう大帝国、長尺でちょっと泣けるような漫才とか、客席が引いちゃうような怖い漫才とか、やってくれないだろうか。ラーメンズのコントのように、色んな景色を見せてくれそうだなと思っているが、それって、もはや"漫才じゃない"のだろうか。

まんじゅう大帝国の二人の所作や間の取り方、そして言葉遊び的な笑いの種類が"落語"だとよく評される。当時全く触れていなかったから分からなかっただけで、要は、ラーメンズも、かなり"落語"だったのかもしれない。

今もよく落語を知っているとは言えない。新宿の寄席を観に行き、YouTubeの立川志らく師匠の噺&解説を見漁り、かねてより勧められていた元禄昭和落語心中のドラマを観たところだ。
落語に興味をもったきっかけはバキ童チャンネルだった。また語りたいと思うが私は兼ねてからバキバキ童貞、転じて春とヒコーキのファンである。ぐんぴぃ氏が所属していた落語研究部のエピソードを語る回、土岡さんが落語をやる動画を観て、どうしても彼らの落語を観たいという理由でタイタンオチケンというライブイベントに足を運んだ。

二人とも上手で面白かったのだが、対バン(という言い方が正しいかは知らない)相手のまんじゅう大帝国・田中さんの落語に心を奪われてしまった。演目は「堀ノ内」。話の筋としては粗忽者の男が自分の"うっかり"を直すためにお詣りに行くが、行く先々でも連発して─といった小ボケが多い話で、男の奥さんも粗忽者という設定なのでツッコミが少なくダブルボケ的なやり取りが面白い。
田中さんの柔らかな声と決してオーバーではない自然な演技が「できないんだから仕方ないよねえ」的な緩くて懐の深い笑いを引き立てていて、私は大喜びしてしまった。

田中永真という男

そういうわけで、すっかり私は田中さん推しだ。思わず調べた公式プロフィールから、田中さんは私の母校・東京理科大学に在籍し、弱小落研から学生落語の大会優勝を果たした男だと知った。
信じられない。
文化系の方はご存知ないと思うが、東京理科大学とは理科系大学の中でも屈指の指導の厳しさ、進級の難しさを誇るクソ大学である。学業と落語を両立してあんなに面白いものを……?というか、そもそもなぜ芸人志望なのに理科大なんて色気のない大学に……?好奇心が抑えられず、どこかでエピソードを話していないかと彼らのウェブラジオを聴く日々だ。

まだ全てのバックナンバーを聴いたわけではなく、初回から遡りながら更新された最新の回を反復横跳びしている。思ったより、田中さんはキツくて面倒な男のようだった。冒頭から途方もないボケを連発したり、竹内さんの言葉尻から語感でボケる。芸人のスタンスや世の中のメインストリームを腐してみたり。一方で竹内さんは全く変わらない。ニコニコと自身の粗忽者エピソードを語り、田中さんのボケを上手く処理できず逆にツッコミを入れられる。
最近はコンテンツは好きでも演者を知りすぎると嫌いになるとか、界隈推しすると仲違いでツラいとか、演者と近すぎる故の困り事がある。しかしまんじゅう大帝国の二人はエンタメにならない程にプライベートなエピソードは喋らないようで、SNSもメシ!芸人仲間!以上!というサッパリとした感じだ。定期更新はあるけど人生を切り売りしすぎない安定感、とても推しやすい。分かったようなことばかり書くが、オタクから見える一方的な"ありがたポイント"の羅列なので許して欲しい。

推し活のススメ

ウェブラジオを聴いていて心を鷲掴みにされたのが、ツギクル芸人収録後の回だ。

田中「また頑張りますんで、はい。なんか、長い目で見てください。そんなまさか優勝すると思ってなかったでしょ?どうせ。どうせ!なんかヘラヘラしてるし。なんか真剣じゃなさそうでしょ?真剣なんだけどね。別に」
竹内「真剣です。」
田中「どっかで思ってたでしょ?なんか面白いけど、優勝するわけねえ!みたいな。あったでしょ?どうせ。そのとおりなんでね。」
竹内「君たちの思い通りになった…
田中「思い通り。推しやすいだろ!お前らの思い通り動くから。理想的だろ!」

ごめん、思ってた。
いや、優勝してほしいと思いながら観ていたのは本当だが、正直、でもまんじゅうはTHE SECONDまでまだまだあるしな〜的な変な考えが底にあったのも否定できない。ごめん、ほんと、M-1でも勝って欲しいんだけど、それよりもTHE SECONDで勝ってるビジョンの方が遥かに強い。なんというか、囲碁将棋みたいな身の立て方をしてくれたらすごいいいな、とか思ってしまっている。

竹「いつかなあ、びっくりさせるつもりだよ
田「そうだよ。裏切ってやりたいよなあ、皆の気持ちをさ
(この後、マイナーな推しに浸るファンへのdisり。サブカル女の私はめちゃくちゃに刺されて笑った。聴いて欲しい。)

本人達はまだ8年目で、賞レースを決して諦めてはいないし、劇場の外でやりたいこともたくさんあるのだろう。クウォーターライフクライシスについて以前書いたが、私と同じ世代の彼らもその渦と隣り合わせなのだろうと思うと、とにかく、応援したい。まんじゅうはこれだよな〜とかコアなファン面で見つめて、いつか心からびっくりしたい。彼らの思い通りに。

まんじゅう大帝国はYouTube配信等の投げ銭チャンスがない。グッズも今のところ再販がなさそうで、とにかく劇場に足を運ぶのが唯一の推し活だ。一刻も早く肉体を戻して、会いに行かなくてはならない。なにより、バトルライブでは客の票で優勝が決まる。次は強敵のザ・ギースと頂上決戦だ。投票に行かなくては。バトルライブに、期日前投票はないのだ。

#推しの芸人

この記事が参加している募集

推しの芸人

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?