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この3冊 タモリ

①天才バカボン 全21巻
(赤塚不二夫/竹書房文庫)

②エロチック街道
(筒井康隆/新潮文庫)

③エロ事師たち
(野坂昭如/新潮文庫)

こんにちは、本人に一度も会わずに、『タモリ論』などという大仰なタイトルの新書を上梓した自称文豪です。毎日新聞から「タモリをテーマに3冊選べ」という無茶すぎる指令が下り、一度はお断りしようとしましたが、憧れの和田誠さんに自分の顔を描いてもらえると知り、人生最大のチャンスとばかり引き受けました。

私は拙著でタモリを「絶望大王」と定義づけました。そうでなければお昼の生放送の番組を32年間も続けて気が狂わないはずがありません。そんな底なし沼のような深い闇を持った男をテーマに書くなど土台無理な話なのですが、「タモリを作った3冊」ということで、すべて私の推測で書き散らすことをお許し下さい。

まずはタモリを世に送り出した大恩人赤塚不二夫の作品は欠かせないでしょう。私は赤塚先生のことを「あらゆる意味からの解放を目指した革命家」だと思っていますが、自らを「作品の一部」と呼んでいたタモリも同意してくれるでしょうか。『おそ松くん』 『もーれつア太郎』 『ギャグゲリラ』など、古典とも言えるヒット作は多数ですが、ここはベタに『天才バカボン』でいかがでしょう。竹書房文庫の第1巻だと、タモリが「赤塚不二夫はバカの天才だ」と書いた解説が載っています。

次はタモリがデビュー前に密室芸を披露していたバー「ジャックの豆の木」の常連客の一人だった筒井康隆から。日本SF界の「虚人」の半世紀に及ぶ作品の中から一作を選ぶことなど、いまだ果ての見つからない宇宙から惑星を選ぶことに等しいですが思い切ってハイこれ! 短編集『エロチック街道』。その中の一編「ジャズ大名」は、奴隷黒人が江戸時代の日本に来てジャズを広めるという奇想天外な佳作。岡本喜八監督で映画化されてタモリもワンシーンに出てきますし。

最後は、タモリが思想模写の対象にしていた人たちも影響下にあったと思うので、寺山修司か和田誠かと考えましたが、野坂昭如から代表作の『エロ事師たち』にしました。出版当時タモリは早稲田の学生でしたし、その時代の若者の素養(死語ですね)として読書家のタモリが読んでいないわけがなく、何より人間のおかしみと悲しみとエロスを同時に描いたその内容は、人間森田一義が芸人タモリに託したものだと思います。そうなんです、絶望大王のタモさんも、みーんな悩んで大きくなった!


「毎日新聞」2014年5月4日付

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