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【第1話】主人公を裏切れ!

「俺は、伝説の公募ハンター、裏木里央(うらぎ りお)。俺の手にかかったら、どんなラジオCMのコンテストだって、必ず受賞できるんだ。なぜなら俺には最強の必殺技が…」

「…リオくん、一人で、なにブツブツ言ってるの?」

「君は、須戸麗子(すと れいこ)ちゃん! なんの捻りも驚きもアイデアもない、いたって普通のラジオCMを量産し続ける、レイコちゃんじゃないか!」

「そんな悲しい紹介しないでよ」

「フフ、そうか。僕に添削してもらいたくて、やってきたんだね」

「クラスの隅で、寂しそうにしているから、来てやったんだけど」

「ほら、その作品を見せてみな。どれどれ?」

「あ、勝手に見ないでよ」

「これは、文化放送ラジオCMコンテストの作品だね」

「課題はカチタス。自信作よ!」

男「どうしよう。自分の家、古すぎてどこにも買い取ってもらえないよ」
スタッフ「私に任せてください」
男「あなたは?」
スタッフ「おうち買い取りの、カチタスです!どんな家も買い取ります!」
男「ありがとう」
NA「おうち買い取り、カチタス」

「…レイコちゃん、正気かい?」

「え、正気だけど」

「こんなの、2秒でシュレッダー行きだよ」

「え」

「ストレートすぎる!!!」

「うーん、分かりやすいと思ったんだけど」

「いいかい?ラジオCM ”コンテスト” なんだぜ。審査員に少しでも驚き与えるような作品じゃないと、即シュレッダー行きだ。レイコちゃんの作品は、「驚き」の「お」の字もない。いたって普通で、あくびが出る展開だ」

「リオくん、ラジオCMのことになると、饒舌になるのね」

「では、驚きを作るにはどうすればいいのか。その一つに、”裏切り”というテクニックがある」

裏切り?

「例えば、こうだ」

男「どうしよう。自分の家、古すぎてどこにも買い取ってもらえないよ」
スタッフ「私に任せてください」
男「あなたは?」
スタッフ「おうち買い取りの、カチタスです!どんな家も買い取ります!」
男「ありがとう、これで安心して、成仏できる」
SE「スゥ…」(成仏の音)
スタッフ「え!?」
NA「心残りのない売却を。おうち買い取り、カチタス」

「え、スタッフが話してた相手は?」

「あぁ、幽霊に変えた」

「えええええええ」

”普通の人間、かと思いきや、幽霊だった” という裏切りを、仕込んだんだ」

「なるほど」

「過去には、女だと思ったら、男だった作品。人間だと思ったら、犬だった作品など、主人公を裏切るパターンで受賞している作品は多くある。主人公だけではなく、話し相手を裏切るなど、応用もできそうだ」

「ほうほう」

「そして、最後のキャッチコピーで、その裏切った内容と絡んだコピーを書くと、腑に落ちてくれるケースが多い。まぁ、そこは、できればぐらいでいいと思う」

「ありがとう! じゃあ、この作品使っちゃうね!じゃあね!」

「レイコちゃん、最後に一言、言い忘れたことがある」

「なに?」

盗作は、死刑だ」

「…分かったわよ。使わない!約束する!」

「その約束は、裏切るなよ」


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