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「認知症の見方 捉え直して」(信濃毎日新聞 掲載記事全文)

 認知症の見方 捉え直して(記者:園田清佳氏)

       <レビー小体型診断 樋口さん長野で講演>

 50歳でレビー小体型認知症と診断された樋口直美さん(54)=千葉県在住=が10月31日、長野市を訪れ、講演した。原因となる病気や症状、本人が困っていることは多様なのに、「認知症」は十把ひとからげに捉えられていると指摘。病気への誤解や無用な不安を生み出す要因になっていると訴えた。 

        <妻、母として生活 執筆も>

 レビー小体型認知症は早期は記憶障害が出ないことがあり、誤診も多い。樋口さんも不眠や頭痛が続いた41歳のときにうつ病と診断された。6年にわたる抗うつ剤の治療中に体調は一層悪化。本当にうつ病なのかと疑い、書籍などで調べた末、9年越しで正しい診断にたどりついた。

 若年性のレビー小体型認知症について書籍には「進行が早く、余命は短い」と書かれていた。進行を遅らせるためにできることを医師に質問すると、「できることはない。今まで通りに生活してください」と言われ、命綱を断ち切られたような思いだったという。

 一方、誤診の後も、妻として2人の子どもの母としての生活を続けており、41歳の時点で既に発症していたと考えれば「進行は遅いのでは」とも考えた。

 いまは抗認知症薬で治療を始めて3年。時間や空間の認知機能障害、血圧の乱高下などの自律神経障害、意識がはっきりした状態で幻視が見えるといった症状はあるが、思考力は保たれているという。

 こうした診断と治療をめぐる曲折、病気の日々と折々の気持ちをつづった日記は昨年、「私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活」(ブックマン社)として出版され、日本医学ジャーナリスト協会賞書籍部門優秀賞を受けた。現在も体調が許す範囲で執筆、講演活動を続け、当事者の目線で認知症医療とケアについての提言を続けている。

         <「適切な治療で良い状態保てる」>

 「適切な治療とケアで、良い状態は保てる」と樋口さんは実感する。全国にはアルツハイマー型認知症と診断されてからも、記憶障害をメモで補いながら会社勤めを続ける人や、1人暮らしを続けながら講演する人もいる。医師による告知の時から、偏った乏しい情報で絶望する人が多い現状を踏まえ「認知症の定義や捉え方をゼロから考え直してほしい」と訴える。

 講演では、若年性認知症の当事者が自動車販売店の洗車などをして働く東京・町田市のデイサービスセンターも紹介。自立支援の一環で、「認知症では無理」という決めつけと闘いながら、仕事を開拓していると話した。

 樋口さんは「認知症を巡る問題の多くは、人災」と言う。自身も病名を明かすたびに哀れみの目にさらされた。「この病気になると人間と思われないんです」。一方で、認知症は早期に発見する技術が進み、診断されてからも人生は長く続く。

どんな生きがいを持ってその人らしく暮らしていけるか、若い人ならどうしたら仕事を続けていけるのかを考えてほしい」と呼び掛けた。

 講演は長野市の主催。認知症患者の支援に関わる行政、福祉関係者や市民ら約300人が耳を傾けた。

            <レビー小体型認知症とは>

 アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並んで患者が多い三大認知症のひとつ。レビー小体と呼ばれる特殊なタンパク質が大脳皮質の神経細胞などにたまって起こる。

代表的な症状に薬への過敏症があり、正確な診断と適切な投薬が不可欠。他の症状に、大きい寝言、便秘などの自律神経障害、調子の良い時と悪い時の激しい落差、リアルな幻覚、前傾姿勢や小股歩行なども。症状や程度は人それぞれで、早期には記憶障害が見られない例がある。

 【2016年11月11日付 信濃毎日新聞・くらし】


*樋口直美公式サイト https://peraichi.com/landing_pages/view/naomi

*私の時間感覚の障害 https://note.mu/hiiguchinaomi/n/n8da1f271f912

*認知症医療に提言(10分間プレゼン原稿全文)https://note.mu/hiiguchinaomi/n/n78f9ef7cde93

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