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船長の大冒険

日曜日の遊園地は、いつもの週末のごとく、大勢の人々でにぎわっている。大はしゃぎで走り回る子供たちと、それを追いかけ回す大人たち。ジェットコースターは風を切りながら悲鳴をはこび、メリーゴーラウンドの馬はガタゴトと人々の体をはずませる。

海賊の格好にどくろの帽子、眼帯までばっちりと決めこんだ少年は、遊園地の喧噪の中を、あっちへとぼとぼ、こっちへとぼとぼと歩いていた。遊園地のお馴染み、迷子の子供である。

少年は立ち止まり、ひどくつかれた表情で空を見上げた。しかし、我が子を追いかけ回す大人たちの、慌ただしくうごめく影のせいで、空の端さえも覗くことができない。

とうとう目袋が熱くなり、視界がじわりとかすんだ少年の頬を、何かやわらかいものがさらりと撫でた。

ぼやけた視界を手の甲で拭った少年は、目に入る光景にぽかんと口を開けた。頭のまわりを、顔付きの派手な風船が三つ、ふわふわと周っているではないか。

黄色の風船は、片方の眉をくいと上げて言った。「よう、泣き虫船長。何をめそめそしてるんだ?」

あっけに取られる少年に構わず、緑色の風船が口を尖らせた。「あんたってば、ほんとに口が悪いんだから... ねえねえ船長、どうしたのさ。」

少年は黒目を上下左右にぐるぐると動かしながら、声をふりしぼった。「ぼく.... ぼく、迷子。きみたちは一体、なんなの?」

赤色の風船が、目を大きく見開いた。「まあ、それはいけない!私たちはあんたの仲間よ、船長。ほら、つかまって!」

三つの風船から垂れ下がったひもが、しゅるしゅると少年の手に絡みついた。あっけに取られた一瞬の直後、少年の肩はぐいと勢いよくしなり、小さな体は一気に空へと舞い上がった。とっさに押さえたどくろの帽子のつばが、風に当たってぱたぱたとなびく。

宙にぶらりと下がった二本の足のあいだで、遊園地はどんどん小さくなっていく。園内を駆け回る人々は、まるで砂場をせわしく歩き回るアリのよう。

「一体、どうなってるの!」少年は頭上に向かって、大声を上げた。

黄色の風船が叫んだ。「そりゃあ、あんたの親分を探すのさ、船長!」

「しっかり、手を離すんじゃないよ」緑色の風船がまじめな顔で言った。

すかさず赤色の風船が叫ぶ。「ほら、目をこらして、船長!親分を見つけるわよ!」

少年はぐっと歯を食いしばり、下を見た。駆け回る人々の中に、見覚えのある大きな背中が目に入った。汗でTシャツに大きな池を描いたその背中は、あっちへとぼとぼ、こっちへとぼとぼと動いていた。

「あれだ!」少年が指をさした。すると、三つの風船たちは少年の視線の方向へ勢いをつけた。

とぼとぼと動く目標地点の真上につけると、風船たちは叫んだ。「降りるぞー!」

一瞬の安堵のあと、少年ははっとした。降りるって、どうやって?

少年が頭上を見上げると、風船たちは奇妙な音を立て始めた。シューシュー、シューシュー。音に合わせて風船たちはどんどん小さくなり、空が遠くなっていく。

少年はあんぐりと口を開けたまま、小さくなっていく三つの色を眺めていた。

突然、少年の太もものあいだに、熱くてごつごつしたものが当たった。気がつくと、少年は大きな背中に肩車をして座っていた。背中の主は大変に驚いて、その場でくるくると回転した。

少年の手から垂れたひもの先端から、「船長!」と無邪気な声が聞こえた気がした。

・・・

卓上ゲーム「Dixit(ディクシット)」の絵カードをランダムに1枚に引いて、短時間で作品をつくります。

今回のはとても難しかったです。お察しの通りかもしれませんが、納得いくストーリーにならず話が長くなってしまい、悔しい思いです。可愛いらしい絵が、突然牙を剥いてきたような感覚です。書き途中で眠りに落ちてしまいました。

前回の作品はこちら。


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