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読書記録

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誰にも壊せない幸せ【後編】

カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』をAudibleで聴いた感想を、2回に分けて書いています。後半のこちらはちょっとネタバレを含みますので、知りたくないという方は、ここで止めておいていただければと思います。 この小説の舞台となっている世界には、明確な分断があります。 もし私達がこの社会において、自分たちの家族や仲間の命を救うため、健康を守るために、「臓器を提供してくれる、ある種の人間がいてもいい」という考え方が当たり前になっていたらどうしますか。 この小説の中

誰にも壊せない幸せ

カズオ・イシグロさんの『私を離さないで』をAudibleで聴いたので、その感想を書こうと思います。 まず、カズオ・イシグロさんについてですが、長崎県出身で両親とも日本人ですが5歳で家族で渡英して、その後イギリス国籍を取得しています。実は日本語は話せないそうです。 2017年にはノーベル文学賞を受賞されたことは、日本でも大きなニュースになっていましたね。 この『わたしを離さないで』は『日の名残り』と並んで、カズオ・イシグロさんの代表作です。 私は『日の名残り』は以前読ん

自己分析って必要?

昨日の夕方『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』という本を読んで思ったことを書いたのですが、今日たまたま次に『メモの魔力』という本を読んで、自己分析についてさらに疑問が湧きました。 『メモの魔力』は、㈱SHOWROOM社長 前田裕二さんのベストセラーですね。前田さんがメモをどんなふうに活用してきたのか、そのメモの書き方と利用の仕方について詳しく解説されています。 このなかで前田さんは、ものごとの「抽象化」ということを非常に強調していて、巻末には自己分析としての100

自己分析について思った

中田敦彦さんのこの動画を見て、『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』という本を読みました。本の中に出てくる、自分に対する質問がすごく面白そうだったんですよね。 著者の八木仁平さんはブロガーとしても有名でしたよね。今「自己理解の専門会社」というものをやっているということは、新R25を見て知りました。 私は自己流ですが、自己分析ってかなりしている方だと思うんですよね。でも自分では届かない領域に行けそうだなと思って、どんどん質問に答えていってみました。 結果、改めて自分

プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略

ここ数年のあいだ、自分はこう生きようと考えていました。 ・嫌なことはやめる ・できそうなことを伸ばす できそうなことを伸ばすというのは、私にとって自分の成長を感じられることが生きがいだからです。 そ私の生きがいに当たる部分は、他の人だったら、子育て・家族のために何かをすること・仕事で成果を上げるといったことも当てはまると思います。 ところで、ここ最近の社会の変化について考えてみます。 2010年、私が東京から山梨の実家に帰ってきたころは、まだ以下のような価値観を重く受

流れていますか?~坂口恭平さんの『お金の学校』を読んで~

先日手元に届いた坂口恭平さんの『お金の学校』。この本の内容は全てnoteで読むことができます。 そのnoteが本になりました。坂口さんの自主制作(でよいのかな、適切な言い方が分かりませんが)で作られた5000冊限定の本です。 noteでも同じ内容が読めるのに、紙の本になったものを手にとったら、買ってよかったなあとしみじみ思いました。 この本はパソコンやスマホでスクロールするのとは違う読み方をしたいなとも思うんですよね。 内容は、カテゴリー的には自己啓発やビジネス書的な

ちきりん著『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』

4/4発売、ちきりんさんの新刊。リノベーションには今のところ縁のない私にとっても、絶対におもしろいはずだと思って購入しましたが、期待以上でした。 【その理由】 ・ちきりんさんのロジカルな思考は何が題材でも新鮮で惹かれる ・リノベーションを通して社会の仕組みの一端を知ることができる ・リノベーションに限らず、人生における買物や様々な取引に応用できる点がたくさんある ・住環境において「部屋の使いやすさ」がいかに重要かがわかる ・ちきりんさんの部屋が見られる ざっと挙げるとこん

池井戸潤 著『シャイロックの子供たち』

「シャイロック」とはシェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』に登場する、強欲で非道な金貸しのことで、その末裔のような銀行員がたくさん登場する銀行の裏側が描かれている小説。 これが連載されていたのが2003年と、今から16年も前だということに少し驚く。「家族のためには、どんなに辛い仕事も耐えるしかない!」というような気持ちで生きている人は、少しずつ社会が変われども、未だスタンダードだと思っているので。 池井戸潤さんも元銀行員なので、銀行や、融資を受ける会社にまつわる小説が多い

薬丸岳 著『Aではない君と』

この本は、息子が殺人事件の容疑者となってしまった父親の話です。以前読んだ窪美澄さんの『さよなら、ニルヴァーナ』も少年犯罪を扱った小説で、加害者・被害者の親・加害者に恋をする少女・それらを取材する小説家の視点でリアルに描かれていましたが、息子が加害者かもしれないと思う親の視点もまた、自分にはとても想像が及ばなかった心理だと、深く感じました。 昔、『「少年A」この子を生んで』という、神戸連続児童殺傷事件の加害者少年Aの両親の手記を読んで、自分の子どもが加害者となってしまったとき

チョ・ナムジュ 著『82年生まれ、キム・ジヨン』

2016年に韓国で刊行され、100万部を超えるベストセラーになり16ヵ国語に翻訳。日本では2018年12月8日に邦訳が刊行されました。 著者のチョ・ナムジュさんは、放送作家として10年間社会派ドキュメンタリーの番組を担当していたそうです。この本は小説なのですが、まるで自伝やドキュメンタリーのような感覚があり、韓国の実際の歴史が、ノンフィクションでも描ききれない部分までつまびらかになっているような現実味があります。 小説の主人公であるキム・ジヨンは、'82年に韓国で生まれた

小説の効能

最近小説をよく読むようになった。ここ2年くらいは、エッセイやビジネス書や自己啓発書を読むことが多かったし、フィクションより現実世界で起こっていることが知りたいという気持ちがあったのだと思う。 でも、先日ラジオで落合恵子さんの講演を聞いたときに、落合さんは、ノンフィクションで書ききれない事実を小説なら詳細に表現できるという趣旨のことを仰っていた。同じようなことを、はあちゅうさんも最近ツイートか何かで書いていたと思う。 小説は時に、事実を我々が手に入れられる情報以上に、目を覆

大原扁理 著『なるべく働きたくない人のためのお金の話』【後編】

昨日こんな記事を書きました。 大原扁理(おおはらへんり)さんは現在台湾にお住まいなのですが、この本は大原さんが2010年12月から2016年9月まで、約6年間東京で隠居生活をされていた時のことが、詳細に書かれています。 ・家賃28,000(国分寺にてバス・トイレ付き) ・仕事は週二回、時々臨時アルバイト(年収90万円) 本の前半は、大原さんがこのような生活に至った経緯や、気持ち、そこから具体的にしている行動について書かれていました。そして後半は、お金についての考え方や、具

池上彰・津田大介著 『メディアの仕組み』【後編】

昨日前編を書きました。この続きです。 『第三章:ネットの仕組み』より私はなるべく柔軟な思考を持っていたいと思っていて、自分が好きな意見や賛同したいことがあっても、その逆の立場のことも考えてみようとはいつも思っているつもりです。 池上さんもこの本の中で、以下のようなことを仰っていました。 例えば、福島の原発事故を受けて「放射能はとても危険だ」と思っている人がネットで放射能について調べたとします。そうすると、いくらでも「放射能は危険です」という話が出てくる。そこでつい「ほら

池上彰・津田大介著 『メディアの仕組み』【前編】

この本は約6年前の2013年5月に発売されたものです。今や情報に関するツールの流行り廃れの動向は激しく、我々を取り巻く環境は刻一刻と変化していますが、この本はメディアというものに携わる方の信念や情熱についても深く触れていて、時代において届けるツールの形は変われど、「この情報を伝えたい」という熱い想いを持つ人の志は、いつ何時も変わらないのだということを知り、感銘を受けました。 6年前ともだいぶ変わっている現代社会のメディア環境においても、内容として古いという感覚はなく、むしろ