2019.5.16 体と歌のリズム

吉祥寺のタイ料理屋ラコタで石指拓朗・田中ヤコブ弾き語りを見た。
ヤコブさんが座って安定したストロークでエレアコを演奏するのに対し、石指さんは立って体を大きく動かしリズムや言葉も伸縮させながらアコギとハープと歌うのが対照的で面白かった。
「歌うと健康になる気がする!」と石指さんが運動した後のような汗をかいていた。自然に体と歌のことを考え始めた。

呼吸性不整脈というのがある。心拍数が呼吸に合わせて生理的に速くなったり遅くなったりすることだ。息を吸う時は遅く、吐く時は速くなる。生体の中にあるリズムは一定ではない。赤ちゃんの背中をトントンすると落ち着くのはお母さんの鼓動を思い出すから、と言うけど、そんな落ち着きのBPMは決して一定ではないということだ。

今、売れてる音楽はみんなBPMが揃っていて、当然備えるべきテクニックとみなされている。でもその人の歌や演奏が本当に呼吸しているとしたら、体感するリズムは伸縮する方が自然ということになる。一定のものに合わせたらどこかで呼吸は浅くなる。いわゆるソウルフルな歌には無理が生じる。「ロックが売れない」みたいなのもそういう違和感によるところがあるかもしれない。

歌い手が言葉を話す、あるいは叫ぶようにテンポを伸縮させ、それと一緒にギターのピッキングやピッチが揺れ動くことで、その場にしかない時間感覚が生成されていくところが自分の好きなライブ感の一つなのかもと思った。そしてそれは、赤ちゃんが鼓動と同じリズムに落ち着かされる仕組みと同じなんじゃないかと。
BPMを一定にすることが重要ではなかった昔の音楽のスピリットを継ぐ人の、少しピリッと不安になるくらいの時間感覚を携えたプレイは、どんなにどっしり構えても柔らかくて先の見えない命の実感を共有してくれるから、お母さんみたいにやさしい。そういう類の音楽を「ロックンロール」って表現してきたかもしれない、とも思った。

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