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悪しき夢見し

前書き
このコラムは、2014年に参加したあるイベントで配布されたマンガに向けて書いた。iPhoneの整理をしていたら出てきた。読み返したら面白かったのでここに残すことにしました。
ちなみに、主催者から「海月さん、マンガを描いて欲しかったんです」と後からご指摘を頂いた。申し訳ない。

『悪しき夢見し』

目が覚めたら、びしょびしょに汗をかいていた。
MUJIの羽毛布団と薄いタオルケットをかけて眠っていたのだが、体の具合が悪いときは、しっかり汗をかくと良いと聞いたことがあるので、眠る前に顔の下半分まで布団をかけ、隙間が出来ないように布団の両端を体に巻きつけて眠った。

悪しき夢を観た。

幼少期から私は悪夢をよく観た。お地蔵さんに手を食いちぎられたり、男に包丁を持って追いかけられたり、産まれたばかりの末の弟を誤って腕の中から落として殺してしまったり(度々、末の弟は私の夢の中で死んでいる。そのせいか、私は末の弟に格別な情を持ち接している)、テロに巻き込まれたり、原爆を落とされたり、とくもかくにも恐ろしい夢ばかり観て、朝の静寂に自分の安否を確かめる。足がついてるか、息をしているか、眠りについた時と同じ場所で目覚めているか。
大人になってから、夢はぐんと現実味を増した。自主企画イベントの前日には、イベント当日、いざステージに立つと、マイクが頭上50センチくらい高い位置にセットされていて、歌い出せず、ひとりで慌てているのにスタッフが気づかず、そうこうしているうちに、フロアのお客さんがこぞって、他の出演者の打ち上げへ流れていってしまう、という夢を観た。4月にCDをリリースしたのだが、念願のレコード店でのインストアライブが決まり、当日リハを行うと、インストアライブの担当が渋い顔で近づいて来て、もらった音源とリハの声質が違う。こんな声ならインストアなんて受けてない!と激怒され、ライブが中止に。店内のインストアライブのチラシには、海月ひかりのインストアライブの文字を二重線を引かれ、ロックに対するルール違反の為ライブ中止、と書かれた夢を観た。
心抉られる、悪しき夢ばかりを観る。

四半世紀以上、悪夢を観ているが、共通して、どんな夢の中でも私は死なない。火災の夢でも、戦争の夢でも、仲間が死ぬか、他人が死ぬか、死ぬ間際で目覚めるか。
死ぬのは怖いし、夢を観ていると無意識にこれが夢だとということが分かるので、これ以上無理だ!と思うと強引に目を覚ます技術を持っている。

しかし、ついに、ついに私は昨夜の夢の中で死んだ。米倉涼子に、日本刀で殺された。

夢の前半は覚えていないのだが、私は古い工場地帯で逃げ回っていた。私は武器を持っていない。仲間も居た。最近、アートワークを手伝ってくれるメイクさん。彼女は武装をして武器を持ったいた。シチュエーション的に、私は彼女に庇われるようにして逃げていた。
ただならぬ状況だということはわかっていたのだが、私は思うように走れなかった。体が熱っぽくて、咳が出ている。苦しい、薬が飲みたい。最初は敵は大きな黒い影として見えていた。たくさんの武器を持ち、ジブリに出てくる“カマジイ”のように似ていた。
私に隠れているように伝えて、メイクさんは敵と戦うと言って去った。きっと殺されるから逃げようと引き止めたが、彼女は目を細めて微笑み、どっちみち殺されるよ、と言って走り去った。
彼女の悲鳴を聞いたのは、それから間も無くしてだった。

しばらくして、敵が来た。私は身を隠して逃げたが、ゴホッと咳が出てしまい、その音で見つかった。
敵は、米倉涼子だった。私の憧れの米倉涼子。大好きな米倉涼子。生まれ変わるなら米倉涼子。
「逃げるな!疲れるから!さっさと殺されろ。一瞬だよ、痛くもない。」悪女らしいハリのある太い声で、米倉さんは私に迫り来る。逃げれない!
いつものように目を覚まそうとする。が、うまく夢から出られない!よりによって。

あぁ、ついに私は殺られる。爆破テロに遭ったときも片脚吹っ飛んだが命は無事だった。しかし米倉さんの武器を見る限り、どうやら私はズサズサに刺されて殺されるらしい。痛みは一瞬だという。覚悟を決めた。米倉さんに背を向けるようにして床に倒れる。
死ぬほど痛かった。死ぬほど痛かったんだ。腰の辺りから上に向かって身が割かれていくのがわかった。殺されている自分の猛禽を裂いたような悲鳴を聞いた。それを聞きながら、白くて熱い光が目の奥からやってきた。迎えがきたのだ。これが死だ。
米倉涼子に殺られた。
ふと、私の死体を見ている私になっていた。もちろんまだ夢の中。黒い血の上に私が倒れている。体に何か穴を空けられていた。覗き込むとそこにあるはずの何かがない。肺だ。肺がない。取り出されているのだ!米倉涼子は私の肺を抉って持っていたのか?!

目が覚めるより先に、咳が出た。汗をかいている。生きている。

早く病院に行こう。ライブもレコーディングもあるのに、これ以上悪化させるとまずい。病院に行って薬を飲んで、今日一日ゆっくり休めば、明日にはすっかり良くなる。
しかし、米倉涼子は綺麗だった。生まれ変わるなら、米倉涼子。今世の私は、悪しき夢見し、ただのゾンビ。

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