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リュウグウノツカイの夢

常に、何となく、悲しい気分がある。
それはいつも、「こうであらねばならない」自分に追いつけなくて、ガッカリして、申し訳ないような叱られてるような、そんな感じの悲しさだ。
と同時に、恐ろしさが常にある。
もうこれ以上、いっときもサボることなく努力し続けないと、取り返しがつかなくなるぞ、と。
なのにまた休んだな、と。
まだ取り返しがつく。だからさあ、今から頑張れ。もちろんサボった分は上乗せして、さらにさらに頑張れ。
気付けば、負債ばかりが増えていった。これ以上長生きしたら、この負債を取り戻せなくなるじゃないか。

でも、取り戻せないことが確定したとしたら、どうなるんだ?

それはね。もう希望がないってことですよ、と。
減らない負債、増えていく負債のためだけに、生きていくことになりますよ、と。

先生!( 誰だ ) 

それって、今と何が違うっていうんですか。
希望があろうがなかろうが。生きれば生きるほど、負債ばかりが増えて行くじゃ、ありませんか。

そうやって私は、生き続けているのが怖くなったんだった。



エメラルドグリーンの海と、銀色の 魚の夢を見た。


目が覚めたら、窓の外は海だった。
カーテンを開ける前から、海の予感がしていた。
昼間で、陽射しはやわらかく空気はあたたかく、ベランダのキワまで、あかるい緑色の海水が迫っていた。
海は、凪いでいた。
柵の隙間から足先を出すと、ひたひたと温かい海水が指を濡らす。
遠くに、銀色に輝く魚影が見える。
タチウオかな、と思って見ていたけれど もっとずっと大きくて長い。
あれは、リュウグウノツカイだ。

リュウグウノツカイって、深海魚だよね?
地震の予兆とかではないかしら。けれど、今まで動画なんかで見たことのあるリュウグウノツカイとは全く違って、ずいぶん元気だし、なかなかの速度だ。
ぐんぐん視界を横切ってゆく。

そうだ。写真、いや動画、撮らなきゃ。
焦って部屋にタブレットを取りに戻ろうとする前に、もう姿が見えなくなった。
まだ、見えるかもしれない。
諦めきれずにベランダから身を乗り出してみると、こんどは別の、小さめのリュウグウノツカイが、浜に近いところでバチャバチャと暴れているのが見えた。
溺れているの?それにしても、ずいぶんパワーあるなあ。
まるで蛇がうねるようにして、元気に?溺れている。
これはひょっとして、私の姿ってことなんだろうか。撮ろうと思ったら撮り逃し、あれよあれよという間にチャンスを逃し、小さくなって溺れている。
(でも、元気に溺れてる!)

あ、来る、と思う。
遠くから真っ直ぐに、こちら向かって泳いでくる、3匹目のリュウグウノツカイが見えた。
どうするんだろう、私は、どう受け止めるんだろう。
どうやって、受け止めればいいの?

そう考えているうちに目が覚めた。

そんな夢。


考えてみるに。
怖いのは、生きてたら当たり前なんだと思う。
だからべつに、気にすることはない。なんにも特別なことではない。
誰だってそうなんだ。

真っ直ぐに泳いでくる魚に出逢ったら。当たり前にビビって、うわーどうしようとか言って、アワアワしてればいいのさ。

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