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ネズミの休憩所 #夢日記

くもり空だった。
こんな日に会いたいだなんて、
会ってお散歩しておしゃべりしたいだなんて、誘ってごめんね。
そう言うと、「こんな日だからいいのよ」と返ってくる。
だってお天気の日には洗濯しなきゃでしょ。

友達だった気がする。けれど、妹だったようにも思う。
あの子と、誘いあって会い、お散歩する夢を見た。


雑草だらけのあぜ道を歩いていた。
ここはいつかの夢でも出てきた道だ。森と田んぼが混在する場所。
緑が濃い。あぜ道の雑草すらも芳しい。
ここらへんに腰掛けて話すのも気持ちよさそうだなと思うが、彼女はどんどん先へ歩いていく。

森を抜けると、海辺の街のような気持ち良い風が吹いてくる。
クローバーの草原を歩いて行く。
もうここらへんで座ろうよ。だってここ、気持ちいいじゃない。
けれど彼女は、もっと先へと言う。
休憩場があるのだそうな。
そこへ行って、お茶をもらってゆっくりしようよと。

と、
気付くともう、休憩所に着いていた。
柱がなめらかな光沢を放つ。古い民家のようだった。
畳の部屋は涼しくて気持ちいい。すぐにお茶が出された。

ぐい呑みのような陶器に、氷を入れてそこに熱い緑茶をそそいだもの。
緑がとても美しい。
お茶は熱くもなく冷たくもなく、とてもかぐわしく美味しかった。
あんまり美味しくて一気にぜんぶ飲み干したいところを、我慢して半分ほど飲んだ。

白い縦長の小さなぐい呑みは、厚手の半透明な釉薬の下にうっすらとネズミの絵が透けて見えた。
そうかここはネズミの休憩所なんだな、と思う。

お茶うけにどうぞ、と
小鍋に、さつま揚げとそこに卵を割り入れたものが出てくる。
火にかけてもいないのに、じゅうじゅうと音をたてて卵に火が通りだす。
えっ上手くできないよ、と焦りながら鍋の中身をかき混ぜると、
ぽってりと上手に、甘い卵焼きが出来上がる。

わたしは嬉しくなり、食べて食べて、と彼女に差し出す。
わたしはいつもそう。上手に出来たものは、ひとにあげるほうが嬉しいんだ。
ありがと、と彼女は言って鍋に手を入れる。
なぜか一緒に入っていた、殻付きのゆで卵を手に取る。えー?そっち?

ゆで卵は、卵焼きの焼きカスにまみれている。
なんでゆで卵が。いつの間に入った?
彼女は焼きカスまみれのゆで卵の殻を剥く。ごめんね手が汚れちゃうね。
けれど彼女は、「ううん、これがいいの」と言ってゆで卵を美味しそうに食べた。

彼女に差し出してしまったので、
わたしの所にまた、次の小鍋が運ばれてくる。
中には、割り入れた生卵と、さつま揚げと、ゆで卵。
ゆで卵は先に食べちゃった方が良いんではと思い、取り出して殻を剥くが
ゆるっゆるの半熟卵で、うまく殻を剥くことができない。
そうか、これはやっぱり卵焼きとともに鍋で加熱するのが正しいのか。

今度の卵焼きも上手に出来たよ。どうぞ食べて?
えっ。それっぽちしか食べないの?
でも彼女はニコニコと、本当に嬉しそうに卵焼きも食べてくれてるので
それでいいんだな、と思い直す。

卵焼きの他にも、小さなバナナがひとり一本ずつと、
ほんのひと口ずつのお蕎麦が出る。
太めの田舎蕎麦で、これもまたすごく美味しい。
無料の、ふらりと入った休憩所で、こんなにいろいろ おもてなしを受けちゃっていいのかしら。

いつの間にか他のお客さんも増えてきた。
若い女の子たちばかり。彼女らは、他に行くところが無いのだ。
そんなに睨まないで。あなたたちの場所を奪ったりしないよ。
そろそろ出ようと彼女が言うので、そこを出ることにした。
あんまりおしゃべりは出来てないけど、まあいいか。
この場所に長居したら 次の人が入れなくなっちゃうし、それに、
歩きながらだっておしゃべりは出来るしね。

休憩所を出る時にチラと見ると、出入口は古い煙草屋のようだった。
小さなステッカーで「生蕎麦」と貼ってある。
これを目印に、またこの場所を探せるかもと思う。
でも、こんな素敵な場所に、何度も来たいだなんてワガママが過ぎるかしら。

ふと、想像してみた。

何の目的もなく散歩して、
探そうともしていないのに、あのステッカーを見つける。
それは路地のどん詰まりだったり、空き家の庭だったり、山小屋の土間だったりする。
「あ、生蕎麦…」とわたしは思う。彼女は微笑んでいる。

いいんだな。

探して、いいんだ。
何度も来ていい。来ようとして、いい。
許されている。


緩やかに、目は覚めていた。


夢から醒めつつある頭で、まだ布団に包まりながら
「そうだあの、探しきれなかったあの場所、無くなってしまったあの場所を
また、探しに行ってみよう」と思っていた。

世界は変わる。変わり続ける。

昔いちど行ったけれど、また行こうとして探しても二度と見つけられなかった
あの場所。
また行こうと思っているうちに、ひとが移って、無くなってしまった場所。
夢の中の場所ではなく、現実のわたしが失くしてしまった、現実の場所。
また見つけられないまま 探し続けるのもいい。
無くなってしまったと思っていたら、また戻ってきて 再開してるかもしれない。
逆戻りの天気もあるわ。

そんな夢でした。


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