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偶然と、二度といけない場所の話

行こうと思ってなかった場所に、たどり着いてしまうことがある。
そういう場所にこそ、欲しかったものが在るようにも思う。


散歩にハマっていて、とにかく散歩がしたくて、時間さえあれば歩いていた時期がある。

仕事あけで、睡眠不足で、って言うか一睡もしてなくて、初夏で、晴天で、夏のような暑さで、
それなのに我慢できずに散歩に出た。
もちろん熱中症になりかけて。
そんな時ちょうど通りかかったお寺が、緑がいっぱいで木陰には丁度良いベンチもあって、
そこで横になって、小一時間ほどもウトウトした。
涼しかった。ものすごく気持ちよかった。
起き上がったときには、驚くほど回復していた。

その後、
何度も同じルートを辿ったけれど、二度とそのお寺には着けなかった。


**************


どこ、とはっきり書くのはやめておく。
春だった。
小学校の跡地に、行ったことがある。最初行った時はそこを目的地として、ひとに連れて行かれた。連れて行ってもらった。
緑に囲まれて、たいそう気持ちの良いところだった。
もう一回行きたい、と思ったので、行き方を教えてもらった。
自分ひとりで行くならバスで、この路線に乗って、このバス停で降りて。
教わったとおり、行ってみた。


バスを降りたら、いちめんの芍薬畑だった。


直売所があって、信じられないような(安い)値段で芍薬が売られていた。
買って帰りたい!
でも、そうしてしまったら、そもそもの目的とは違ってしまう…
花は、買ったら早めに帰らなければ萎れてしまうだろう。
かなり迷って、でもとても気持ちの良いお天気の日で、やっぱりあの小学校跡地には行きたいな、と思い、惜しみつつ直売所を後にした。
その後。
めちゃくちゃに道に迷って、目的地にももと来た道にも戻れず、くたくたになったところでやっとバス停を見つけて駅まで戻りなんとか帰宅した。

後日、むしろ芍薬を買わなかったことのほうが心残りで。
また行こうと、こんどは芍薬を買いに行こう、と思い
そしてそのまま機会を失っていた。

あれから10年以上が過ぎた。

昨日ふと思い立って、芍薬畑、地名、で検索してみた。
あった。
たしかにあの場所だ。あの、バス停のとこだ。
なんでもっと早く検索してみなかったんだろう。今年になってやっと検索するならそれでもいい、せめてもうひと月早く。
芍薬の時期は4月〜5月。もう、花の時期は終わっていた。

それでも行ってみた。ただの酔狂だ。
もちろん芍薬畑は無かった。それでも、今は野菜などが植わっている畑を抜けてどんどん歩いた。
けっこう、山、と呼んでもいいくらいの雑木林。街では聞かないような鳥の声がする。
かと思うと、するっと住宅地に出る。新しくてリッチな家並みと、ベビーカーを押すひと、犬の散歩をするひと、買い物帰りのひと。
そして可愛らしいパン屋さん。テラスのとこがイートインになってる。
それにしても良い天気だ。わたし、ここ好きだ。また来たい。


なんにも不思議なことはない。
けれど毎回、目的と違ったものに会って、毎回、違った心残りができる。
きっと、「もう一度」と思っても、たどり着けない場所があるんだ。

わたしはまた性懲りもなく、あのバス停に立つんだと思う。
そのときの目的は、おそらくまた違う場所。

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