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マトリョーシカ

回避も軽減もできない絶望にあって、ああもうダメだ、と思って目が覚めた。
とたんに夢の内容を忘れた。
絶望だけがまだはっきりと残り、なんとかできないものか?でも何を?という思考にしばらく捕まっており、思わず
「一誠は?」と、息子の名前を呼ぶ。傍らの妻が反応に困っている。
そうか夢をみていたんだ、と気付き、そして一誠が既に亡いことに思い至る。
………と、いう夢をみた。
(つまりこれも夢だ。わたしは夢から覚める夢を見ている。)

一誠、がどういう読みをするのかわからない。
夢の中で、漢字のイメージだけで息子を呼んだ。わたしは父だ。
妻は一誠を産んでまもなく亡くなり、男でひとつで育てた一誠も元服を迎えず亡くなった。
のちに後妻を迎え、また息子が生まれている。
心許なげにしている妻(後妻)に、「わるい。夢をみていた。心誠は?」と、言い直す。
現在の、息子の名前は「心誠」という。やはり読みはわからない。

この時点で、わたしは夢を見ていることに気付き、それと同時にまた別の夢に入る。

飼っている子猫が、息ができなくて苦しんでいる。
それをただただオロオロして見ている。
子猫が事切れる。
身体中が痺れるようなショックと悲しみ。
けれど、そこで機械がリセットされたかのように子猫はまた息をふきかえし、こんどは安らかに寝息をたてだす。
ちゃんと生きているのか、心配で、何度も手をかざし指先に吐息が当たるのを確認している。
傍にいる彼女と、こんなふうに、何かを見守ったことが過去にもあったなと思う。
が、彼女が誰なのかがわからない。
傍にいる彼女の、顔が判別つかない。


目が覚めて、
しばらくぼうっとして、今度はちゃんと目覚めてるな、と自覚して起きた。


朝のお茶を淹れるため、台所で湯を沸かしながら
そうだ、最初の、夢の中の夢でみた絶望は、鍋を火にかけっぱなしにして爆発させてしまったんだった、と思い出す。
(夢の中で)爆発させたのは鍋だけで、
たしかに鍋の中身は飛び散りガス台は壊れていたが、台所には損傷も、ひとつの焼け焦げもなかった。
わたしはあの程度で、この世の終わりのように絶望するんだな、と思った。

今朝しばらくの間は、ガス台の火を消したかどうかが気になり、何度も確認するはめになった。
夢の中で、夢が入れ子状になっていたのははじめて。

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