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空港にて

それは実家のある福岡から羽田へと向かう飛行機の中。
あるいは福岡空港の搭乗待合にて。
突然、「はやくどこかへ出かけなくては。行くべきところに行かなくては」
という思いで胸がきゅうっとなった。
中学高校のころに、常に心の一部を支配していた感情だ。
間に合わない、時間がもったいない、置いてかれる、とにかく急ぎたい。
思春期特有の衝動だと思っていたのに。
それは治ったと見せかけて、水疱瘡ウィルスのように長年潜み続けていた。

仮説として。
ひとの、あるいは集団(家族のような小さな集団でも)の生活サイクルにあわせていると、(たとえそれが、大した無理でなくとも)移動したいという欲求が現れるのではないか。
この衝動が、若者を自立させもし、大人を迷わせるのではないか。とか。

羽田に着く頃には、もう衝動は消えていた。
わたしはわたしの、帰りたいところに帰っているのだ。

でも、ほんとうに?


勿体無かったな。とか、今は思う。
あの衝動を捕まえて、旅を住処とすることも、できたんではないか。
今の自分でなければ何でもいい、というほどの、荒々しい衝動。
腑抜けたわたしは、帰宅して三里に灸する。

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