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母の入院、そして。(父の見た夢)

タイトルが不穏なので最初に書いておきますが、母の命に別状は無いです。

先月から、母が入院している。
緊急事態宣言が全国的に解除され、GOTOキャンペーンの再開も話題に出始め、
まさに、面会制限も緩和され始めた、なんてニュースまで聞いていたころ。
なんとなく楽観していた私ら家族に、病院から出された面会条件は、けっこう厳しいものでした。

あ。ちなみに、面会制限 緩和のニュースとは、介護施設での事で
じゃあ病院もそのうち緩和されてくるんじゃないか…と、私らが勝手に楽観していただけです。


この感染症を甘く見ているつもりは無いです。
毎日報告される新規感染者数が万単位だったころも今現在も、変わらず
対策は続けています。
私たち家族に起こっていることが、特殊なことではないと理解しています。
念のため、そう書いておいた上で、
この、ごく小さな集団に起こったごくごく内輪な出来事を、
以下に記します。


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同居者のうち、あらかじめ登録された者のみが面会を許可されるとのこと。
父が、面会人として登録された。
入院中の母に面会できるのは父のみとなった。

そしてこの、登録された面会人自身も、感染者の多い地域から来た者との接触は避けてほしい、ということだった。
感染者の多い地域から来る者とは。…私のことだ!
さすがに強制力はないのだろうが、もしも私経由で 父にPCR陽性が出た場合、
その後、母のリハビリが受け付けられなくなる可能性もあるという。
つまり、私はお見舞いに行けないどころか、父の様子を見に帰省することも出来なくなった。

母は手術を受けた。
命に関わる病ではなくとも、全身麻酔はあった。
家族以上に母本人が不安だっただろう。
手術に向かう時、あるいは目が覚めた時、付き添っていたかった。
けれど…

こればっかりは…  しょうがない。


面会は、ビニールカーテンごしに 最長で15分程度。
ビニールカーテンとは言ってもそれは分厚く、もちろん空気穴など無いから、音もほとんど通らない。
面会室で大声も出せないし、これは結局、会話ができない状態だ。
それでも、これはまだ良いほうだった。

術後の回復期を経た後、母はリハビリのために次の病院に移ったのだが、
この病院では、完全に 面会禁止。
窓辺の母を、遠目に見上げることしかできなくなった。


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父は、あっという間に音を上げた。


実家に電話した時、いつになく饒舌な父に私は驚いた。
うちの父は普段、電話を取ることはあっても、すぐに母と交代してしまう。
私のことを避けてるってわけではなく、誰が相手であっても、
もともと会話が苦手なたちなのだ。
その父が、「また電話してくれ」と言う。「用なんて無くていいから」と。
「いやー、参ったわ。寂しくてしょうがないわ」


父から出た「寂しい」という言葉に、私は目を剥いたね。

父が「寂しい」なんて言うのは、犬がニャーと鳴くほど ありえない。



後日。
「絶対嫌だ」「無理だ」と言い張る父に、妹が無理矢理スマホを持たせた。
携帯電話も持たなかった父が、一足飛びにスマホ持ちだ。
すると。
最初は電話を取ることすらおぼつかなかった父が…
なんという進化。
この短期間で母と電話で会話するようになったというのだ。
今では、かかってきた時に取れなかったら、かけ直すことも出来るという。
超進化だ!
ちなみにLINEは出来ない。

毎日2回。
ま、い、に、ち、2回!
父と母は電話しあうのだという。
もう呻きどころではない。わたしは雄叫びを上げた。


ハァ??



ラブラブかよ!!



うちが普通のご家庭ならそこまでの驚きは無かったと思う。
いや、ヨソの家族のことは知らんから、普通がどうなのかわからんけど。
うちの両親ときたら、互いの悪口ばーっか言い合ってて。
毎回似たような愚痴を数十年間も繰り返し繰り返し聞かされた側としてはもう、
彼らは憎しみあってこそすれ、愛し合ってなぞいないと。
そもそもこの結婚には最初から愛など無かったんだと。
娘ふたりは思い込んでいたんだよ。
(だって母がそう言ってたんだもん!)

わたしたちの苦悩は何だったの???

ちなみに、父と母が電話で話せるようになってからは、
私から父にかけた電話は、適当かつ早々に切られることになったとさ。


いやもう、どう書いても微笑ましげな感じになるのがもどかしい。

小さな子供に聞かせるにはオドロオドロしすぎる罵り合いをさあ!毎日毎日聞かされてきたんだよ!私たちは。
その母がさ、
「お父さん、いっつも病院まで送ってくれてね」
「受診の時毎回一緒に先生の話聞いてくれたの」
だってさ。
「毎日、電話待っとんしゃあんよー」
「そんでね、毎回かならず、また電話してくれ、って言いんしゃあとー」
ってさ。




ハァア???



ま、まさかそれ…

ノロケですか???




今私は、身悶えしながらこれを書いている。

母が父のことを惚気るなんて、
犬がニャーどころか庭の椿がニャーと鳴く…
いや、庭のツツジがトリフィドのように毒の舌をぱしーんと振り回すくらいには
ありえない。
ありえない事だよこれは!
(後で調べたら、トリフィドのあれは舌ではなくて鞭のようにしなる枝でした)
てか、トリフィドって何ぞ?と思った人は、このへん深い意味は無いので読み飛ばしてください。




つまりは、誰も、
ヒトの本心には辿り着けないのだな?


(急に何を言い出すんだ私は)


誰かに何かを伝えるためには、
結局は、ありのままを丁寧に言葉にするしかない
………のでは、ないですか?(異論は認める!)
言葉にできない気持ちを分かり合えるふたり とか、異世界の出来事でしょ?
言わにゃーわからんやん?
なるべくわかりやすい言葉で、簡潔に、丁寧に。
そう心がけていても、上手く伝えられない事だって、いーっぱいあるのに。

何なんだ。うちの両親は。

本当は仲良くしたかったのに、わざわざ悪口を言い合っていたのか?
いや、わざとではないとか?
ふたりともが、自分たちの本心に 気付いていなかったのか?
それともやっぱり、
もともとは憎しみあっていたはずの2人に、別離がいきなり愛と親しみを連れてきた…とでも?
いきなり。唐突に???


いやーわからない。
お手上げだ。


相手を憎々しく思う気持ちと、頼りにして寄り添う気持ちは…
まさか、
矛盾せず両立しうる???


ねえ、そういう事って、あるんですか?




…あるような、気もする。


つまりは、夫婦とは…
いや、
長年 生活をともにしたふたり、
互いに頼る相手が互いだけとなったふたりは。

いくつものベクトルが煮込まれていて、とても一言では説明できない。

もはや神秘だったりする。


********************


母が入院した後で、
父は、長い結婚生活ではじめて、母の夢を見たそうだ。
居間でうたた寝する母に、こんな所で寝ては風邪をひくぞと声をかける。
起きない母に毛布をかけてやりながら、ふと、
いや、このひとは今入院中でここには居ないのに、と思う。
そんな夢。


そんなん聞かされる娘の心情。想像してください。

こっ恥ずかしいわ…

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