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「よし、お互いに言いたいことを全部黒板に書きなさい」と先生は言った

「おまえたち、なんでそんなに仲が悪いんだ」
担任の先生は困り果てていた。
5年3組の教室で。
わたしと、一人の男子は、叩き合いをするくらい仲が悪かった。

とうとうある日、先生が言った。
そんなに相手に腹が立つなら、いちど黒板に気が済むまで全部書き出してみろ、と。
黒板の真ん中にきゅーっと縦線が引かれ、右はその男子、左はわたし。
そうか、気が済むまで全部だな!と、気合を入れたわたしは
アホだのバカだのてめーなんざカマキリだ、だの
低俗な悪口を縦横無尽に書きなぐったのだった。
ああスッキリした。


なぜ、先生はそんなことを書かせたんだろう?


その後、学級会が開かれ ふたりの言い分が検証された。
彼が書いた側の黒板には
「算数のテストで間違っている所を教えたらいきなり殴られた」とか
「何もしていないのに、顔を見るなりバカとかアホとか言ってくる」
とかいった わたしの悪行が、理路整然と箇条書きにされていた。
クラスのみんなの評価は総じて、
彼が書いた側のほうが 筋が通っている、ということだった。
そうか。
そのための「全部書きなさい」だったのか…!

その後、わたしはその男子に謝り、
以後、ふたりは距離をとることにした。
6年生ではクラスも離れた。


数年後。
同窓会の席で、もとクラスメイトの男子たち(件の男子を除く)が
その話題を振ってきた。

「黒板にさあ、あいつとふたりで書きあったこと、あったじゃん」

う。
言ってくれるな。苦い思い出なんだよ。

「あいつはクソ真面目に、あの時がこうだ、あれは酷かった、みたいに書いてたのにさあ。おまえはバカだのアホだのって書きなぐっててさあ」

ううう。
そうですよバカはわたしであったよ。

「あれ、おっかしかったなあ。あとで皆で大笑いしたよ!」


…えっ?


そ、そうか。可笑しかったのか…


あの学級会の後しばらくわたしは、グジグジ悔やんでいたのだった。
あんなふうに皆で検証しあうとかがあるなら、こちらにだって言い分はあった。
算数の答案、わたしの手から無理矢理取り上げたんだろうが。
友達と楽しくお喋りしてる所に割って入ってきて、それは違うこれはこうだと、
難癖つけてきたんだろうが。なーにが、「何もしてないのに」だ。
クラス全員で検証とか。
そんなん、すると思わないじゃんか。
『書いて、気を済ませなさい』って意味だと思ったんだよ!

あれはわたしにとって、糾弾された記憶だったんだ。
けれどそれが、今、笑い飛ばされて消えてしまった。
あの時のあたし、バッカだよねえ、って。


笑ってくれて、ありがとう。



   *******************


先日、
「恨みつらみを文章にするのは諦める」という話を書いた。
「ひとの悪口を言う人間だと、思われたくない」みたいな。
その後偶然、ある人のエッセイを読み返したら

「今夜は悪口とエロ話だけしようぜ!」

って言って
意気消沈している語り主に向かって、笑ってくれる人が書かれていた。

ボディブローをくらった。


なーにが、
「ひとの悪口言うヒトだって思われちゃうよなあ、あたし」
だ。

いや、悪口を言うヒトですからー!

他人の目を気にして、悪く思われたくなくて、必死なんだな。
自分の姑息さが嫌になったよ。


恨みつらみをきちんと文章にするのは、実際、私にはハードルが高いと思う。
それは、
冷静に公正に、自分の非を認めつつ状況や相手の事情を考慮しつつ、
あったことを正確に書き記す、なんてことが
到底 出来ないからだ。

だってさーーー。
そういう、ヤなことしてくる相手ってさー
こちらが「あなたとわたし、お互いに、ここが良くないですね」って冷静に対応しようとすると
「ほーら!おまえが悪いんだ!」って、
お互いに、の部分は無視で 迫ってくるじゃんよー。
(個人の感想です)

わたしは、嫌なことしてくる相手に、公明正大に接する度量は無いんだよ…


でも、
悪口は、いいや。良いってことにして自分を許そう。
悪口言うヒトだよ、あたしゃ。


飲みながら、
「おまえ、バッカでえ」って言ったり言われたりしながら、
笑い飛ばしてくれるほんの一人か二人かに、愚痴を聞いてもらうこと。
そういう事って、ほんとにヒトを救うと思う。

正しいことを言う人よりも、笑ってくれる人が有難い。
そんな日もあるね。


そんな日ばっかり、あるね。


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