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トリケラトプスの夢

ダム湖に来ていた。連れてこられた。
暗い山道を車でどんどん進むと、ぽかっと開けて湖になった。
しずかで、美しい場所だった。湿気と冷気が心地よい。

日の出前なのか、日没後、夕暮れが消えた後なのか、
空には、暗い中にもうっすらと明るみが残っていた。
気持ち良いところだな、良い時間だな、と思う。来てよかった。
細い橋が、湖面からかなり高いところへ架かっていて
そこを進み、ちょうど湖の中央くらいのところへ連れて行かれた。

車でわたしをここに運び、橋の上に連れてきたひとは、誰なんだろう。

「面白いものを見せるから」
と、そのひとは言って鯉の餌に似たものをぱらぱらと撒きはじめた。
ここには水獣が住むのだという。
水面が緩やかに波立って、水獣たちが集まってきた。

そのほとんどはシャチやイルカ,イッカクのようなものだったが
どれもが体長10〜30メートルほどもある。
それらが池の鯉よろしく餌に群がってくるのは壮観だった。
中には、トリケラトプスに尾ヒレが付いたようなのまでいる。
太古の昔からここに棲まう生き物たちなのだ。

と。

急に、すべての水獣たちがもがき苦しみだした。

ぽかりと水面に浮かび、次々と動かなくなっていく。
「駆除するんだよ」と知らされる。
やめて!

やめて、助けて。
死なせないで。
と訴えるが声にならない。
わたしはトリケラトプスから目が離せない。
なんて非道いことを、と思いながら、
ゆっくりと静かにもがくトリケラトプスの動きに見惚れている。
美しい、と思っている。
彼らは何の呻き声もあげない。水音も風の音もしない。
この世界は、音のない世界なのだと気付いた。

そんな夢。


夢には意味がないと思っている。けれど、
夢に意味を見つけたいと思うことも多い。
夢の状況や物語には意味がないが、夢での感情は本物だと思っている。
わたしには残酷そのものを楽しむ趣味はないが、
残酷な状況を棚に上げて、見たいものを見てしまうところはある、と思う。

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