箱根本箱に飛び込みで宿泊してきたレポ



読まなくてもいい前置き

私は、ちょっとだけ病んでいた。

うつ病は一応寛解したことになっているし、定期的な精神科通いも、毎日の抗うつ薬も卒業した。
おかげさまで、薬の副作用で増えた体重も順調に減っている。
このダイエットについてはまた別で書こうと思う。

そうはいっても、毒親育ちというか、虐待サバイバーというか、なんというかなので、常にうっすらとした希死念慮から逃れられない、とある種の諦観がある。
今、実家から逃げ仰せ、私を大切にしてくれる人たちと楽しく元気に生きていても「どうして幼少期のわたしは大切にしてもらえなかったのだろう」「なんで愛してもらえなかったのだろう」という怒りとも悲しみともつかないぐるぐるした何かが定期的に襲ってくる。
どうしても、なんでも、お前の親が、自分の子どもに人格があるとか人権があるとか認識することのできないゴミクズだったからです、としか言いようがない。
だから考えたって仕方ないんだけども。
それでも、うっすらとした染みがだんだん濃くなって、心を埋め尽くしそうな時もある。
そうなると、何故かわからないが一日中Xのおすすめ欄を日がな一日眺めて時間を溶かしてしまう。
アレ本当によくない、なんとかしてくれイーロン・マスクよ。

あー、これ良くない感じだなー、と自分でも思っていたときに、何でか箱根本箱の予約サイトを見ていた。
本がたくさんあって、温泉もある宿があるらしいというのは少し前に知っていて(これがどこで入手した情報かって、Xで見かけたからなので、だからXが止められないんだくそう)、箱根のどこなんだろう、お値段いくらくらいかなあ、というそれくらいの興味。
5月とか6月とかに行けたらいいな、と思いながら見ていたら、

やたらと、明日が安い。

来月再来月の平日よりも数千円安い。
この4月より、元気な失業者のわたしは明日たまたま丸一日予定がなかった。
気がついたら予約サイトに登録し、気がついたら明日、私は箱根に泊まることになっていた。
前日夜9時48分のことである。
「明日だけやたら安いなんてことある?それ詐欺じゃない?大丈夫?」という夫の心配をよそに、私は急遽箱根へと旅立った。
このまま家の中で鬱々としてたらまた病人生活に逆戻りする、なんとかしたい、なんとかなれ!という唐突の旅だった。

ここから箱根本箱レポート

私の仕入れていた前情報は
・本がいっぱいあって読み放題らしい
・温泉、大浴場があるらしい
・ご飯がオーガニック?らしい
・最寄り駅が中強羅(ケーブルカー)
これだけである。
神奈川県民のくせに、箱根に来るのは大学の卒業旅行ぶり。
その時はバスで登って小湧園(要はユネッサン)だったもので、ケーブルカーなんて10年は余裕で乗ってない。
平日の夕方とかいうよくわからん時間に箱根登山鉄道とケーブルカーを乗り継いで、初めて中強羅で降りた。
ちなみに、平日のこんなよく分からない時間に山登るやつおらんやろ、って思ってたらかなりたくさんの外国人観光客の方と乗り合わせた。
海外旅行だったら確かに曜日関係ないもんね。

館内に入ると、

これだよ、これ。
スタッフの話半分でキョロキョロと本のタイトルを見回す私。
これ一部ですからね。
部屋の中にも本棚、廊下にも本棚、食堂にも本棚。
読み放題。気に入ったら購入可能。

ここらは項目ごとにレポートしていく。

・食事


数ヶ月前から小麦アレルギーというか、パンとか麺とかいっぱい食べるとお腹を壊すということが判明した。
添加物や揚げ物の衣くらいならなんとかなるんだが。
一応、予約時にアレルギー欄があって、書かないと予約できなかったので、「 多量の小麦食品(パン、麺類)はできれば避けたいです」と書いた。
とはいえ、予約したのは前日夜9時48分。
これは小麦だから食べないでね!が関の山だろうと思っていた。

ところが、なんとグルテンフリーメニューを用意してくれた。
しかも通常メニューから単純に除いたもの、ではなく、完全に別のメニュー。
それに気がついたのはデザートの時だった。
箱根本箱の食堂?食事処?はカウンター形式で、料理が全員にサーブされると、シェフがその時いる全員に向かって料理の説明をする。
デザートの時になって、私だけ全く別料理が運ばれてきて、私だけ別の説明をしてくださったのだ。
その時になって、机に置かれていたメニュー用紙を見てびっくり、グルテンフリー用の別のメニューが紙には書かれている。
米粉パンも用意してくださって、おかわりまでしてしまった。
泣きそうに嬉しかった。

先に言っておくと「せっかく旅行に来たのなら豪華な食事が食べたい!」と思っている人にはおすすめしない。
箱根本箱の食事が豪華でないわけではないのだが、方向性が違う。
その昔、CMで「おいしいものは脂肪と糖でできている」というフレーズがあった。
大変、真理だと思う。
私はそこに塩分も加えたい。
脂肪と糖と塩分、そう家系ラーメン、あれこそ至高の食べ物。
小麦粉が食べられなくなった私にはもはや夢のまた夢だけれど。
死ぬ直前には私の口に家系ラーメンのスープを放り込んでほしい。
というのは置いておいて、脂肪と糖と塩分をもりもり使ったら美味しいのは当然だ。
しかし、箱根本箱はそもそもHPにオーガニック&クレンジングがテーマと書いてある。
というのは、夕食が終わってからしげしげとHPを見直して気がついたんだけれど。
なるべく脂っこくなく、なるべく塩辛くなく、健康的な内容で、でも旅行に来ただけの満足感が得られる食事、これまた手間暇試行錯誤が必要だ。
私は料理に関してはど素人だけれど、出汁や香り、酸味、食感などなど、塩味に安易に頼らない味つけがとても魅力的だった。
黒毛和牛の霜降り肉が〜とかをご期待されるとそれとは全く違うので注意されたし。

売店にも、グルテンフリークッキーや乳不使用クッキーが売られていた。
おかげさまで全くお腹を壊すことなく旅行日程を終えられた。

・読書

本読みたいのに時間が足りない!!!
館内いたるところに本がある。
しかも、本の種類が幅広い。
正直小説しかないんでしょ〜って舐めてた。
長編の小説をほとんど読まず、新書などの学問入門書、エッセイ、ノンフィクションやルポルタージュが好きな私にとっても、満足できるラインナップだった。
食後の19:30から2時間かけて一冊読み終えたけど、いやもう寝る時間だし!?
えっ、これいつ本読むの?1万冊以上あるらしいんですけど、えっ?
こんなの一泊だと2冊、多くて3冊が限度では……数日籠って過ごしたい。

紅茶、コーヒー飲み放題、茶菓子も食べ放題。
大好きなハーブティーと大好きな山査子と共に本を貪り読む。どんな贅沢?
普段、これをやるためにせっせと本を買ったり借りたりして、わざわざ街へ出かけて、カフェで飲み物を買って、ウロウロして座席を探しているのですが。
まさかの部屋一歩出たら、一面の本!ソファ!飲み物!
住みたい、ここに住みたい、頼むよ神様仏様イエス様。
私は、夕食後の19:30-21:30までと、朝食後の8:30-10:00まで読書に費やしました。

・風呂


本だけ読んでてももったいないというのがまたすごい。
大浴場は、内風呂2つに、露天風呂の計3つ浴槽がある。
無類の風呂好きでもあるから、せめて2回、いや3回は湯舟に入っていたい。
でもそうすると本を読む時間が減る。どうすればいいんだ?
結局、到着してすぐお風呂、寝る前に大浴場につかった。
そして、なんと部屋にも露天風呂がついてるんですよ!
朝はこちらの部屋の風呂に入っていた。
東向きの窓というか、ベランダというかから散々と降り注ぐ朝日を浴びながら入浴。
最高にすっきりした目覚めだった。

朝日が降り注ぐ中で入浴


この宿は、人を選ぶ


もし、私が旅館やホテルを始めようと思ったらまず高齢者向けを想定すると思う。
少子高齢化社会で圧倒的に割合が高いのはお年寄りだし、時間に余裕あることも多い。
最近は全然定年させてもらえない職種もあるけれども。
次に狙うとしたらファミリー層。
大人数で一部屋に泊まってくれるから単価が安くなる。
ところがこの宿、館内段差だらけでとてもとても高齢者子ども向けじゃない。バリアフリーの真反対。
もちろんこれは事前説明に書いてあるので、よく読んでからご予約ください。
あと、ありとあらゆるものの字が小さい。
一時期とても批判されたローソンのプライベートブランドみたいな感じ。
とてもオシャレだけど、分かりやすくはない。
大浴場のシャンプーとリンスがパッと見まったくわからん。

こんなシンプルなドライヤーどこで売ってるんだ
先日我が家に仲間入りしたパナソニックのナノケアくんなんてhotなら赤いランプ、coolなら青いランプが光るぞ


アラサーでも「……なんだって?」って近づいて凝視しないといけない。
でも、よく考えたら本が読みたい人が来るということは、小さい文字を読むのが苦じゃない人が来るってことね。
よくできてるなあ。

このホテルを楽しめるのは10代後半から小さい字を読むことが苦痛ではない年齢までの大人、ってそれいわゆる生産年齢人口ってやつよ。
バリバリ忙しくて旅行に一番積極的でない世代よ。
そもそも最寄り中強羅の時点で来るの結構しんどいから、足腰しっかりした人しか来られない。
ガチで山の上まで行く用事がなければケーブルカーまで乗らないよ。
だいたい手前の彫刻の森とか小湧谷とかで降りるもん。
その旅行に来ない世代に客層というかターゲットを絞って、宿を経営しようと思った勇気というか発想はどこから来たんだろうと思った。

でも絶対にまた来る


明日にでもまた来たいもの。
なんか、こう、入院治療に近いものがあった。
オーガニックのお野菜と、(ありがたくグルテンフリーメニューで)消化の良い食べ物を食べる。
そして、こんなに本があると、もちろん部屋でぐうたらしててもいいんだけど、何か手に取らねば!となる。
落ち着くハーブティーを飲みながら本に一時間、二時間熱中すると、ぐるぐるとした思考はどこかに行ってしまう。
身体が疲れたなあと思えば、露天風呂に入ってる温まりながら遠くを見つめる。
そして早く寝る。
23時に布団に入って、6時すぎに起きました。
心の治療を受けたような感じだった。
本を読んでる間と、風呂に入ってる間は物理的にスマホやタブレットの画面は見ることができないので、デジタルデトックスになる。

おかげさまで宿にいる間、思考ぐるぐる無限おすすめ欄眺める不毛な生活を送ることは全くなかった。
チェックアウトする時には、雲ひとつない快晴で、私の心も晴れやかだった。





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