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海底世界での冒険

メモによると、2021年12月11日に見た夢のようだ。
これを書いている2022年2月現在、この夢の記憶はずいぶん薄れている。
さらに記憶が薄れてしまう前に、書き記しておこう。

2021年12月から、私は、仕事で精神を病み、適応障害のため、会社を休職した。
苦手だった接客業に苦痛を感じながらも、自分を鼓舞して、2年間、耐え続けてきた。
外ヅラだけは良い私なので、続けていれば、いずれ人並み程度には接客業をこなすことができるようになって、苦手を克服できると、その時は信じて疑わなかった。
勤務期間が延びるにつれて、人並みには仕事ができるようになり、後輩の指導も行うようになった。
しかし、忙しい上に人手不足で、一人一人の顧客に満足なサービスを提供できない状態が続き、どんどん自分に自信がなくなってきた。
部署リーダーになったものの、自分が胸を張って、その会社の中の接客部門でトップであるということができず、責任や罪悪感がのしかかり、ある時、顔の半分がこわばって動きにくくなったり、体が痛み、起き上がれなくなった。
欠勤・早退ばかりになり、気持ちとは裏腹に、身体が会社を拒むようになった。
そんな状況が続き、心療内科に行ったところ、適応障害と診断され、その場でドクターストップがかかり、休職することになった。

この夢は、そんな休職が始まってすぐに見た夢だ。
あの頃は、まだ休職前の心労で上手く睡眠が取れていなかったため、眠りが浅かったのだろう。

ーーー

私は、何かに追われていた。
どんな場所だったかは覚えていないが、とにかく私は大勢の人に追われて、逃げることに必死だった。
見るからにカタギではないガラの悪い男が数人、何か叫びながら、私のすぐ後ろに迫ってくる。
私は、自分でも驚くくらいの速さで走り、その男達から逃げていた。

途中で、私は、このまま追いかけ回され続けるのが面倒くさくなって、立ち止まった。
相手は急に飛びかかってくるようなことはせず、私からじゅうぶんに距離を取って、同じように止まった。
どうすればこの状況から逃れられるかと悩みながら、彼らに目を合わせると、急に、頭の中に、炎が燃えさかるイメージが浮かんだ。
何だこれはと戸惑っているうちに、追手達は悲鳴を上げて、顔や身体をかきむしって、ものすごい速さで来た道を引き返して逃げ出した。
訳が分からず、私はそれを呆然と見送るしかなかった。
「何これ!」
「火だ!」
「水はどこ?」
「熱い!」
悲鳴と一緒に、そんな言葉が聞こえる。
そこで私は、さっき自分が頭の中に浮かんでいた炎のイメージが、彼ら幻を見せるようなかたちで、襲いかかったのだと分かった。
きっと、私と目を合わせた瞬間、彼らは自分の身体中に火が回ったような幻覚を見たのだろう。
ずいぶん酷いことをしてしまったなと思ったのも束の間、次の瞬間には、まあ奴らがあんな目に合うのは当然だろうと思っていた。
彼らが何をして、私がなぜ追いかけられていたのかは分からなかったけれど、夢の中の自分は、容赦がない性格になっているらしかった。

場面が切り替わって、私は背の高い建物が立ち並んでいて、人通りの多い場所に立っていた。
数えるほどしか行ったことがないけれど、東京都の渋谷スクランブル交差点のようなところだった。
ファッション関係のお店が道沿いに並んでいたので、ボーッとショーウィンドウを眺めながら、歩いた。
とにかくまたさっきと同じような何か面倒くさいなという気持ちがあり、どこか自分がイライラしているのを感じられた。
こんなに人がいるところで、さっきのようなことがあると大変だし、隠さないといけないな。
あー、面倒くさい。
そんなことを考えながら、何も頭にイメージしないように、ただボケッと歩いていた。

急に場面が変わり、濁った海の中にいた。
特に息苦しいといったことはなく、普通に呼吸ができていた。
海の中にある洞窟に向かって、泳いでいた。(平泳ぎ)

洞窟に入ると、石造の神殿のようなところに泳ぎ着いた。
石の床に上がると、ゴツゴツした岩に囲まれていて、さっきまで泳いでいた海が下に見えた。
不思議と、洞窟の中は水が入ってこないようになっていた。

私は走った。
すると、少し先に、自分が探し求めていた宝石が落ちていた。
オレンジのような、赤色のような石。
それに向かって、私は一直線に走った。

すると、岩の影から、髪の色が薄いブロンドの男の子が現れた。
私は、なんとなく、その男の子をよく知っている気がした。
男の子は、落ちている宝石に気がつき、手を伸ばしていた。

私は、咄嗟に手を伸ばして、叫んだ。
「だめ!それに触っちゃだめ!」

しかし、遅かった。
声が聞こえなかったのか、男の子は、落ちている宝石のそばにしゃがみ、宝石を掴んだ。
そして、手に持った宝石を見つめながら、立ち上がった。

男の子の姿が、みるみる変わっていく。
手に持っていた宝石は、手の平の中に溶けたように見えた。
光に包まれると、背がどんどん伸びて、背中からは翼が生えてくる。
男の子の影は、翼の生えたドラゴンに変わっていった。
光が晴れると、男の子は、黒い鱗に覆われたドラゴンの姿になっていた。
ドラゴンはまだ手を見つめていたが、もうそこには何もなかった。

私は目を見開いて、その場に立ち尽くした。
遅かったか…。

ドラゴンが、ゆっくりとこちらに目を向けた。

姿が変わっても、まだ話せば分かってもらえるはずだ。
そう確信して、私は真っ直ぐにドラゴンの目を見つめた。

綺麗な緑色だった男の子の目は、赤色に変わっていた。
その中にある縦に長い黒い瞳孔が、真っ直ぐ、私に向いている。

お互いに見つめ合う時間が、数秒続いた。
私が何か語りかけようと口を開きかけた次の瞬間、一直線にドラゴンがこちらに向かって飛んできた。
鋭い目をして、牙に覆われた大きな口を目一杯開き、地響きのように低い咆哮と共に。
それは明らかに、敵意を持った挙動だった。

咄嗟に私は、術を使って、その場から姿を消して、そばの岩陰に隠れた。
岩陰から様子を見ると、さっきまで自分が立っていたところに、激しい炎が広がっていた。
なんとか間一髪で助かったらしい。

私は、少年を助けられなかったことを悔いた。
彼とは、これまで一緒に旅をしてきたような親しい間柄だった気がする。
しかし、こちらに殺意を持って向かってきたことを考えると、もう私のことを認識することはできないのだろう。

このままでは、自分だけでなく、この神殿や周囲の国や人々にまで危害が及ぶだろう。

ドラゴンの姿に変わったとはいえ、少年と戦うのは気が引ける。
しかし、もはやそんなことを言っていられる状況でもないらしい。
こうしている今も、ドラゴンになった少年は、私を探している。
まるで狩りを楽しむように、長い首を動かして辺りを見回しながら、赤い目を不気味にぎらつかせながら、ゆっくり一歩ずつ岩でできた床を歩いている。
四つ足で立ち、大きな口から覗かせた牙の間からは炎がチラチラと燃えているのが見える。
その姿は、もうかつて一緒に旅をした少年の姿からは、あまりにかけ離れていた。
しかし、その瞳の色は、少年が手にした宝石と全く同じ燃えるような赤色だった。

やはり、できるだけ彼を傷つけるのは避けたい。

さっき男達を追い払った時に使ったような幻術がまた使えたら…。
そう考えて、さっきやったように、頭に何かを思い浮かべようとした。

「待って!」
声とともに、右腕に力強い圧力を感じた。
腕を掴んだ筋肉質な腕の持ち主に目を向けると、髪の長い女性が立っていた。

褐色の肌に黒い髪。
その髪の何束かは、三つ編みに編み込まれていて、ところどころに青い小さな石が留められている。
目鼻立ちのはっきりとした濃い顔立ちをしている。
左頬には、赤黒い線が横に2本入っている。タトゥーだろうか。
どうやらこの女性が私の幻術を止めたらしい。
真っ黒な気の強そうな目が、私に向いている。
お互い、何か言おうとして、口を開きかけた途端、私は眠りから覚めた。

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