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柳モデル:PER=1/(r-g)の疑問点

早稲田大学院の客員教授の柳良平先生が提唱している柳モデルは株主価値のうち株主資本を上回る(PBRで1を超える部分)を市場付加価値として、非財務資本、平たく言うと企業のESG活動が市場から評価されている価値として捉えて、ESGと従来の株式評価(残余利益)モデルを結びつける議論を展開していて興味深いです。

出所:https://www.camri.or.jp/files/libs/1842/202212090819537963.pdf

柳モデル自体は良いのですが、議論の過程出てくるPERが1/(株主資本コスト-利益成長率)に収束するというポイントはやや疑問に感じたので、調べてみました。

出所:https://www.camri.or.jp/files/libs/1842/202212090819537963.pdf

結論から言うと、上記式は正しくないと考えるべきのようです。詳細は以下に述べられているので参照して頂ければと思いますが、ポイントは次だと思います。

ファイナンス理論が教えているのは「株価は将来のキャッシュフローあるいは配当を現在価値に直したものに収斂するはず」ということだ。

出所:https://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/2307_03.pdf

つまりキャッシュフローか配当割引モデルで考えなさいよということです。これを突然、EPSの割引現在価値が株価($${P=EPS/(r-g)}$$)などと言い出すから混乱が生じるようです。簡単に考えても、定率成長配当割引モデルから(以下、クリーンサープラス関係、ROEと配当性向の一定を仮定)、

$${P = \frac{D_1}{r-g} = \frac{E_1 \times d}{r-g} }$$

なので(ただし、$${P}$$:株価、$${D_1}$$:1期の配当、$${r}$$:株主資本コスト、$${g}$$:配当成長率、$${E_1}$$:1期の純利益、$${d}$$:配当性向)、

$${PER = \frac{P}{E_1} = \frac{d}{r-g}}$$

なはずです(配当性向を1とすれば配当割引モデルはEPS割引モデルに等価となるので、PERを簡略化した上式は正しいと言えそうですが、クリーンサープラスなどとは関係なさそうです)。これを別の表現でより一般的な形に書き換えると、

$${PER= \frac{1-(1-d)}{r-g} = \frac{1-ROE\times(1-d)/ROE}{r-g} = \frac{1-g/ROE}{r-g}}$$

となります。ただし、$${g=ROE \times (1-d)}$$でサステナブル成長率です。サステナブル成長率については以下を参照ください。

ここで、PBRは

$${PBR= ROE \times PER = \frac{ROE-g}{r-g} = 1+ \frac{ROE-r}{r-g}}$$

のように表すことができ、資本コストを上回るROE(ROE-資本コストをエクイティ・スプレッドと言います)がPBRが1を超える条件であることが確認できます。資本コストがROEを下回っている企業はROEを上げるか資本コストを下げて、エクイティ・スプレッドを正にすることが重要です。エクイティ・スプレッドが正の企業は成長戦略を検討して、成長率$${g}$$を上げることも重要になってきます。

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