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技術書を執筆することになったきっかけ

「どういう経緯で本を書くことになったんですか?」

交流会や懇親会などでたまに質問をいただく。幸いにも「CSS設計の教科書」、通称「緑本」などと呼ばれる本書のことを知っている方がいたり、あるいは「CSSの緑の本を書いた人ですよ」と紹介いただくことをきっかけに話をしたりするので、この質問になることが多い。
なのでその話をnoteに書き留めておく。

きっかけはブログ

2010年頃、当時はEC Studio(現: ChatWork)に勤めており、ナレッジ共有や採用など目的に技術ブログを公開していた。

そのときに「iPhone向けサイト構築 基礎文法最速マスター」という当時のはてブで流行っていた釣り気味のタイトルをつけた記事を書いた。
これが妙にバズり、はてブで1524ブックマークという数字を出し、Googleで「iPhone向けサイト」などと検索すれば上位に表示されるようになった。

それからほどなくして、会社に編集の会社から連絡がはいる。

「iPhone向けwebサイトの本を書いてみませんか?」

どうやら「iPhone向けwebサイト」などのワードで検索したところ、一発目に僕が書いた先の記事がヒットし、連絡を取ってみたということだった。

著書を持つというのはなんとなく憧れもあり、本を書くなんていうのは普通では経験できないだろうとおもい、ふたつ返事で引き受けた。当時はまだ大阪にいて、編集者は東京ということで、東京出張を兼ねての打ち合わせなど、実にそれらしい進行ではじめての執筆に着手することになる。

このときの編集者が、のちに書いた「CSS設計の教科書」の編集者なのだが、実に彼が頼もしく、そのフォローのおかげで処女作と呼べる「HTML5+CSS3で作る魅せるiPhoneサイト」を書くことができた。

振り返ってみると、単著(ひとりでの執筆)として、それなりのボリューム、日本語の参考資料も少ない中での調査、ブログはまた違う執筆作業、そして本業と平行して締切に追われて書くというのは精神的負荷が半端はなかった。人生でドン底=「死」を意識するほどの辛かったと思うことは何度かあるが、その1つといっても過言ではない。

はじめての著書がもたらしたもの

そうした苦労はあったが、おかげさまで好評で売れ行きもよく、Amazon等でもいい評価をいただいた。その理由としては、まだiPhone向けのwebサイト制作の書籍も少なく、実践的な内容であったことがよかったのかもしれない。
この実践的、というのは個人的に執筆するときには強く意識している。サンプルデータは実際に存在しそうなwebページにようにデザインし、コードを起こすようにしている。

この本が売れた結果、iPhone向けのwebサイトのナレッジや経験があるエンジニアとして声をかけてもらうことが増え、CSS Niteなどのセミナー・イベントにも登壇させてもらうことになった。
またこの書籍が出版されるタイミングに会社を辞め、フリーランスとして活動するところだったので、iPhone向けのwebサイト案件も相談してもらえるようになった。やや生々しい話ではあるが、需要が増え始めたところだったので、単価としても普通にデスクトップ向けのwebページをつくるよりは高く、印税収入もあったので、駆け出しのフリーランスとして悪くないほうだったとおもう。

ちなみにフリーランス後半のほうは色々と苦しいこともあったが、それはまた別のお話。

共著での執筆や連載、再び単著

めっきりiPhone向けのwebサイト制作の知見も増え、iPhone専用のwebサイトではなく、レスポンシブwebデザインの流れになっていくと、それらのトピックを扱う執筆の相談も増えた。著名な方々との共同での執筆、いわゆる共著という形での執筆も経験した。共著は単著のような孤独さという苦しみはなく、相談しながら進められるのがすばらしい。一方で、自分が遅筆だと足を引っ張ってしまうというプレッシャーもある。逆にいえば、自分が先に書き上げたとしても、足並みが揃わなければ出版はできないので、ペースを気にする必要はある。基本僕は遅筆なので、大体迷惑をかけている気がする、すみません...。あと書ききれずに終わってしまった企画もあるので、改めてお詫びしたい...。

他にもWeb Designingでの連載を知人のエンジニアたち共同で持ったり、Adobeでも数回の短期連載を持たせてもらえた。Adobeで記事を書く、というのもありがたい経験だった。

書き始める度に「あゝ、引き受けなければよかった」と後悔し、書き上げては「次もがんばるぞ」というサイクルで1,2年ペースでの共著を続けていたが、いよいよ再び単著を書くことになる。

CSS設計の教科書

若干記憶があいまいだが、この書籍については自分の企画だったように思う。

執筆をはじめるようになると、本を執筆、出版すること自体は実は難しくないのがわかった。というのは各社も次に売れる本は何かを模索し、またその分野に長けている人に本を書いてもらいたいのだ。つまりは編集や出版社のつながりさえあれば、あとは「書きたい!」とおもえばチャンスはある。もちろん売れなければ意味がないので、それを踏まえた上で、ではある。

という実情のなか、やんわりと「そろそろ執筆とかどうですか?」と相談を受けつつ、今はどういうトピックが注目されているのかなどの話をしていた。そのときに、当時の僕としてホットだったのがCSS設計というテーマだった。自分の師匠ともいえる斉藤 祐也 a.k.a @cssradar に色々と叩き込まれていた中、Philip Walton氏の「CSS Architecure」に大変な感銘をうけ、その周辺の記事を読み漁って、CSSの難しさ以上の面白さを感じはじめていた。

こうして、まだ日本語でのCSS設計というワードそのもの、また概念としてそれほど意識されていなかったであろう時に、このテーマは喜ばれる=売れるとおもい執筆することになった。これまた当時売れていた「Sassの教科書」などの色が特徴的な装丁シリーズで、僕は「緑」を指定し、約6ヶ月から9ヶ月ほどで「CSS設計の教科書」が出版された。

さいごに

こうして本を書いた経緯という本題については以上だが、最後に自分が本を書く時に意識していること、実践していることも書いておく。

「CSS設計の教科書」などは初学者向けの入門書とはいえないものの、とにかくサンプルに力をいれて、わかりやすさや実践でのイメージしやすさを考えるようにしている。
このわかりやすさについての基準は、何度も自身で推敲することも大事だが、何もよりもターゲットとなる層に読んでもらうのがいい。それが僕のは常に同業者である妻である。

彼女に章単位くらいでレビューをしてもらい、時には誤字などの指摘もらいながら進めている。ちなみに誤字というのは何度みても、何人にみてもらっても発売後に発見される、つらい。
皆さんも書くことがあれば身近な人、ターゲットに近い同僚などにレビューを逐次もらうはおすすめしたい。

本を書くのは非常に大変だし、書き始めれば99%後悔するとおもうが、それでも良い経験だとおもうので、機会があればぜひ。

明日の元気の素になります。