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私はいかにしてUXエンジニアになったのか

2019年10月7日にGoodpatchでUX Engineer Meetupというイベントがあり、主催のおすみさんに声をかけていただいて登壇することととなった。

一時期のUXデザイナーのように、UXエンジニアというのはにわかに広まりつつあるも、UX Designer以上に「何者」なのかが掴みづらい。正直ぼくもわからないというか「UXエンジニア」という肩書が適切なのかはわからない。しかし、このイベントをきっかけに「UXエンジニアは何者なのか」もとい「私は何者なのか」を考え、その内容をほぼそのまま発表した。

このイベントでは僕だけではなく、Cookpad、Goodpatchとより実践的にデザインとエンジニアリングの境界をもたずに事業を進めてきている会社のUXエンジニアも登壇するので、より実践的、事例を交えた話になるだろうとおもい、僕からはUXエンジニアと呼ばれる人々の概要と、僕自身のキャリアについて語ることにした。

自己紹介

キャリアの始まりはWebデザイナーで、スタートアップというよりはベンチャーと呼ばれる小さな会社にいた。この会社はのちにChatworkという会社になるのだが、ここでは自分でUIデザインもしたし、コードも書いたし、カスタマーサポートだってやった。

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そこから数年経て独立、それからしばらくして、Goodpatchの第0期なフェーズで土屋と創業をした。このときにはUXディレクターなどと雰囲気で肩書をつけていたように思う。当時のGoodpatchはコワーキングスペースに関する事業を目指してたが、そこからUIデザイン、デザインエージェンシーへとピボットしたタイミングで僕は離脱する。そこらへんの今回は置いておいて。

そこからまた色々あってメガベンチャーであるサイバーエージェントに転職。ここではフロントエンドエンジニアという専門職につき、これが僕のここ数年のキャリアの軸になっている。色々なプロジェクトに携わりながら、デザインの観点とあわせてコンポーネント設計、CSS設計という分野を掘り下げた。

ここからさらにスタートアップへの転職を経て、このあたりでUXエンジニアと名刺に刻み、サイバーエージェントに出戻って3年目、今はUXエンジニアと名乗ることになった。

UXエンジニアとは何者か

UXエンジニアをJob Titleとして知らしめたのはGoogleだと思われる。彼らの採用関連のページから引用すると、

UX エンジニアは、優れたデザイン感覚と技術的なノウハウを活かして次世代のプロダクトを開発するポジションです。リサーチャーやデザイナーと協力して、新しい機能の定義・実現、新しいコンセプトのテスト、最終的な実装の支援を行います。
Google: ユーザー エクスペリエンス(UX)エンジニア

「優れたデザイン感覚と技術的なノウハウ」という両立、これが求められているようだ。補足として重要なのは「リサーチャーやデザイナーと協力して」「最終的な実装の支援」のあたり。UXエンジニアというだけあって、実装スキルにもフォーカスされている。

BTCモデルを背景に、UXエンジニアとUXデザイナーの立ち位置でみてみよう。

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こうした立ち位置あるいはそのふるまいというのは、組織によって異なる。実際に海外の求人サイトでの「UX Engineer」を見てみると、その定義や求められていることは様々。

その中でも「なんでもやる」みたいなところはこの数年の国内でのUI/UXデザイナー職のJob Descriptionに書かれてそうなこと。いわゆるフルスタックや、ユニコーンと呼ばれる稀有な人材はそうそう居ないものの、組織とそのフェーズによっては求められることはある。例えばスタートアップで初期フェーズなら、基本的には「勝ち残るためにはなんでもやる」。

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いずれにせよスキルセットやマインドセットを持っていることと、各々の職責範囲は異なるので、それを明らかにすることが大事。そうでないとただの「なんでも屋」になりがちだし、僕もその経験はたくさんある。

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UXエンジニアの主な仕事

具体的な職務は異なるものの、共通してみてきた仕事がある。その中で今回は2つに触れてみることにする。それは「プロトタイプ」と「デザインシステム」。

プロトタイピングについては、しげたさんのLTで特に取り上げられるとおもうので、ここでは僕の考えた方を交えて触れておく。

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プロトタイピングはコンセプトやシナリオ、UIなどの検証を目的をし、またそのプロトタイプそのものやフィードバックを成果物として、チームの合意形成のために必要なプロセスといえる。多くの場合、それを実施する、あるいはファシリテートする役割を担うのがUX某であることがある。

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特に開発初期フェーズにおいては、コンセプトワークや実装フェーズの手前くらいで荒くUIを検証するとなると、そこにUXデザイナーが立つことは多いのではなかろうか。それに対し、UXエンジニアという立場だと、より忠実度の高い(Hi-Fiな)、機能的なプロトタイプを作る技術を備えてるので、後期のプロトタイプ検証で活躍できる。例えばそれはプロダクションで使われているコンポーネントの組み合わせであったり、あるいは実現可能性を考えながらも、荒いコーディングで機能的なUIを実装することもできる。

僕の話をすると、プロジェクトのフェーズやチームの状況によっては低忠実度なプロトタイプをつくることもするし、実装フェーズの前後での高忠実度なプロトタイプもつくる。必要であればやるという感じ。

次にデザインシステムのような仕組みを作ること。僕は特にいまここにフォーカスしている。

デザインシステムというワードを指す範囲は広いので、ここでは包括的に僕の考えで下記のように定義しておく。

プロダクトの品質や「らしさ」を守りながら
スケールさせるための、デザインを運用する仕組み

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実際に必要となるものは、そのときの課題が何かというのに尽きる。それは顕在化している物に限らず、潜在的なものもある。それを知るためには、関係者、つまりデザイナーやエンジニア、あるいはビジネス側との対話をするのが手段のひとつ。どう考えてデザインしているのか、エンジニアはデザインをどう解釈してるのか、何に困っているのか...。あるいはビジネス的にインパクトを出すにはどこを強化すべきか。

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そう考えると。プロダクトの開発において、想定される利用者に対してインタビューやリサーチ、ワークショップをおこなう....そのプロセスと変わらない。

A Design System isn’t a Project. It’s a Product, Serving Products.
Nathan Curtis

デザインシステムの豊富なコンサル経験とナレッジを持つEightShapesのNathanの言葉を借りて「デザインシステムは終わりのあるプロジェクトではなく、プロダクトを提供するプロダクト」であるとすれば、それは運用が必要なものであるというのと同時に、そこにはユーザーが存在することを認識しなければならない。ユーザーを開発プロセスに巻き込む、インクルーシブに開発をするというのは自然なことではないか。ここでデザインシステムのUXを考えてみる。

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デザインシステムがエンドユーザーに対して、ブランドや一貫した体験を提供するためのツールや仕組みであると同時に、システムユーザーがよりよい開発をおこなうためのツールや仕組み。僕がUXエンジニアと名乗るのは、ここがひとつの重要な要素かもしれない。

ならば、開発者体験=DXというのも数年前から言われるようになっているので、UXエンジニア改め、DXエンジニアと呼んでもいいかもしれない。だが、DXというとどうしても「デラックス」な感じもあり...これは個人的には選びづらい。

あるいは、Airbnb社におけるデザインテクノロジストという存在は、デザインシステムを含め、デザインと開発のためのツール開発をおこなう人たちを指す。彼らは「デザインツールチーム」を抱えており、代表的なものとして、LottieReact.Sketchのようなツールがある。

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こうしたAirbnbのデザインテクノロジストのように、デザインとエンジニアリングの橋渡しとしてのツールにフォーカスできるのは、それ以前に彼らがDesign Languageを作れているからこそ。その共通言語を作りをファシリテートできる存在としてUXエンジニアがいれば加速するのではないだろうか。

そして言語化する以前の、文化としてチームでデザインに向き合えるようにする、これは今の僕が抱えているミッションのひとつ。

デザイナーとエンジニアの狭間で、その橋渡しや一時的な溝を埋めるのではなくて、その境界をなくしていくこと。あるいははじめからそういう文化を醸成していくこと。そうした境目の無いチームや文化をつくることが、良いプロダクトをつくることにつながるのではないかと考えている。

Goodpatchの至言を借りると、

偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる
Goodpatch

まさにこれではないだろうか。プロダクトの先のユーザーやビジネスのことはもちろん忘れずに、チームにも目を向ける。

僕の場合は、担当しているプロダクトの開発に関わりながら、一方で事業全体への教育活動もおこなっている。

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UXエンジニアとは何者か、その一つの答え

UXエンジニアという存在は、どうしても「なんでも屋」や「器用貧乏」のような、悪い意味でのジェネラリストと内省してしまう。しかし僕らが関わるプロダクト、サービスを取り巻く環境が複雑になっている今では、それはもうただのジェネラリストではなく、高い共感能力を持ったスペシャリストとしての価値を見い出されはじめているのではないかと感じる。

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悩みもつきないが、今は「UXエンジニア」と名乗ることにする。

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スライド

追記

その後に、B面の記事を書いた。


明日の元気の素になります。