弁当戦争

会社の仕出し弁当が値上げを申し出てきた。
一食330円を360円にする30円の値上げ。近頃の価格高騰の中ではかわいいもので、そりゃ仕方ないねって思える範囲だった。そもそも現時点でMランチさんと新規契約すると単価は400円で、ずいぶん前からお付き合いしているからこその330円だったという話も聞いた。

ところが30円の値上げに弁当組がざわつき、その騒ぎを聞きつけたライバル社のFランチさんが「ウチは350円で納めさせていただきます」と名乗りを上げて来た。矢継ぎ早に「一日試食会をサービスするので検討して下さい」と実弾射撃に乗り出した。
戦争勃発だ。

わたしは普段から自作弁当派で、いままで会社の仕出しを食べたことが無いけど、全員サービスなのでと試食弁当をいただいた。80年代の学校給食かと思うような懐かしい味だった(褒めてないです)。

試食後、会社からアンケートが配られた。
質問① Mランチ360円とFランチ350円ならどっちがいい?
質問② 仮にMランチが350円に揃えてきたらどっちがいい?

結果は、①がFランチ優勢、②がMランチ圧勝だった。下馬評ではFランチは美味しくなかったという意見が圧倒的だったのに民意は10円の価格差を重視したのだ。いやいやいや、美味しくないと分かっていて1食10円をケチるってどうよ。食は大事だよ。出勤20日として月額200円の節約のために毎日不味い弁当を我慢できるのか。ストイックすぎて言葉も無い。

そもそも世の中はデフレを脱却するために適正価格と適正賃金に向かって動き出しているはずなのに、それを真っ向から否定するような民意が優勢なことにも驚いた。食材費、光熱費、人件費、どれをとっても1年前と比べ物にならない経費が掛かっているのはよくわかっているはずなのに、日本国民に染みついたデフレ体質はこれほどまでに根が深かったのだ。

そして後日、弊社の誇る優秀な仕入れ担当者はアンケート結果を持ってMランチと交渉し、Mランチが350円で継続を承諾したと発表した。

勝ったのはウチの会社だった。
戦争は空しい。












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