5月10日　初夏の送別会

　やけに横に長いビルの13階で、窓を開けたまま打ち合わせ。住居とかオフィスとかが、ばらんばらんにぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、蜂の巣みたいだと来るたびに思う。昼過ぎから4時間打ち合わせたけど、夕方になってもまだ日は暮れていなかった。すっかり初夏だ。編集さんが缶ビールを出してくれて、場の空気が一気に弛緩する。

「ははーっ、人の役に立ちてえ」

　缶ビール片手に思いっきり背もたれにもたれたら、共著者の先生がはにかんだ。姿勢を正して、役に立ちたいですよねえと敬語で言い直す。人の役に立ちたい彼の気持ちは、私の欲望なんかよりずっと誠実だと思う。今年、初めて共著を出版する。去年から続いていた打ち合わせも今日で終わり。各々執筆期間に入る。まだ見ぬこの本がいつか誰かの救いの糸口になるように、願っている。

　岩井編集長の送別会まで時間があったので、喫茶店で引き続き菊地さんの文字起こし。合間に知人から作詞提供の依頼とデモ音源が届く。いまいち要領を得ない依頼だったので、引き受けられるか決められないと伝えたら、自分で歌うために作った曲なんだとおずおずした感じで返信があった。もう数年会ってないんだけど、その間に趣味が高じて音楽スタジオまで作ったらしい。メールボックスに投げ込まれた「富豪の遊びです」の文字を見て爆笑。面白そうなので引き受ける。