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蛇神について(中編)

前編」では谷川健一氏の著書をもとに感想めいたことを書いてきましたが私なりに整理すると以下のようになります。
  
・大海の中の激しい潮流である渦はケガレを呑み込み、ケガレを取り除いてくれる。
・これは中国江南や南方から海を渡ってやって来た海洋族の発想である。
・渦はウズ(細長い生き物)に通じ、渦巻は蛇のとぐろに似ている。
・渦と同じ形をした蛇がケガレを取り除くと考えられて信仰の対象となった。

ここでいうケガレを「忌まわしいこと」と考えると、忌まわしいものを取り除いてくれる蛇、特にとぐろを巻く蛇が神として信仰の対象となったことがよく理解できます。この結論は私としては十分に納得のいくものとなりましたが、ここで少し話が横道にそれます。

激しい潮流や渦と聞いて連想するのが、南九州の隼人の盾の文様です。私は、隼人族の源流は中国江南から東シナ海を渡って南九州の地に定着し、土着の縄文人と融合しながら勢力基盤を築いた集団ではないかと考えています。また、東シナ海を舞台に活動する海洋族であったとも考えます。この集団がのちに隼人あるいは熊襲と呼ばれ、魏志倭人伝に狗奴国と記されるようになります。

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私は、隼人の盾の文様は潮の流れや渦を表していると考えています。そして、この文様と極めてよく似た文様を持つ土器が吉備の百間川原尾島遺跡から出土しています。肩の部分にS字状の渦文4個があざやかに描かれた弥生時代後期の長頸壺で、このS字状文様は龍を簡略化した文様と言われています。

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このあたりの考察は以前にブログで書いた通りですが、潮の流れや渦を表す文様、あるいは龍を簡略化した文様、いずれをとっても先述の著者の論考に符合します。著者の論考に隼人族をかますことで大いに納得感が高まると思いました。大祓詞に表出する「激しい潮流や渦がケガレを払う」という思想の源流は隼人族を介して中国江南に求めることができる、ということに確信が持てました。

現代の神道の祭祀に用いられる祝詞について詳しいことは調べていませんが、察するに記紀神話をベースにして構成されているのではないでしょうか。このことは大祓詞を含む祝詞が記紀神話の思想を受け継いでいることを意味していると考えてよいのだろうと思います。そして大祓詞の思想の源流が隼人族や中国江南にあるということは、記紀神話の思想の源流も隼人族や江南の地に求めることができると言えるのではないでしょうか。

少し飛躍が過ぎるとも思いますが、以上のことから記紀神話やそれを成立させた天皇家の源流を南九州の隼人族、あるいはさらに遡って中国江南に求めるというこれまでの私の仮説に対する大きな傍証を得たような気がします。

そしてさらに大胆に想像を膨らませると、出雲の国造りの終盤で海上を照らしながら大己貴神に近づいてきた海蛇が三輪山に祀られるという話は、南九州からウズ信仰を持ち込んだ天皇家(大和)が、国造りの終わった出雲を制したことを意味していると考えることができないでしょうか。

後編に続く)


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