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ホトケオタクの私が語るホトケさま&お仕事紹介#002

イラストレーター&文筆家&漫画家の陽菜ひよ子です。
このnoteでは、今までしてきたお仕事をご紹介しています。
主な内容は、お仕事の詳細や感想、依頼されたきっかけなど。

イラストをご依頼される方にとってのサンプルとなるだけでなく、イラストレーターを目指す人が参考にできるような内容を目指しています。
今までの記事は、コチラからご覧になれます。

本日は二つ目のお仕事。一つ目と同じく「仏さま」のお仕事です。

「仏さまのすべてがわかる本」(ぶんか社)

この本は残念ながら、すでに絶版になっております。
せっかくなので、仏オタクの私が、仏さまについて語りつつ、このお仕事のお話をしたいと思います。


普通じゃない仏さま?


このお仕事、前作の「仏ぬり絵」が好評とのことで、ありがたくも、彩度ご依頼いただけたのですが、最初の打合せで

「陽菜さん、今回の仏さまは、
ちょっと普通じゃない感じにして欲しいんです」

と編集さんから言われました。

ガンダーラ仏ってわかりますか?」
「もしかして、顔の濃いホトケさまですか?」
「ピンポーン!その通り!」


ガンダーラってどこにあるの?

私たちのよく知ってる仏さまって、こんな感じですよね。

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目が細くて鼻も細くて小さい、私たちに似た感じの顔。

そう、こういう仏さまって、東アジア特有なんだそうです。中国でこういうのが作られて、そのまま日本に入ってきたんだと思われます。

東南アジアも似てるけど、お目メパッチリなのも多い。

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これは、カンボジアのアンコールワット

さて、ここで登場するのが「顔の濃い」ガンダーラ仏

余談ですが、ガンダーラと言えば、昭和の名作ドラマ「西遊記」のエンディングテーマでお馴染み。

ゴダイゴの歌う「ガンダーラ」は名曲でしたね~。

♪ その国の名はガンダーラ どこかにあるユートピア
 どうしたら行けるのだろう 教えてほしい

なんて歌詞で、いったいどこにあるんだ、ガンダーラこの世の果てか?
いやむしろ天国で、この地球上には存在しない場所か?なんて思ったりしていた小学生は、私だけではあるまい。

あの頃はネットもWikipediaもなかったから、わからないことを調べるのって結構大変で、ガンダーラがどこにあるかを知ったのって、実は私は割と最近。というか、ガンダーラ仏を描くことになって初めて調べたかもしれません。

で、ガンダーラがどこかと言えば、「パキスタン」なんです。

以下の地図、緑色部分が古代インド。ガンダーラは、左上の赤い丸で囲った文字の辺りで、現在のパキスタンからアフガニスタンにかけた地域です。

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ちなみに、右の方の紫で囲ったシャーキヤってのは、お釈迦さまが生まれた辺り。お釈迦さまは釈迦族の国シャーキャの王子・ゴータマ・シッダールタというのはよく知られてますよね。

ところで、「西遊記」で三蔵法師一行が目指すのは「天竺(てんじく)」(原文では「西天」)です。「ガンダーラ」ではありません。天竺とは、古代インドを指す言葉で、インダス川を指す「ヒンドゥ」から来たと言われています。


これがガンダーラ仏だ!


前置きが長くなりましたが、ガンダーラ仏です。ほら、イケメーンでしょ?上野のトーハク(国立東京博物館)の東洋館に行くとお会い出来ます♡

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ちなみにこの像は菩薩=悟りを開く前のお釈迦さまです。王子様なので、豪華な王冠や宝石類をジャラジャラつけておられます。

この仏像は「ガンダーラ美術」様式で作られています。

ガンダーラ美術は、仏教だけではなく、インドのヒンドゥ教や、ギリシャのヘレニズム文化、シリア、ペルシャなどの文化が交じりあっております。だからこの仏さまは西洋風(ギリシャ風)で、イケメーンなんですね。

もともとインドでは仏像は作られておらず、このガンダーラ仏が初めて作られた仏像だという説もあります。仏像のルーツかもしれないんですね。

どちらにしても、お釈迦様のふるさともガンダーラも同じ北インド。お釈迦さまも、まさにこんな風貌だったのかもしれませんね(うっとり)。

こちらは如来。悟りを開いた後のお釈迦さまなので、お衣裳もとってもシンプル。

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そんなわけで、こんな仏像を描いて欲しい、というリクエストがあったのでした。それ以外にも、「仏さまのすべて」を網羅する「仏の百科辞典」的なモノになるので、いろんな仏像を取り上げたい、と言う話に。

ここでは、変わった仏さまを中心にご紹介します。


仏教と異教の神々

仏教はインドで起こり、パキスタンで仏像が作られたりしましたが、現代ではインドはヒンドゥ教の国(約8割・イスラム教が約2割・仏教は1割にも満たない)で、パキスタンはイスラム教の国です。

そんな宗教の入り混じった中で発展した仏教には、異教の神が取り入れられるようになりました。

仏像の中の「天部」は、古代インドの神々が仏教に取り入れられて守護神となったもの。と言っても、「天部」の仏さまは、今の私たちにもとってもなじみ深いよく知るものが多いのです。


四天王と八部衆


まずは「四天王」

古代インドではインドラ(帝釈天)の配下で東西南北を守る神様。
東の持国天、南の増長天、西の広目天、北の多聞天(毘沙門天)

四天王

多聞天は独尊の場合は毘沙門天と呼ばれます。毘沙門天はお馴染みの七福神の一人で、インド神話やヒンドゥ教にも登場します。

それから「天部八部衆」。一番有名なのが阿修羅(あしゅら)ですかね。

八部衆は古代インドの鬼神や戦闘神、動物神などが、仏教に帰依して善神になったもの。

阿修羅はもともと戦闘の神で、インドラ(帝釈天)と激しい戦いを繰り返していたのですが、仏教に入ってからは守護神となったのですね。残念ながら、この絵はこの本にはありません。

阿修羅が戦っていたインドラ(帝釈天)はあります。帝釈天は四天王の親分でもありますね。

帝釈天

イケメンの王子さまは白い馬に乗ってやってきますが、イケメンの神様は、白い象に乗ってやってきます。

この帝釈天が同一とされているインドラは、バラモン教・ヒンドゥー教・ゾロアスター教の武神でもあります。いろんな宗教から引っ張りだこでお忙しそうな神様です。

帝釈天と並ぶエライ神様が梵天

梵天

梵天が乗っているのはハンサと呼ばれるヒンドゥー教に伝わる神鳥ガチョウの姿で描かれ、古代インドの神ブラフマーの乗り物とされます。

梵天は、ブラフマーが仏教に取り入れられたもの。ヒンドゥー教でははヴィシュヌ(維持神)、シヴァ(破壊神)と共に三大神の1人で創造神とされます。この三人の中では、シヴァ神が有名ですよね。


女神と七福神


仏像には基本的には性別はありませんが、天部には女神がいるのも特徴。

有名どころでは、七福神の「弁天さま」としても知られる弁才天(弁財天)。元はヒンドゥー教の聖なる河の女神・サラスヴァティーです。河の神様なので、水辺に祀られることが多いんですね。これはイラストはありません。残念。

代わりに、同じく七福神の一員である「大黒天」のイラスト。

大黒天

大黒天は、ヒンドゥー教のシヴァ神の化身マハーカーラ神です。七福神では、食物・財福を司る神であることから、大黒柱という言葉の元となったのですね。初耳!

それから吉祥天。
吉祥天

と繁栄の女神として信仰を集めますが、日本では鎌倉時代以降は弁才天に人気を奪われてしまいます。そのためか、日本の弁才天は、中国やインドのそれとは違って、吉祥天の要素が混ざっていると言われます。

この辺りは何だか気恥ずかしい。。。


身近な天や仏さま

「天」には、十二神将と呼ばれる武神があり、薬師如来を信仰する者を守護するとされています。

有名なのは「金比羅(こんぴら)」として名高い宮毘羅大将(くびら)、「金剛力士」とも呼ばれる伐折羅大将(ばさら)あたりでしょうか。

金比羅さまは描いておりませんが、金剛力士は描いております。へたくそです。いやこれは、マジで描きなおせるものなら描きなおしたい。

金剛力士

寺院の門を守護する「あ」(阿形像)「うん」(吽形像)の口をした二体の巨大な像、見たことありますよね?あれが金剛力士像です。

余談ですが、十二神将には、因達羅大将(いんだら)として帝釈天も含まれており、帝釈天ってホンマ忙しいなぁ~という印象。。。


その十二神将とは別に、「天」には十二天というものもありまして、まっことややこしい。ここには、先程から繰り返し登場している帝釈天、毘沙門天、梵天などに、火・風・水・地・日・月などを加えたもの。

その中に登場するのが焔摩天(えんまてん)。私たちもよく知る「閻魔さま」のことです。

閻魔天

インド神話のヤーマ(Yama)が仏教に取り入れられたもの。仏教、ヒンドゥー教では共に地獄、冥界の主とされ、死者の生前の罪を裁く神・閻魔(えんま)です。嘘をつくと舌を抜く怖いお方。

仏教では、閻魔は地蔵菩薩の化身とされます。日本では民間信仰の対象として、お地蔵様として親しまれていますね。それはこちら。

地蔵菩薩

お地蔵さまと言うより三蔵法師みたいですね。髪がないからか。神なのに。(あ、ホトケだった(笑))

この地蔵菩薩、親しみやすいホトケさまですが、実はとっても偉い方なんです。みなさま、弥勒菩薩ってご存じですか?釈迦の入滅後、5億7600万年後か56億7000万年後に出現すると言われている仏様です。

弥勒菩薩が出現するまで、この世は仏が不在になってしまいます。その間に現れて衆生を救う菩薩が、この地蔵菩薩なんです。だから道にたくさん石仏を作って日常的に拝んでるんですね。


動物や変わった神々

「天」は、古代インドの神々が仏教に入ってきたものですが、インドの神には人間ではない物もあります。

有名どころでは、前の方に出てきた八部衆に含まれる迦楼羅(かるら)。

これは、インド神話に登場する神鳥・ガルダが元となった鳥形の守護神。ガルダは最高神のひとりヴィシュヌ(毘紐天[びちゅうてん])の乗り物ともされています。残念ながらこの絵はありません。描きたかったな、ガルダ。

それからガネーシャ。これはヒンドゥ教では象の頭部に人間の体を持つ神様ですね。仏教では歓喜天(かんきてん)、もしくは聖天(しょうてん)と呼ばれます。

歓喜天

歓喜天は、最高神のひとり・シヴァ神(破壊神・大自在天と女神パールヴァティー(烏摩妃)の息子。なぜ象の顔をしているかと言えば、なんともインド人もビックリな話が伝わっています。

パールヴァティーが自分の体から出た汚れから子供を作って、ガネーシャと名付け、見張りをさせていました。そこへ夫のシヴァが帰宅。
シヴァは、入室を拒むガネーシャに怒り、その頭を切り落とし、遠くへ投げ捨ててしまいます。自分の子と知って、シヴァは慌てて頭を探しに行きますが見つからず、近くにいた象の頭を切り落としてつけた、と言うお話。

なんともマヌケでツッコミどころ多すぎな話ですよね。
おかーさんの垢からできた神様って(笑)
近くにいた象もたまったもんじゃありませんね(笑)

ガネーシャは、障害を取り覗き、財産をもたらす、商業の神・学問の神とされています。「富の神様」として商人から絶大な信仰を集める人気の神様。

日本でいえば招き猫みたいに、お店などに置いておきたくなりますよね。愛くるしくどこか憎めないところもいいのでしょうね。


鬼子母神(きしもじん)は、やはり天部八部衆の中の夜叉(やしゃ)の女性形。夜叉(男性系:ヤクシャ)はインド神話の鬼神。ヤクシニーは仏教に入って鬼子母神となりました。

鬼子母神

500人の子の母だった鬼子母神は、栄養をつけるために人間の子をさらっては食べていました。釈迦が彼女が最も愛していた末子を隠すと、彼女は半狂乱となりました。釈迦が諭すと、三宝に帰依し、仏法の守護神となりました。子供と安産の守り神、法華経の守護神とされています。


今年の顔・いだてんとトイレの神様

今年の大河ドラマは「いだてん」。実は韋駄天も「天」のひとりで、ヒンドゥ教の破壊神・シヴァの子で軍神・スカンダが仏教に入ってきたもの。

韋駄天は道教の影響で、唐風の甲冑に剣を持つ若い武将姿で描かれます。

韋駄天

なぜ足の速い人を韋駄天と言うかは諸説ある様です。元となったスカンダは、6つの顔と12本の腕があり、孔雀に乗った若い青年の姿であらわされることも多いそうです。こっちでよかった(笑)

別で孔雀に乗った、その名も「孔雀明王」を描いたので、韋駄天は道教風になった模様。これが孔雀明王。

孔雀明王

孔雀明王は、インドの女神マハーマーユーリー(偉大な孔雀、の意味)が仏教に取り込まれたもの。

怖い顔をした明王の中で、唯一柔和な顔をした菩薩形をされています。孔雀は害虫やコブラなどの毒蛇を食べることから、孔雀明王は「人々の災厄や苦痛を取り除く」信仰の対象とされています。

「明王」も特殊な仏さまで、密教にのみ登場。如来の化身とも、大日如来の命を受けたとも言われています。

一番良く知られているのはやはり不動明王五大明王の中心となる明王です。

五大明王

真ん中が不動明王。大日如来の化身とも言われ、特に日本では強い信仰を集めています。


そんな明王の中でも変わり種といえば、烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)です。

烏枢沙摩(うすさま)明王

何が変わっているかと言えば、この仏さま、「トイレの神様」なのです。

古代インド神話においては、ウッチュシュマ、或いはアグニと呼ばれた炎の神。烈火をもって不浄を浄化する明王として、寺社のトイレに祀られています。またそれが転じて、下半身の病に効く、胎内の女児を男児に変化させるなどの信仰を集めるようになりました。


修行者の最高位・阿羅漢(あらかん)

阿羅漢(あらかん)(略して羅漢)は、最高の悟りを得た聖者のこと。もとは仏の別称でしたが、後に釈迦の弟子(声聞)を指すようになりました。

私も、釈迦がなくなったことを嘆き悲しんでいる弟子、というイメージで描きました。

羅漢


通常の菩薩さま

ここまで、変わった仏さまを中心にご紹介してきました。

本書にはもちろん、阿弥陀如来や弥勒菩薩などのメジャーな仏さまも多数掲載されております。そんな中で特に気に入っているものだけに絞って載せたいと思います。

如意輪観音菩薩(にょいりんかんのんぼさつです。救世観音・救世菩薩とも呼ばれ、聖徳太子の念持仏としても知られます。

如意輪観音

坐像または半跏像で、片膝を立てて座る六臂(ろっぴ=6本の腕を持つこと)の像が多い。この絵もそうなっておりますね。

6本の腕のうち2本に如意宝珠と法輪を持っています。

片膝を立て、右手を頬に当てて考えるポーズを取る(思惟)様子が何とも色っぽく、そこが気に入っているところです。ちなみに左手で持っている花はハスのつぼみで、チューリップではございません。(きっぱり)

こんな優美な仏さまですが、下世話な話をするのをお許しを。

この仏さま、梵名チンターマニチャクラといいます。

如意とは如意宝珠(チンターマニ)、輪とは法輪(チャクラ)の略で、手に持っているものを表しております。

ところで、如意宝珠を意味する「チンタマーニ」に、つい反応してしまうのは、日本人なら当然でしょう。もしやこれは、あの有名なバリ島の観光地・キンタマーニ高原と何か関係が?と思って調べたところ、ビンゴ!

キンタマーニ村(Desa Kintamani)の語源。
如意宝珠の梵名であるチンターマニを祖語とするが、日本語で男性器である金玉(睾丸)に通じることから、エロマンガ島やスケベニンゲンと同様に珍地名として取り上げられることがある。

ひゃっひゃっひゃっ。今回の一番の収穫が、これでしたわ(笑)


最後にキャッチ画像の元となった千手観音菩薩。よー描いたわ、頑張ったわ、私。

千手観音

十一面千手観音という別名もあるように、頭の部分は「十一面観音」と同じ。ところで、日本で一番たくさん作られたのが、その十一面観音なのだそうです。

十一面四十二臂、つまり42本の手を持つ物が通常とされています。その理由は、合掌する2本を除いた40本の手がそれぞれ25の世界を救い、全部で1,000の世界を救うと言われていることから。40本の手に持っているものは、経典で定められています。

十一面描くだけでも大変ですが、42本の手や持物を描くのは、もちろんもっと大変でした。

しかし、像を作ることを考えれば、絵なんてラクちんなもの。実際に千本前後の手を表現した仏像もいくつか現存するとのことで、まさに神業。実物を拝んでみたいものです。


長々と(ホント長いよ。。。6600文字だよ)お伝えしてきましたが、これにてこのお仕事紹介はオシマイです。

このお仕事では28体の仏さまを描きましたが、ご紹介したのは、約2/3の17体でした。

最後までご覧くださり、ありがとうございました。

キャッチ画像のように煩悩だらけの私ですが、今後ともどうぞよろしくお願い致します♡


おまけ

noteからお知らせがありました。

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こんな長いだけの記事ですが、たくさんの方がスキを押して下さったそうで、本当にありがとうございます!
これからもホトケ道を邁進して参ります!!



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