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漫画紹介「金田一37歳の事件簿」

先日に続いて「金田一少年の事件簿」の続編、「金田一37歳の事件簿」を紹介したいと思います。

・あらすじ

かつて高校生探偵として、数々の難事件を解決してきた金田一一。しかしその頃の栄華は見る影もなく、今や彼はうだつの上がらないブラック企業のお荷物社員。仕事の成功や結婚によって成功した人生を送る後輩や友人、そして未だ詳細が明かされない美雪との関係も、少なくとも恋人関係ではないようで……

そんな折、ひょんな事から仕事先にて事件に巻き込まれる37歳金田一。

新入社員葉山まりんの見守る中、「もう事件は解きたくない」と嘆く金田一。果たして金田一は一体どうしてしまったのか。そして事件を解決する事は出来るのか。

金田一少年の20年後を描いた物語。

・魅力その1、大人ならではの苦悩

20年前の金田一は、明確に子どもでした。だからこそ小賢しいながらもどこか純粋で、人並み以上の正義感と情熱を持ち合わせ、殺人犯相手に臆する事無く立ち向かいます。その結果腕っぷしで屈してしまっても、勇猛果敢な姿勢を崩さず、心で屈する事はしませんでした。

そんな気概はもはやどこにもないようで、事件が起きても「解きたくない」と消極的な態度を貫く37歳金田一。

ただ無気力になったのではなく、過去の何かしらの出来事がトラウマになっているようで、金田一自身は謎を解く事をそれほど疎んでいないようですが……だからこそ情けなさが浮き彫りになります。

大人になった事で後先を考えられるようになったのでしょう。あの頃は考えもしなかったであろう「謎を解いた後の保身」に気が行くようになりました。それは慎重になったという事で、間違いなく賢明ではあるのですが、やはりどこか勢いに欠けるというものです。

そんなどこかアンニュイさは、かえって新鮮です。これまでさんざん見てきた金田一少年とは異なるスタンスだからこそ、物語を追う目が変わります。ともすれば魅力とは真逆な感覚に陥りがちですが、これまでの金田一とは異なるという意味では、良い転換です。

・魅力その2、過去を紐解く面白さ

続編にありがちですが、過去を掘り下げられるのが楽しみです。

この漫画では、過去の登場人物がわりと惜しみなく登場します。既に佐木二世に草太、剣持警部に明智警視、高遠に真壁、今回はいつきさんまで、続々と主要・準主要キャラが登場します。そして彼らが口々に語る断片的な金田一の過去が、どうやら現状の金田一37歳に結び付くようで、興味深いです。

過去作のキャラそのものも十分に魅力的なのですが、彼ら彼女らが我々読者の知らない金田一の過去を引っ提げてやってくるので、過去キャラを歓迎したくなる気持ちもひとしおです。

そして時間の経過によって、みんな結構変わっています。顔はあまり変わっていませんが、なかなか落ち着いているようです。真壁とか特に。

ただちょっと20年は経ちすぎだとは思いますけどね。

噂によると、リアルタイムで読んでいた読者の年齢に合わせたのだとか。確かに「金田一少年の事件簿」の連載は1992年からなので、休載期間も含めるとそのくらいの時間経過になるのでしょう。

そういう意味なら、リアルタイム読者はこの時間経過が嬉しい事でしょう。

・魅力その3、新しい相棒

「37歳」では金田一の幼馴染、美雪が登場していません。時々見計らったようなタイミングでライソを送ってくるので死別したわけではないようなのですが、ここまで物語に一切関与して来ないとなるとさすがに気になります。

おそらくこの美雪の現状が、金田一の現状に密接に関わっている事でしょう。登場が楽しみです。

そして美雪の代わりに相棒として活躍するのが、金田一の会社「音羽ブラック」の新入社員、葉山まりん。良くも悪くも今風の女性です。

彼女は天然なのか、よく金田一を振り回します。男を弄ぶ小悪魔的な性格なのかと思いきや、時折見せる金田一の凛々しい姿に動揺するなど、ヒロインしています。彼女が金田一に対して恋愛感情を持っているかはともかくとして、心情的な味方がいるのは頼もしいものです。

また、意外とずぶといところがあるのか、事件にも上司にも物怖じしません。日和った感じの金田一をリードする立場として、物語上重要な役割を担っています。美雪とは違う感じのキャラクター性は、クセになります。

総評

「金田一少年」の流れを汲んでいるので、事件の謎やトリック自体は非常に王道で、誰しもが楽しめます。加えて「少年」と異なる主人公のスタンスのおかげで、また違ったテイストが味わえます。

「少年」ファンにも未読者にも薦められる推理漫画です。

私的好感度:85/100、オススメ度81/100

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