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弁護士として働くことの楽しさ

今年も、宇宙法の話でも書こうかな

と、思っていたが、弁護士として働いて7年目を迎えた今、自分がそれなりの人生の岐路に立っていることに気がついた。たまには(?)自分のことについて書いてみようかという気になった。というより、昨今、司法試験の受験生が減っているだの、法曹の人気がなくなっているだの、なんとなく、この業界のネガティブな話を聞くことが多かったので、ちょっとこのあたりで、弁護士として丸6年間働いて、こんな感じでしたという話をしてみようと思うに至った。

ちなみに、7年目というのは、企業法務を取り扱う弁護士にとっては微妙な年次だ。弁護士は(資格自体に)定年がないことに加えて、日々学びがある難しい職業である。もちろん、年次と能力・経験に絶対的な相関関係があるわけではないのだが、企業法務の世界では、7年目の弁護士は(さすがに「新人」ではないにせよ)未だ「若手」として見られることは一般的であるように思う。そのため、僕が何か偉そうに「弁護士の仕事の何たるか」を公の場で語るのは大変憚られるので、「こんな風に楽しかったです」という感想をつらつらと書いてみようと思う。

ちなみに、これは僕の6年間の感想という極めてちっぽけな個人的体験を記しただけなので、必ずしも一般化できるものではなく、(こういうディスクレーマーめいたことは職業病っぽくてあんまり好きじゃないものの)「それはお前が運が良かっただけだ」とか「俺はもっとこういう側面で楽しい」とか、多分色々な意見があることは当然の前提とさせていただきたい。そして、以下は基本的には企業法務弁護士についての感想である。一般民事や刑事を取り扱う先生や企業内弁護士の先生には、(もちろん共通のやりがいもありつつ)また別のやりがいや難しさもあるであろうことも言うまでもない。

何が楽しいか① 自己決定権

6年間を本当に楽しく過ごせたのは、弁護士の仕事が持つ「自己決定権」によるのではないかと思っている。

もちろん、仕事の100%を嘘偽りなく楽しいということは、難しいことで、しんどいこともあれば、やりたくないような作業が発生することもあるし、弁護士は一般的には「定時」という概念もないので、ワークライフバランスも崩すリスクとは隣り合わせではある。

ただ、少なくとも先輩の弁護士を見ていたり、この6年間の肌感覚として、弁護士という仕事は、(i)どんな仕事をしたいか、(ii)どれくらい稼ぎたいか、(iii)どう働きたいかをかなり自分の裁量で決めることができる仕事であるように感じる。

弁護士は、受けた案件ベースではしっかりと責任を持ってコミットをし、常に完成度の高いアウトプットを出すことが期待されているが(もちろん、これは弁護士に限った話ではないが)、他方、仕事を断る自由や選ぶ自由も持ち合わせている。私が最初に3年間お世話になった長島・大野・常松法律事務所は、巷では高稼働高給料と呼ばれる「4大事務所」の一角であるが、それでも、仕事を断ること自体は全く禁止されていなかったし(もちろん、案件が大量にある場合、周りも忙しそうにしているので「断りにくい」ということはあるかもしれないが)、仕事を断ることよりも受けた仕事のクオリティが低いことの方が問題となる風潮であり、これはどの事務所でも、あるいはクライアントとの関係でも共通することのように思う。

これは年次が上がり、仕事の割合について、事務所・先輩の仕事の割合よりも自分のクライアントの仕事の割合が増えるとより顕著になるように思うが、一般論として言えば、働きたいだけ働いて、その分の報酬をもらうという自己決定ができる仕事ということになる。

魅力的な話ではないだろうか。

何が楽しいか② セルフブランディング

弁護士は、個人事業主なので、究極は自分の名前で売れることが目標とされる(もちろん容易ではない。)。多くの場合には、事務所や先輩の弁護士の看板で仕事をして、そこから徐々に自分の看板を売り出していくという過程を経ることになるが、その過程で、例えば、執筆をしたり、セミナーをしたり、最近ではSNSを使ったりと様々なアイテムを使って自分のブランディングをしていくことができる。

もちろん、究極の目標は、良い仕事をして、その仕事だけで既存のクライアントからの「おかわり」や「紹介」があって自分の看板が売れていくことが目標であるから、実力が伴わない状態で、はりぼての広告活動をすることは有益ではないかもしれない。

ただ、近年では、「オンラインセミナー」という方法ができたことや、noteやX(旧Twitter)という媒体が士業の中でも(目的の公私を問わず)活用されてきているので、発信をするということは昔よりも遥かに容易になっているのではないかと思う。私の(さぼりがちな)noteの宇宙法の記事を見てくださった出版社の方からのお誘いがあって連載がスタートしたこともある。何か、アピールをしたい興味関心領域があるときに、若手の弁護士にとってもチャンスがある時代なのではないかと思う。

自分の名前を世の中に、(慎重に一方で積極的に)売っていく活動は面白い。案件や対外活動を通じて、所属する組織や団体ではなく、個としての存在を売り出していくことのやりがいは、個人事業主としての弁護士ならではのやりがいでないかと思う。

何が楽しいか③ 法律そのものの面白さ

法律は面白い。金商法の複雑な条文や、見たことも聞いたこともない条文のリサーチで頭がクラクラすることも多いが、それでも総じて面白い。特に、会社法をはじめとするビジネス法務に関連する領域の面白さや手続法の面白さは、実際に使う側になってみないと分かりにくいところもあるのではないかと思う。実際、僕は学生自体には決して会社法は好きな法律ではなく、どちらかと言えばとっつきにくいイメージがあった。(予備試験の)短答の会社法とか大嫌いだった。

ただ、実際に使う側になってみると、会社法や手続法が実務においてどのように機能しているかに触れることができ、その奥深さが難しさがよく分かるようになる。

「株主総会で、招集通知が漏れていました。」みたいな事案(実際には、一部の出来立てホヤホヤスタートアップを除いて、そんな事態はほとんどないが)で、学生の頃は「なんか呼ばれてない」くらいのイメージで、とりあえず暗記した論証を吐き出していたが、実際に実務に出ると、株主総会というものがどれほど重要な機関決定で、会社の方々や弁護士をはじめとする関係者がどれだけ神経をすり減らしており、招集通知のミスがどれだけ深刻なものか、身に沁みて分かる。これは教科書の文面だけ見ていても分かりにくいヒリヒリ感であるように思う。

他方、弁護士として働くことは、「これから」できていくルール設計に携わることでもある。流行りの言い回しだと「ルールメイキング」である。僕が好きな宇宙法では、宇宙資源と所有権といった論点がある。このマニアックな論点はここでは記載をしないが(もしご興味があれば、こちらをご笑覧いただきたい。)、まさしく新しいルールができる過程というのは知的好奇心を大いに満たしてくれるものである。

何が楽しいか④ かかわれる産業領域の多様性

関与できる産業領域が多岐にわたることも弁護士の面白い点であると思う。これまで企業法務は、例えば、訴訟、事業再生、キャピマ、税務、M&Aといった弁護士の業務ごとに分野が整理されている風潮があったように思う。しかし、近年では、こういった伝統的な分野整理に加えて、ヘルスケア(医療関係)、ファッションローやスポーツロー、そして宇宙法といった産業領域に応じた専門性の見つけ方があることが注目されている(ように思う)。

思えば、弁護士は関与する産業領域に制限がない。アイドル好きで農業好きの弁護士は、エンタメ系の法実務とアグリテックやフードテックといった領域の法実務を専門性の柱とすることで、その業界の仕事を受けることができる。あらゆる産業領域には、固有の法律実務や適用法令があり、これらは専門性の柱となる。

転職しなくても、分野横断的に、自分の趣味を仕事に結びつけることができるのだ。しかも、うまくいけば、その分野の第一人者になれるかもしれないのだ。こんな仕事はなかなかない。

やってみてよかったこと① 興味関心を大っぴらにする

このように、「なってよかった弁護士シリーズ」は枚挙に遑がないが、おまけとして、6年間という弁護士人生からすると極めて短い時間の中でも「やっててよかった」と言えるシリーズもご紹介したい。

まず、興味関心を大っぴらにすることである。僕は、思えば、学生の頃から「宇宙法・宇宙ビジネス」をやりたいと言っていた。そして、それを自己紹介の場で、ずーっと言い続けた。今でも言い続けている。不思議なことに、友人、先輩、後輩、大学の教授、クライアント、多くの方との出会いの中で、「宇宙法・宇宙ビジネス」と聞いたときに僕を思い出してくれる人がいた。僕はまだ道半ばも道半ばで、その「宇宙法・宇宙ビジネス」ですら、専門家ですと言い張るには奥の深い領域ではあるが、それでも、全く何も知らなかった学生の頃から、僕の興味関心を覚えていてくれて、多くの人が「チャンス」を与えてくれた。その全てを活かしきれていないとすれば、それはもっぱら僕が未熟であったからに他ならないが、ともあれ、興味関心を発信し続けることはとても重要であった。

弁護士1年目の頃は、よく他の先生が開催している(同業種参加可能な)セミナー(特に会社法や知財に関するもの。当時は宇宙関係のセミナーはあまり多くなかった。)に参加した。セミナーで勉強をさせていただくことに加えて、セミナー会社の人に名刺交換をし、以下に自分が「宇宙法・宇宙ビジネス」に興味があるかをアピールした。講演資料を先に作って渡したこともある。そうやって、セミナーを担当させていただけるようになると、今度はセミナー(や、その頃には若干宇宙関係の仕事ももらえるようになっていた)をやったという実績をもって、出版社に記事を書かせて欲しいと打診したりもした。

拙著(共著)である宇宙ビジネスの法務は、出版社(というか社長)に直々に頼み込んで企画化したものである。

草の根の日々であったし、草の根は今もなお続いているけれど、自分が好きなことをアピールすることはやっていてよかったなと思う。

やってみてよかったこと② 中・長期的な目標を忘れない

目先の仕事を大事にすることは本当に大事なことで、これが欠けてしまうとプロではなくなってしまう。が、他方で、目先の仕事で中・長期の展望が曇ってしまっては本末転倒だと思う。弁護士は、「目の前の仕事に真摯に向き合いクライアントに喜んでもらい、中・長期的な展望を実現して、自分を喜ばせなければならない」と、お世話になっている先輩に言われた。その通りだと思う。

日々は忙しく、また、多くの場合、その日の暮らしに困ることもないので、中・長期的な展望を持つことやそれに向けてアクションをすることは大変であり、時に億劫である。僕も、このバランスがうまくとれていないと自分で感じることが多い。

それでも、僕は周りの先輩や事務所に「やりたいようにやりなさい」と背中を押し続けていただけた(おんぶに抱っこだった)おかげで、留学も、国際連合での勤務も実現しようとしている。正直、6年前は、自分が無事に留学をして、英語で授業を受け、英語で研修をし、ましてや国際機関で働くチャンスをもらえるなんて非現実的な話のように感じていた。ただ、海外で宇宙法を学びたいという中期的な展望は、99%の周りのサポートと、先輩弁護士の名言が、残る1%を埋める「やりたいことを見失わないための羅針盤」となった。

そんな感じの6年でした。

おかげさまで、大変の充実の6年間であった。2年間という任期付ではあるが、ジュニアアソシエイト弁護士編(第1部)と留学編(第2部)が終了し、国連編(第3部)が始まろうとしている。

6年間、クライアントや事務所に支えられっぱなしではありながらも、ずーっとワクワクした毎日だった。自分の無力や頭の悪さに絶望したり、忙しくて参る日々もあったけど、それでも弁護士になったことを後悔した日は1日もなかった。

来年もきっと、また毎日ワクワクしていると信じて。

みなさま、メリークリスマス!!少し早いですが、良いお年を。

次回は、@msut1076さんです!
よろしくお願いします!!





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