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初恋今も胸を奏でる

 第二話 苛立つ乙女心
昭和20年4月~6月(当時東京は35区)
 大山水絵の家族は、東京都赤坂区の豊川稲荷の傍に住んでいたが、同年3月の東京大空襲で焼け出され親戚を頼り、家族5人で田舎に疎開をよぎなくされていた。
 都会育ちの水絵は田舎暮らしが馴染めないでいた。
弟ふたりは虫だ!釣りだ!と毎日が楽しくて仕方ないようだが、
一緒に遊ぶ年でもなく東京に帰りたいとそればかり思っていた。
 水絵は地元の女学校に編入したが、来る日も来る日も落下傘、テント製作に明け暮れていた。
 単調な作業に歌好きな水絵は、知らず知らずのうちに鼻歌が出てしまう。
 隣で作業している田中美代が水絵を慌て突っつく。
「水絵さん!鼻歌でてる」
「えっ!有難う!」
ふたりは顔を見合わせ、そっと笑いあう。
 作業と作業の合間に、運動と言えば聞こえは良いが、銃後を守るぞ!とばかりに虚しく声を張り上げ、竹槍、薙刀の練習をする。
水絵は内心、こんなんで守れるのなら戦争なんて楽勝だわ……
意味ないとは言わないけど、無性に腹立たしくなるのだった。

 そして一番嫌なのが空襲警報だ。
疎開していても、時折空襲に襲われる。
ここでも空襲なんて!水絵は疎開した意味がないと憤慨しながらも、一目散に防空壕に逃げ込む。
 
 ここは軍飛行場が近いため爆撃と機銃掃射を受けていると父親は話すが、決して近い距離じゃない!言い返した所で、そんな文句誰が聞こうか。
灯火管制!空襲警報!配給!焼け野原……東京では毎日生き延びるのに必死だった。
昨日挨拶したお隣のおばちゃんが
今日は機銃掃射で亡くなる。
考えるだけで泣けてくる。
 東京はどうなっているの?
友達は大丈夫だろうか。
自分たちは不自由ながらも、親戚からお蔵を借りて親子五人の生活が出来ている。カビ臭い。明かりも真面にないランプ生活だし:
目もんどん悪くなる。
それでも、文句を言い始めたらきりない。
感謝しなくちゃいけない。
みんな必死なんだから。
生きるのに……生き延びるのに。

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