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やっと言えた

 お前の理屈で言い負かされたけど納得してない。寂しい。そりゃそうだろが、お前の温もりが恋しくて俺だって泣くんだ。
 お前の欲しい言葉が言えなくて愛想尽かして出て行った。
でもなぁ言わなきゃ駄目か。気持ちは伝わらないのか? お前が傍にいるだけで嬉しいよ。お前は? 同じだと思っていた。
 本当はこのクリスマスにプロポーズするつもりだった。
だからお前に内緒で「音声燻製」マシーンを買ったんだ。吹き込んだ声を林檎とウイスキーオークのチップでスモークして寝かせて置くと、甘くて大人の色気を漂わせる声のでき上がり。声に自信の無い俺には頼もし助っ人だ。
でもお前は幾らかけても出やしない。然し今日もかける。
「もしも」
「……裕? 声が変よ」
「百合……俺」
「だから……」
「愛してる。百合……結婚するぞ」
「えっ! はい……」
ガチャ。ドアが開いた。
「裕……愛してる」
抱きつくお前が可愛い。
 「音声燻製」はたまに遊ぶ。
あいつの雲行きが怪しくなるとね。

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