比熱|かないりょうすけ

filmmaker, videogreapher, artist|批評、エッセイ、書き…

比熱|かないりょうすけ

filmmaker, videogreapher, artist|批評、エッセイ、書き散らし、フィルム写真など。

最近の記事

ビデオの中のあなたと、いつまでも踊っている:『aftersun』についての覚書

 去る3月に大学を卒業した。専攻した映画研究では卒論で完全に打ちのめされ、批評を離れて映画作家としてのさらなる研鑽を積むべく札幌を離れて東京に移った私に、久々に映画について書く機会が舞い込んだ。思ってもみない出来事に浮き足立ち、題材は何にしようか、先々月に足繁く通ったシャンタル・アケルマン映画祭のことでも書いてみようか、などと逡巡していた5月末のある日、ものすごい映画に出会ってしまった。  5月26日に本邦公開となった映画『aftersun』である。  前評判も良く、ほど

    • タナトスくん

       周囲のひとがnoteに日々のことを書いているのを読むのが好きで、自分もやってみようと思った。  文章を書くのは昔から(たぶん)得意なのだが、そのぶん身構えてしまうというか、きちんとしたものに仕上げなければ...という気持ちが先に出てしまって、いつも疲れる。(これを書き始めたそばからやれ構成が、意味が、伏線が、と頭の中のうるさいやつがもう騒ぎ出している)。  なのでなるべく、心算のうえでは適当に、自分の気持ちに正直に書く訓練としてみている。  あと、ちょうど昨日、年単位で会っ

      • [詩]磨かれ

        夕暮れ、東の空はいっそう青い。 どこかに通じる扉のような、画面から光。 ぴっ すべてが消える。 静寂の、なかの耳鳴りすら今はなく。 雨漏りする揺動が、反響するところだけに重みが宿り、 すべてになる瞬間を探し求めていた、魂は、 不満足のうちに朽ちて、 剥がれやすいものの上に、軟着陸する。 <信用するな> <信用するな> カフェインを摂ろう。

        • [詩]泡々と港

          ほころぶ、と口に出すとき、 じっさいに頬がゆるむ感覚がするけど、 それが今あるんだ、まさに。 きっと大丈夫だ、と口に出すとき、 往々にしてほんとうは震えていたけど、 それが今はそうでもなくて、 浮きぶくろが膨らむように身体が軽い。 消えない痕を残したまま、 星になるより簡単に幸せになるのだろう、 と口に出すとき武者震いがして、 なにもかも溶けていくような安心が、 束の間だったとしても訪れる。 街はわたしを見下ろして光っていて、 それがどんな意味なのかわからずに、 笑っている、

        ビデオの中のあなたと、いつまでも踊っている:『aftersun』についての覚書

          [詩]爪切り鋏を失くした

          爪切り鋏を失くした。 部屋のどこか、おそらく易々と目にはつかないところに転がっていて 新しいのを買うより探したほうがいいけれど それには時間と手間がかかるから今はできない 雪が降ると「ありふれた」がすべて「雪の降る」に変わるから雪は好きだ。 ありふれた宅地にも、ありふれた自分にも降り積もり、雪は 色を奪うかわりに重みをかっさらってくれる 爪は伸びると回転すると聞いたことがあるけど そうしたら手はただの飾りになる クリスマスツリーと同じようにオブジェになって、見ようによって

          [詩]爪切り鋏を失くした

          [随時更新]所感の書簡

          2020/12/20 0:30ごろ いつか全部忘れて 屈託なく笑える日が来るだろうか、 来たらいいな とか 思うけど 2020/10/20の、おそらく2日ほど前 いなくなりたいと思う心の部分は俺自身とてもしっかり持っていて、それでもだれかがいなくなるたびにざわざわとしてしまう。いないことになんかすんじゃねえよ、と、怒り出したくなったりもする。ふざけんな。お前はいるだろ。圧倒的にいるだろ。冗談じゃないよ。 2020/9/22 4:00 置かれる場所がランダムな癖してそ

          [随時更新]所感の書簡

          [詩]無駄

          傷痕をかぞえて 同じ数だけ薔薇を燃やす ひと匙ぶんのサラダ油 垂らせば花弁は身をふるわせる そうしたらひとしきり祈る どうか幸福であるよう。 灰はベランダから撒く (安全のため日中は行わないこと) 排気ガスにさらわれすぐに消える ひらひら落ちる燃え殻 これが終止符の風景 お風呂場で油を傷痕に垂らしても ひやっとするだけ ばかばかしくてすぐに石鹸をつける 水をかけると 油はぬるぬると肌に残ったまま 朝、 光射すベランダに肌をさらせば 熱を帯びる傷痕 いつもの朝をむかえる只

          生きていく

          生きていく。あの哀しみもいとしさもすべてを連れて夜明けまで行く

          [詩]ト・ベ・ウィゼ

          ぎざぎざになった唇に、原料もよく知らないものを塗り込んで街へゆく。反吐がでるような日々を生き抜くために、コメンテーターがわたしたちに塗り込んだニーズにミートするように。体のどこかが痛んで、わすれて、また別のところが痛くなる。 何も知らなくても、字が読めて足し算と引き算ができれば、それでよくなってしまう。あとはあのコメンテーターが口に入れてくれるのを待つ。けれど原料はよく知らない。 ぎざぎざになった心は、なたで切り刻んで、それからおいで。君のかわりはペッパー君ではないけれど、ペ

          [詩]ト・ベ・ウィゼ

          [連作短歌]ダーク

          地球には飽きてしまった舟が出てすぐ窓際に写真を置いた 大気圏内シェルターが外れてもふりきれないでいる逡巡が 火星はいま砂嵐らし 屈強な男の憂い、娘の棲む街 街灯のない宇宙では星がより白いよ、天国からもみえるか ニゲダシと呼ばれてもなおおそろしくある泣き顔のままの死に顔 完璧なるダークのなかで幻の君を視る。まだ息をしてゐる。 くだものと朝がまた来て遊離したような土曜日は夢の中で 5回目の最後の喧嘩きゅうくつ、の声ふるえだす5回目の夢 この宙に満ち