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雨月怪談・十日夜の月「人形の家」

そのバーでは、雨の日に話が途切れたら怖い話をするというルールがある。
十日夜の月の夜、マスターがお客から聞いたのはこんな話だ。

そうです。母親の家を売ろうとしたんです。

それで、何回も希望者を案内してるんですが、どうしても契約までいたらなくて……。

ここでは、そういう悩みも聞いてくれると噂で知りまして、訪ねた次第です。

人形ですか?

ええ、あります。母親が趣味だったので、ひとつの棚は全部人形が飾ってあります。

でも、どれもかわいい人形ですよ。それに、入居が決まったら、すべて処分するつもりですから。

隠し事?

そんなことは……いえ、まあ、ないとはいいませんが。たいしたことではないでしょう?

そうです。小さな足跡がつくんです。でも、きっと足の裏が汚れたネズミがいるんですよ。何度も殺鼠剤をまくけれど、全然死にやがらない。

第一、おかしいんですよ!

だって、母親が集めていたのはこけしなんです。こけしには足がないでしょう? だから、人形が歩いたんじゃありませんって!

それに見学者が来るときは、ちゃんと掃除してるんです。

え? 上? 天井ですか? さあ、気にしたことありませんでした。

そうですね。確かめてみます。確かに天井はもともと大理石風のトラバーチン模様だから、小さな足跡がいっぱいついててもわかりません。

数日後、男は菓子折りを持って、バーを訪れる。天井はトラバーチン模様でもなく、もともとは真っ白だったそうだ。今まで模様と思っていたのは一面の人形の足跡――。

でも、こけしに足はないんです。

最後まで男はそこを不思議がっていた。

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