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テレ東『知らない人んち(仮)』第一話

○和室
   きいろがノックの音に顔をあげると、ジェミが入ってくる。
ジェミ「ちょっといい?」
きいろ「どうぞどうぞ」
片付けようとしている様子を見たジェミが、きいろの隣に座ると手を握る。
ジェミ「今、出て行っちゃダメよ」
きいろ「え?」
ジェミ「ここがおかしいって気づいたんでしょ?」
きいろ「ええっと、まあ、その……ここ、人のうちですよね」
ジェミ「……そうよ。でも、事情があるの。今は話せないけど……」
きいろ「危ない……ことですか?」
ジェミ「……今は、言えない。でも、今出ていかれたら、確実に危ないのよ。だから、気づかないふりをして居続けて欲しいの。そうじゃないと、私が?」
きいろ「私が……?」
ジェミ「とにかくお願いね。ここを無事に出て行きたかったら、出ていかないで」
   ジェミが部屋を出ていくのを、きいろは茫然と見送る。
きいろ「出ていきたいなら、出ていくなって……矛盾してない?」
   ノックの音がして、キャンが部屋に入ってくる。
キャン「さっき、ここからジェミちゃんが出ていったでしょ」
きいろ「ええ、まあ……」
キャン「ジェミちゃんの言うことは信じちゃダメよ」
きいろ「えっ」
キャン「あの子、ちょっとここが」
   キャンが頭を指さす。
キャン「メンヘラなのよね。いつも盗聴されてるとか、命を狙われてるとか言ってるの。どうせ、そう言ったんでしょ?」
きいろ「似たような……ことは……?」
キャン「やっぱり」
   キャンが荷物を片付けようとしているのに気づく。
キャン「なんだ、出ていくつもりだったんだ。じゃあ、すぐ出ていった方がいいよ」
きいろ「いえ、これは整理整頓してただけで」
キャン「ふうん。でも、早く出ていった方がいいから。私、忠告したからね。後は知らないよ」
   キャンは怖い顔をして出ていく。
きいろ「もー、今度は出ていけって言われるー。どうしたらいいのよ!」

○回想・リビング
   壁に貼ってあったホロスコープのアップ。

〇和室
きいろ「あれって星占いのポスターだよね。誰か占いができるのかも!」

○リビング
   リビングにはキャン、アク、ジェミが椅子に座っている。その傍に立つきいろ。手には自撮り棒があり、撮影中。
アク「占いですか?」
きいろ「はーい、そうでーす。そこにホロスコープのポスターが貼ってあるから、誰かやるのかなって」
   一斉にみんながポスターを見た後に顔を見合わせて、気まずい雰囲気。きいろだけは、にこにことテンションが高い。
ジェミ「試してるんじゃない?」
きいろ「はい?」
アク「これはインテリアで飾ってあるんだけなんですよ。だから誰も占いは……」
きいろ「えー、でも、これって」
ジェミ「わかったわ。私が占うから」
キャン「ちょっと」
ジェミ「いいから」
きいろ「ありがとうございます! よろしくお願いしまーす!」
   きいろがテーブルに着く。
ジェミ「それで何を占ってほしいの?」
きいろ「出ていった方がいいか、残った方がいいか、ですかねえ」
キャン「ほら、やっぱり試されてる――」
ジェミ「そ、そう。じゃあ、トランプで占ってあげるわ」
きいろ「トランプ、ですか?」
ジェミ「その方が得意なのよ。いいでしょ? アク、トランプどこにあるかわかる?」
アク「あ、ああ」
   アクが一度部屋を出ていく。その間、愛想笑いを向けるきいろに、気まずそうにしているジェミとキャン。部屋にアクが戻ってくる。
アク「あった。これ」
   ジェミがトランプを受け取ると、早速カードを切り出す。それをテーブルの上に半円形に並べて広げる。
ジェミ「ここから好きなカードを一枚引いて」
きいろ「はーい」
   きいろがカードを一枚裏返す。それはスペードのエース。
きいろ「これって、どっちの意味ですか?」
ジェミ「残れってことじゃない?」
キャン「ちょっと、カードの解釈なんて、勝手にできるんじゃないの?」
ジェミ「キャンは占いできないんでしょ?」
  キャンがうっとなって黙るが、きっとした顔になり、自分でも一枚裏返す。
キャン「じゃあ、私のも占ってよ。当たるか当たらないかわかるから。今の恋愛運ね」
   キャンがひっくり返したカードを見てみんなが息を飲む。
ジェミ「……どうして?」
きいろ「またスペードのエースです、ね。あれ?」

〇和室(夕)
  きいろが台に上半身を寝かせている。自撮り棒は横に置いてある。
きいろ「結局、残っちゃった。しかも、謎は増えたし……」
   ノックの音がした後、すぐに部屋に入ってくるキャン。
キャン「ねえ、ジェミを見なかった?」
きいろ「はい? いいえ、ダイニングで別れてからは誰にも会ってないですよ。ジェミさん、いないんですか?」
キャン「そうなの。用があるのに……」
きいろ「外に出て行ったんじゃ? 散歩、とか?」
キャン「それは絶対にないから!」
きいろ「ひー、なんかすみません」
キャン「もしかして」
   キャンが急に出て行くので、きいろもついていく。
きいろ「あ、カメラカメラ」
   一度、部屋に戻って自撮り棒つきスマホを手に追いかける。

〇外・道端(夕)
   最初にジェミと会った空き地にくると、穴が掘られている。
キャン「やられた」
きいろ「どういうことですか?」
   きいろの質問を無視して、キャンが家に戻る。それについていくきいろ。

〇暗室前の廊下(夕)
   暗室の扉を叩くキャン。
キャン「ちょっと開けなさいよ。どうせ、ここにいるんでしょ!」
   きいろは暗室の扉の下から半分出ているトランプを見つける。
きいろ「あれ、これって……」
   扉を叩いているキャンの足元にうずくまり、トランプを取り上げる。カードの絵はスペードのエース。
きいろ「また?」
   きいろが首を傾げているところへ、アクがやってくる。
アク「見つからなかったんですか?」
キャン「そうよ。それに、あそこを掘られてた」
アク「えっ」
キャン「絶対、ジェミの仕業よ」
アク「困りましたね。今夜なのに」
キャン「そうよ。せっかく、今夜なのに」
きいろ「今夜?」
   立ち上がるきいろを、アクもキャンも今、気づいたという顔で見つめる。
アク「でも、人数は足りてますよ」
キャン「そうね」
きいろ「あの……なんの人数ですか? まさか、私がカウントされてませんよね」
   怯えるきいろに対して、アクとキャンが顔を見合わせて頷く。
アク「夕飯のお鍋の材料のことですよ。せっかく3人分作ったのに、ひとり足りなくてはもったいないと」
キョン「そうそう」
きいろ「え、でも4人分だったんじゃ……」
   一瞬、アクもキョンも黙る。
アク「いえいえ。鶏肉はすでに買ってあったいいものがあるんです。それが3人前なので」
きいろ「鶏肉の数……」
アク「今から用意しますよ。お客様は座敷で待っててください。できたらお呼びしますから。ちゃんと待っててください」
きいろ「あ、でも、ジェミさんを探さないと」
キョン「もういいの」
   突然、暗室の中で大きな音がする。

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