百物語7話目「疳の虫を抜く」(実話怪談)

私の家は商売をやっていたので、拝み屋さんに通っていた。

昔は日田駅の裏に拝み屋さんの家があって、そこに何度か私も行った記憶がある。だから、「井戸」の話で拝み屋さんが出てきても不思議でも何でもなかった。

ある日、大好きな漫画雑誌「本当にあった怖い話」(現HONKOWA)を読んでいると、よく泣く赤ん坊が拝み屋に行って、疳の虫を抜いてもらうシーンがあった。

指の先から、ゆらりゆらりと白い煙が出ていくコマを見ていると、母親が

「それ、あんたもやったよ」

と、言う。

なんでも冒頭の拝み屋さんちで、同じことをされたそう。

疳の虫と言うのは、まあいわば霊感みたいなもので、疳の虫が強いとは、霊感が強いわけだ。だから、この世ならざるものを感じて、赤ん坊は泣く。

でも、疳の虫を抜いてもらえば、霊感が弱まって夜泣きもしなくなるという寸法だ。

さて、時は移って、私は赤ん坊を生んだ。

大変泣く子で、新生児時代は8時間しか眠らず、起きている間はずっと泣いてた。

「モデルだってもっと寝るぞ!」

と、ほとほと悩まされていたので、当時パートをしている主婦仲間にこぼす。

「このあたりで腕のいい拝み屋さんやお寺はないかしら。疳の虫を抜いてもらいたいんだけど……」

当時まだ中学校そばの拝み屋さんの存在を知らなかった。日田駅裏の拝み屋さんは亡くなっていた。だから、聞いたのだ。腕のいい耳鼻科の先生を尋ねるのと同じ調子で。

それは私にとって日常だったから――。

ところが、福岡市内の彼女たちは、疳の虫抜きの話をまったく知らなかった。やったことも聞いたこともないと言う。

あれま!

どうやら消えてしまった文化らしいと気づく。

しかし、困った。

その愚痴を遠賀郡に住む友達に話した。

「え! それなら、○○寺のお坊さんで得意な人いるよ」

遠賀郡の彼女は、やはり当然の文化として語ってくれる。

どうやら、疳の虫の境界線は福岡市と遠賀郡の間にあるらしい。でも、これも20年以上前の話なので、今は遠賀郡でも

「疳の虫を抜く? 知らない」

と言われるかもしれない。

身近な怪異は静かに死んでいくのだ。

※「超」怖い話「彼岸都市」に採話されたものを、私の体験なので、実際のところで書いております。

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