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ジョッキーの腕はどうやって比較すればいいのか?USMという考え方

ジョッキーの腕はどうやって比較すればいいのか?

騎手の実力=腕を比較しようと思った場合、ネックになるのが、騎乗馬の能力を筆頭に、枠や馬場など同じ条件のものがひとつもないという点です。

勝利数や勝率など残した成績で比較はできますが、勝利数が多くてもいい馬にたくさん乗っているだけで、腕前(=騎手の実力)は大したことない可能性がある。もちろん、武豊騎手やルメール騎手のようにいい馬をたくさん依頼される「政治力」の高さが一流ジョッキーの証なので、いい馬に乗ってたくさん勝つことこそが騎手の実力といっていいのかもしれません。ただ、競馬には常に馬の実力差があると思うので、その実力差を埋めるような騎乗を多くしている騎手がいるはずだし、たくさん勝っているけど、たくさん人気馬を飛ばして取りこぼしを頻発している騎手もいるはず。勝利数や勝率だけではそこまで読み解くことはできません。

単勝回収率や複勝回収率という指標もあります。これで人気薄での活躍の多い騎手を評価できるようになるのでしょうか。

中井騎手は今年これまで(21年10月10日現在)の単勝回収率が181%もあり、トップクラスの数字を残している。ただ、成績の内訳を詳しく見てみると1月16日の中京12Rで16番人気単勝299.5倍の超人気薄ロイヤルパールスでの一発が大きく、これで大きく引き上げられたものだったことがわかりました。この一鞍を除くと単勝回収率は68%まで下がってしまいます。このように、回収率は大穴一発で数字が動きすぎるという問題があるし、単勝1.2倍の馬を飛ばしても、単勝万馬券の馬で負けても同じ1敗としかならないので、こちらも実力を比較する指標としてはふさわしいとはいえません。

ルメール騎手と秋山稔騎手の成績を比較してみる

勝利数や勝率、単勝回収率や複勝回収率といった指標は騎手の実力を比較するのはふさわしくないとしたら、どうすればいいでしょうか。

以下は、21年9月5日の札幌でのルメール騎手と秋山稔騎手の成績です。

■ルメール騎手(9戦4勝2着2回3着1回)

1Rジャスティンスカイ 1番人気(単勝1.7倍)1着
2Rシーヴィクセン 1番人気(単勝2.7倍)2着
3Rアークライト 1番人気(単勝3.1倍)13着
4Rノックトゥワイス 1番人気(単勝3.2倍)1着
5Rランスルー 1番人気(単勝2.4倍)7着
7Rエクレルシー 1番人気(単勝3.6倍)1着
10Rヴィアドロローサ 2番人気(単勝3.5倍)1着
11Rゴースト 2番人気(単勝3.0倍)3着
12Rプラチナトレジャー 1番人気(単勝1.9倍)2着

■秋山稔騎手(9戦2勝3着1回)

1Rジョーカーブラウン 3番人気(単勝5.4倍)3着
2Rエンドロール 9番人気(単勝39.4倍)6着
3Rイシュタル 5番人気(単勝11.5倍)1着
4Rロジネイア 3番人気(単勝5.1倍)7着
5Rアルマブレイド 12番人気(単勝37.2倍)競走中止
6Rカシノフォワード 7番人気(単勝12.2倍)1着
7Rイッツオーライト 13番人気(単勝170.4倍)6着
8Rニーニャ 14番人気(単勝91.9倍)5着
12Rヒューマンコメディ 9番人気(単勝55.4倍)5着

騎乗数は同じで、勝ち星ではルメール騎手のほうが多いですが、騎乗している馬は全て1、2番人気馬で、1番人気を裏切ったレースもある。

一方の秋山稔騎手は、勝ち星は2勝とルメール騎手より少ないですが、騎乗馬はすべて3番人気以下で確勝級の馬はいない。騎乗馬の人気を加味すれば、こちらのほうが内容が濃いといえるかもしれません。

このふたりの成績を比較するために、こう考えてみました。騎乗した馬で平均的な結果を残した場合の成績を推定し、何勝分の騎乗馬に乗ったかを算出できれば、それと実際の成績を比べることで、騎手の成績を比較できるようになるのではないかと。

そして、何勝分の騎乗馬なのかを推定するために、注目したのは単勝オッズです。

騎乗馬の能力や、枠、馬場などの諸条件から導き出されるそのレースにおける総合的な騎乗馬の評価があるとすれば、単勝オッズがもっとも正確に反映している数値ではないでしょうか。オッズは馬券ファンの投票行動から積み上げられた集合知であり、オッズと好走率には明確で揺るぎない相関関係(オッズが低いほど好走率が高まる、など)があるからです。

今年単勝1.5~1.9倍の馬の勝率は49.2%なので、このオッズ帯の馬に騎乗したら2回に1回は勝てる計算になります。これを約0.492勝分の騎乗馬に乗ったと考えます。単勝1.5~1.9倍の馬に10回騎乗したら、(0.492勝×10=)4.92勝分の騎乗馬が回ってきたということ。それで、実際の成績が5勝ならほぼ平均的な成績といえるし、7勝ならかなり頑張ったとわかる。逆に、3勝なら2鞍程度勝ち星を取りこぼしているといえるのです。

単勝100倍以上の馬の勝率は0.3%なので、0.003勝分の馬質ということになり、仮に単勝100倍の馬に10回騎乗してすべて負けたとしても、(0.003勝×10=)0.03勝分を取りこぼしただけ。ということで、取りこぼしはあるが、そもそもほとんど勝つことがないので、その取りこぼしの程度はごくわずかということになります。

そういう考え方で、もう一度、ルメール騎手と秋山稔騎手の成績を見てみましょう。まずは、騎乗馬の単勝オッズ帯の勝率、連対率、複勝率を調べます。

■ルメール騎手(9戦4勝2着2回3着1回)

1Rジャスティンスカイ 単勝1.7倍→単勝1.5~1.9倍、勝率49.2%、連対率67.5%、複勝率77.9%
2Rシーヴィクセン 単勝2.7倍→単勝2.0~2.9倍、勝率31.6%、連対率53.0%、複勝率66.0%
3Rアークライト 単勝3.1倍→単勝3.0~3.9倍、勝率24.5%、連対率45.0%、複勝率59.5%
4Rノックトゥワイス 単勝3.2倍→単勝3.0~3.9倍、勝率24.5%、連対率45.0%、複勝率59.5%
5Rランスルー 単勝2.4倍→単勝2.0~2.9倍、勝率31.6%、連対率53.0%、複勝率66.0%
7Rエクレルシー 単勝3.6倍→単勝3.0~3.9倍、勝率24.5%、連対率45.0%、複勝率59.5%
10Rヴィアドロローサ 単勝3.5倍→単勝3.0~3.9倍、勝率24.5%、連対率45.0%、複勝率59.5%
11Rゴースト 単勝3.0倍→単勝3.0~3.9倍、勝率24.5%、連対率45.0%、複勝率59.5%
12Rプラチナトレジャー 単勝1.9倍→単勝1.5~1.9倍、勝率49.2%、連対率67.5%、複勝率77.9%

■秋山稔騎手(9戦2勝3着1回)

1Rジョーカーブラウン 単勝5.4倍→単勝5.0~6.9倍、勝率12.5%、連対率26.7%、複勝率40.8%
2Rエンドロール 単勝39.4倍→単勝30.0~49.9倍、勝率2.3%、連対率6.1%、複勝率11.0%
3Rイシュタル 単勝11.5倍→単勝10.0~14.9倍、勝率6.3%、連対率15.2%、複勝率24.7%
4Rロジネイア 単勝5.1倍→単勝5.0~6.9倍、勝率12.5%、連対率26.7%、複勝率40.8%
5Rアルマブレイド 単勝37.2倍→単勝30.0~49.9倍、勝率2.3%、連対率6.1%、複勝率11.0%
6Rカシノフォワード 単勝12.2倍→単勝10.0~14.9倍、勝率6.3%、連対率15.2%、複勝率24.7%
7Rイッツオーライト 単勝170.4倍→単勝100.0倍~、勝率0.3%、連対率0.8%、複勝率1.9%
8Rニーニャ 単勝91.9倍→単勝50.0~99.9倍、勝率1.0%、連対率2.9%、複勝率6.1%
12Rヒューマンコメディ 単勝55.4倍→単勝50.0~99.9倍、勝率1.0%、連対率2.9%、複勝率6.1%

ルメール騎手の騎乗馬が何勝分なのかを、オッズ帯ごとの勝率を足し合わせて推定すると。

0.492+0.316+0.245+0.245+0.316+0.245+0.245+0.245+0.492=2.841

2.841勝分であることがわかりました。実際の成績は4勝なので、騎乗馬の質を上回る優秀な成績であることがわかります。

そして今度は、連対率を足し合わせて推定連対数を出してみます。

0.675+0.530+0.450+0.450+0.530+0.450+0.450+0.450+0.675=4.660

4.660回連対できる馬質だと推定でき、ルメール騎手は6回連対しているので、ここでも騎乗馬の質以上の成績だったことがわかります。

くどいようですが、複勝率から推定3着内数を出してみると。

0.779+0.660+0.595+0.595+0.660+0.595+0.595+0.595+0.779=5.853

5.853回馬券に絡める馬質で、ルメール騎手は7回なので、ここでも人気上の活躍だったといえそうです。

秋山稔騎手についても見ていきましょう。

0.125+0.023+0.063+0.125+0.023+0.063+0.003+0.010+0.010=0.445

推定勝利数は0.445勝しかなく、1勝分もありません。ただ、秋山稔騎手は2勝を挙げ、優秀な成績を残していることがわかりました。

0.267+0.061+0.152+0.267+0.061+0.152+0.008+0.029+0.029=1.026

推定連対数は1.026回で、秋山騎手の2回はやはり人気を上回る活躍だったといえます。

0.408+0.110+0.247+0.408+0.110+0.247+0.019+0.061+0.061=1.671

推定3着内数は1.671回で、これも3回と人気以上の活躍だったとわかりました。

両者とも人気以上の成績を残していることがわかりました。ただ、これだけではどちらが優秀かはわかりません。なので、実際の成績を推定した成績で割って、その割合の大小を出せば、いいのではないかと考えました。

ルメール騎手

勝利数:4勝(実際の成績)÷2.841勝(オッズから推定された成績)=約141%
連対数:6回÷4.660回=約129%
3着内数:7回÷5.853回=約120%

秋山稔騎手

勝利数:2勝÷0.445勝=約449%
連対数:2回÷1.026回=約195%
3着内数:3回÷1.671回=約180%

このように割合を出して比較すると、秋山稔騎手のほうが勝利数、連対数、3着内数すべてでルメール騎手を上回っていることがわかります。どちらも優秀であることには変わりありませんが、どちらがより優秀かと問われるなら、筆者はこの場合秋山稔騎手のほうが上だと考えます。

そして、こうすれば、ジョッキーの腕や騎手の実力といったものを比較できるようになるのではないでしょうか。

USM(馬力絞り出しメーター)とは

前章では、1日の成績で優劣を比較したのですが、「実際の勝利数」「推定勝利数」で割った割合を1年間といった中長期の成績から算出すればそのジョッキーの実力をリアルに反映したものになるのではないでしょうか。そして、それが筆者が騎手の実力を比較するために編み出したUSM(馬力絞り出しメーター)です。

ルメール騎手を例に詳しく見ていきましょう。

ルメール

ルメール騎手は20年10月3日~21年9月26日までの集計期間中に単勝オッズ「2.0~2.9倍」の馬に199回騎乗し、53回勝利(勝率26.6%)しています。さて、このオッズ帯の勝率は「31.4%」です。この全体勝率に「騎乗回数199を掛けると62.5」と出ます。これは「このオッズ帯の馬に199回乗ったときの推定勝利数」を示すものになります。

「実際の勝利数」がこの「推定勝利数」よりも多い場合、「騎乗馬の能力以上の力を絞り出している」ことを表わすはずです。逆に「実際の勝利数」が「推定勝利数」より少ない場合は、「とりこぼしが多い」ことを示すことになります。ルメール騎手の場合、「2.0~2.9倍」のオッズ帯の馬に関しては、「実数53<推定数62.5」となっているので、このゾーンでは少なくとも馬の力をやや下回る結果しか残せていないことになります。

このように各オッズ帯別に「推定数」を計算し、それらを合算。この「合計推定数」で「実際の合計数」を割ったものが「馬力絞り出しメーター」になるわけです。この率が100%を超えている騎手は「能力以上の結果を絞り出している=頼りになる」と判定できるし、反対に100%を割り込んでいる場合は、「取りこぼしが多い=頼りにならない」と判定できるのです。

ルメール騎手は、推定勝利数が「217.6」に対して、実際の勝利数が「200」なので、馬力絞り出しメーターは「91.9%」、17勝程度取りこぼしているという判定になります。

さらに、「勝利数」「連対数」「複勝圏内数」それぞれについても同様の計算を行ないました。これで「アタマは取りこぼすけど、3着内には持ってきてくれる」とか「1着か着外かのピンパー傾向」といった、各騎手のきめ細やかな傾向も浮かび上がるでしょう。

この「馬力絞り出し率」が算出した数値には、実際の騎手の腕前をかなり反映しているという手ごたえを感じています。活用していただければ、馬券戦略にも役立つはずです。

最新のUSM(馬力絞り出しメーター)を大公開!!

以下は主な騎手のUSMの最新の数字になります。

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最終的には50人超のジョッキーを取り上げる予定なので、単体の記事を購入いただくよりもお求めやすくなっています。

「馬券術政治騎手名鑑2021 Go to ケイバ!」では、紙幅の関係で上位30人までしかバイオリズムのグラフを入れることができませんでした…

みなさんに競馬を楽しんでいただくため、馬券の参考にしていただくため、頑張ります!これからもよろしくお願います!