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長襦袢について和裁士が本気出して考えてみた④こだわり編

長襦袢について語る会、今回が最終編です。
ちょっと難しい話になるかも。

燈織屋は海外縫製や外部委託ではなく、自社で手縫いとミシンを併用して縫製を行います。現在の店舗を開業するまではミシンを使った事がなく、すべて手縫いでお仕立てしていました。
帯や着物の仕立て上がり品を販売するようになり、遂にミシンにチャレンジ! 直線縫い専用のベビーロックさんの職業用ミシンを購入しました。

「手縫いとミシン縫いのいいとこどりをしよう」

熟練の和裁士からすると「手縫いの方が速い」と言うでしょう。私も最初はそうでした。糸の色を選んでミシンに上糸と下糸をセットして、糸調子を確認して……糸がぐしゃあっと絡まって進まなくなるわ、下糸が切れて縫えないわで、1時間くらいあれこれセットし直してようやく縫えたり。
諦めずに使い続けて2年半、ミシンとなんとか仲良くなれたかな?

一応線引きはしていて、洗える素材の生地はミシン縫いするけど、正絹は絶対手縫いです。縫う力が強すぎて、生地が傷みますからね。
ミシンの力に負けない生地だからこそ、綿やポリ素材は普段着物としてがんがん着れると思います。

さて、ここからは仕立て方のお話。
この2枚の長襦袢、違いが分かるでしょうか?

パッと見て分かる違い……それは竪衿(着物で言うと衽の部分。前身頃に付いてる細長い布)です。反物ではなく洋服生地で長襦袢を作るにあたって、一番のポイントはここになります。
それでは、順を追って説明していきましょう。

まずは、反物と洋服生地のサイズの違いから。
一般的な長襦袢の反物は幅36~40㎝×長さ10mですが、洋服生地なら幅110~130㎝×長さ4m。幅がたっぷりある事と裁断を工夫する事で、身幅がⅬⅬサイズでも余裕で作る事が可能になりました。

次に、仕立て方の違いについて。

①竪衿を付けない
前身頃+竪衿の幅を前身頃だけで取ります。そもそも竪衿という部品を付けていたのは、反物の幅だと前身頃の幅が足りないから。洋服生地なら幅がたっぷりあるんだから、わざわざ生地を切り取って付け直す必要はないのです。付けない事で作業工程も減らせます。

②内揚げを作らない
和裁は、余った布を切り取らずに縫い代の中に入れておくのが基本です。丈に余った分を腰の位置に折り畳んでいる部分を内揚げと言います。これをあえて入れていません。入れない事で腰回りをすっきりさせています。

③衿の縫い代を最小限に
通常の長襦袢より衿の中に収める縫い代を減らしているので、厚みがなくて衿元すっきり。同じ布で半衿も付けてみました。このまま使うもよし、違う半衿を楽しみたい時はこの上に付けてももっこりなりません。

水洗い出来る素材だからこそ、背縫いや衿付けなどの並縫い部分はミシン縫いでしっかり丈夫に(ミシンは上糸と下糸で生地を叩くので、少し硬くなります)。
でも、縫い代の始末は手縫いの『くけ』という和裁の技術を用いています。
工程的にはロックミシンで縫い代を落とす方が楽でかさばらないのですが、それだと縫い代がぴろぴろ泳いでしまいます。表側に見える縫い目はなるべく少なくしながら、縫い代をしっかりと手縫いで押さえる。効率化も目指しつつ、伝統技法でとことん着心地にこだわってみました。
こうする事で、アフターフォローで裄と身幅をワンサイズ大きく仕立て直す事も可能になります(ミシンの縫い跡と折り筋は残ります)。

袖付と身八ツ口に付いてる、ちっちゃな糸の塊。これは虫留めです。着ている時に力がかかってほつれやすい場所には、これで補強しています。こういうのも手縫いならでは。

そしてリネンだからなのですが、三つ折りぐけをする部分をいつもより多めに折っています。リネンは、細く折るとフニャッとした折り線になりやすい。真っ直ぐ綺麗に折ろうとすると作業が遅くなるので、あえて縫い代を太くして、サッと折ってくけれるようにしました。

手を使う仕事をしていると、基本を大切にするからこそ、手間のかかる作業をする事が良き事だと思ってしまいがちです。

ちゃんとしている。
手間がかかっている。
ここはこうしなければいけない。
だから高くて当たり前なんだ。

それって作る側のエゴじゃない?

和裁教室を始めて、生徒さんたちに気付かされました。
着物を着る人が大事にする事と、作る人が大事にする事の違い。その溝。

「なんでそれ必要なの?」

聞かれる度に、なんでこうするんだっけ……と自問自答して、自分が『教えられた』事をなぞっていただけなのだと気付かされました。

着る人が望んでないなら、額縁を作らなくてもいいし、掛衿下がりを4寸にしなくてもいいし、別掛衿にする必要もないし、袋縫いにしなくてもいいし、正絹でもバチ衿にしていいのだ。

ちゃんと仕立てる時は普通に仕立てる、省略出来る時はとことん簡略化する。
和裁士が一歩、着る人に歩み寄る。
着る人と作る人の間の『ちょうどいい』を追求してみる事にしました。

長くなりましたが、そんな和裁士が本気出して考えた長襦袢を、現在マクアケにて先行販売中です!

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和裁士が考えた『ちょうどいい』長襦袢を、ぜひご体感ください✨

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