語りたがり#2-1 「Creepy nuts/アンサンブル・プレイ」

Creepy Nutsのニューアルバム「アンサンブル・プレイ」が2022年9月7日にリリースされました。

Creepy Nutsといえば今じゃさまざまなメディアに露出してて見かけることも増えて来た今日この頃。DMC World DJ Championships 2019王者のDJ松永とULTIMATE MC BATTLE 2012、2013、2014年で三連覇を果たしたR-指定のHIPHOPユニットで、近年はHIPHOPヘッズ以外からもたくさんの支持を得ている。

実はわたくし唄丸はかなりのHIPHOPヘッズで日本語ラップの新譜はほとんどチェックしている。日本語ラップをメインで聴いてるけどUSも有名どころは割と抑えている方だと思う。察しのいい人は気づいたかもしれないけど、唄丸って名前もRHYMESTERというHIPHOPグループの宇多丸というMCからとってる。HIPHOPをたくさん聴いてるだけでさして造詣が深い訳ではないがアンサンブル・プレイの感想をつらつらと書き記す。


とりあえずの感想

まず初めに聴いた時は興奮気味で上手く咀嚼できなかった。実を言うとアンサンブル・プレイはかなり楽しみにしていたので一週間前くらいからそわそわしていた。リリースの9月7日になった瞬間Apple Musicを開いた。ここでApple Music恒例のリリース日になっても一時間くらいは反映されない現象。JUSWANAばりに今か、今かと待ち侘びてやっと反映された。いざ聴いてみるとただニヤニヤしてただけで終わった笑

感想はよ

一聴した時は音楽性の高いアルバムだと思った。Creepy Nuts、というかR-指定の強みの一つである歌唱力が存分に発揮されていた気がする。さすがやでR-指定。松永さんのビートも幅が広くて聴いていて楽しい。「2way nice guy」は凝ったベースとハンドクラップの音で楽しげ、アルバムの前半にはもってこいの曲だ。「パッと咲いて散って灰に」もシンプルなドラムで爽やか、疾走感がある。かと思いきや次の「dawn」はおしゃれなクラブでかかるようなパーティーチューンで”夜”にいる大人をイメージさせる。かと思いきや次の「堕天」はサーカスのような不可思議さにHOOK前には小洒落たピアノ。”あっという間、目が醒める”の所ね。TVアニメ”よふかしのうた”のOPテーマなだけあってチープな夜の使い方、みたいなビートだ。

書いてて思ったけど「dawn」はお洒落だけどちょっと傷がある大人の夜。「堕天」は子供が本来ならやってはいけない事に片足を入れ始めた、「dawn」とは違って堕ちていく事に不安を抱きながらも楽しんでいるチープな夜。みたいなイメージかな。

不気味なスキットの「Madman」。「Madman」に関してはマジで不気味。それしか感想が出ない。トラップビートの「友人A」。あとで書くと思うけど「友人A」はかなりスキルフルな曲だと思う。「フロント9番」はめちゃくちゃおしゃれなピアノが使われていて、ドラムがシンプルだからなのか映えている。続く「ロスタイム」もおしゃれなビートで良い意味で少しCreepy Nutsぽくはないかなと感じた。YOASOBIの二人が客演した「ばかまじめ」は「2way nice guy」みたいな楽しげなビートでありながら少し切なさも感じる。なんでだろうか。「Madman」から後半曲はなんというかこのばかまじめに救われてるような気がする。

Intro、Outroはまさにアンサンブル・プレイを象徴するような喧騒。街中から音とって来たのかな。

松永さんの凄いところは発想力なのかなと思う。「どっち」では鼻をつまんで出した自分の声をメインの音ネタに使ってたし、「Lazy Boy」では最初の数秒は松永さんの家のベランダから聞こえた喧騒音を取り入れていた。「Lazy Boy」の忙しい!というテーマに街の喧騒、街の忙しさを直接ビートにしていた。この発想力が松永さんの大きな強みの一つなのかもしれない。クリエイターというか何かを表現する人として優れすぎている。

そういえば今回のアルバムは”R-指定はより感覚的にリリックを、松永さんはより論理的にビートを作る”と言っていたそうだ。YouTubeのアンサンブル・プレイのトレーラー動画のコメント欄でそう見かけた。松永さんが論理的にビートを作り始めたからこんなにも音の幅が広がったんだろうか。逆に考えると今まで感覚的にやってあんなにやばいビートを作ってたのか。

ビートの幅が広がった事によってR-指定のリリックの世界観も広がったのかな。


リリックを飲み込んでみて

エッグいアルバムやで…

それがリリックをちゃんと聴いた時の感想だった。かなり心臓えぐられる。良い意味でも悪い意味でもかなり現実を突きつけるアルバムだ。

「パッと咲いて散って灰に」はDMC、UMBで誰よりも鎬を削ってきた二人だからこそ”勝負事”ってものの残酷さを歌ってると思う。なんたって入りが”誰も傷つけないで終われるなんてハナから望まねぇことだぜmy men”だからね。当たり前過ぎて忘れがちなんだけど勝った人がいるって事は負けた人がいるんだよね。しかも突き詰めて行けば最終的に勝ちで終われるのは一人だけなんだ。これはかなり辛い。

勝った人間が途中で諦めないのはリリックでも言ってる通り”自分達の手で終わらした声や願いが簡単に許してくれないから”なんだと思う。屍って表現するとちょっと物騒なんだけど、途中で諦めたりすることはその屍たちに対しての侮辱なんではなかろうかと、唄丸は考えたわけだ。進撃の巨人のシガンシナ区奪還編の時にエルヴィン団長が怖気付く兵士達に演説をするシーンがある。そこでエルヴィン団長は「死んだ兵士たちに意味を与えるのは生者の我々だ。あの兵士達の死を無駄にするな。」という旨のことを言う。(読み返した訳じゃないからもしかしたらめちゃくちゃ間違ってるかも)現代の日本では”命をかけて戦う”みたいな場面はそうそうないと思う。そんな中で戦いで死者に意味をもたす、とか戦って死んだ者の命を無駄にするな、っていうのはピンとこない。けど思い返してみれば意外と日本は(日本以外もそうかもしれないけど)競争社会で小さい頃から何かと他人と比べて、比べられて来たと思う。そういう競争社会の渦が”戦って死んだ者たちの命をむだにするな”ってことを可視化したものなのかもしれない。

「パッと咲いて散って灰に」は高校野球の曲?だったはず。でもこの曲はスポーツに限った話じゃない。何かに挑戦する人、何かと戦う人達の曲なんだと思う。


「2way nice guy」は「パッと咲いて散って灰に」よりは良い意味の現実かな。”使い道次第でgood thing bad thing”ってある通り良い面、悪い面が何事にもあると思う。2wayだから道は一つじゃなくて、生き方も一つじゃないんだと僕は勝手に思った。R-指定は昔から人と同じことができない、誰にでもできることが自分にはできないとよく言っていた。そのコンプレックスみたいなものはリリックになっていて知っている人も多いはず。多分R-指定は昔から普通にしろとか、周りと同じように生きろ、って言われて来たのだと思う。それができなくて悩んでた。でもラップに出会って生き方は一つじゃないって思ったんだと感じたはず。人と同じ事が出来ないのは事実だけど、それでも使い道次第で”まさかって所にハマるから”安心しとけみたいな良い現実。これはラップでここまで上り詰めてきたR-指定だからこそかけるリリックなんだなぁ。


「友人A」はもう…ね…?

だいぶキツイよね…

この曲は寝たふりの冴えない学生くんが思いを寄せてた子に対する曲よね。(これが唄丸の精一杯の解釈です)卒業から3年も経つって事は21歳くらいかな。深夜のコンビニバイト中に思いを寄せてた子と再会。再会って言っても多分その子は自分に気づいてない。ていうか多分学生時代も喋ったことすらないんだろうな。そういう現実ってあるよね。好きな子、気になる子はいるけどその子に思いを伝えるはおろか、話しかける事すら出来ない。学生時代(今も大学生だけど)イケてない側だった唄丸にもありました。思い出すと辛いね。パーティーカクテル効果じゃないけどその子の名前が出ると耳を立てて聞いてたり、その子の噂話がやけに出回って来たりで話したこともないのにちょっとその子に詳しくなったりする。「友人A」の彼も同じでその子の男の趣味が悪い事を知ってる。”一年ん時サッカー部の彼氏、二年ん時野球部の彼氏”、”他校の先輩を挟み結果的に今の彼氏、DVで束縛も激しいらしい…”、”まぁ全部噂話”。全部噂なのも辛いね。その子と話す事は出来ないから事実確認はできないし確かめる術はない。好きな子に彼氏いるっていう噂話、聞くのキツイよね。書いててもしんどい。

深夜のコンビニでバイトしてる僕と僕には気づかない君。これだけで小説が書けそう。けたたましい排気音を出す車に乗ってる君と君の彼氏。けたたましい排気音の車ってだけでどんな彼氏か想像できる。

”3分経たずにBack againまたあのけたたましい排気音”彼氏が降りてきた。僕は彼氏にいちゃもんつけられると思ってた。趣味の悪い男と付き合ってる君。ヤン車に乗ってる彼氏。多分言い出したもん勝ちのクレームをするんだろうな。そう思ってた矢先、

”「お釣り多かったです」と手渡し…”

”そのお釣りでついでにコーヒー…”

”君は助手席で超つまんなそうにくわえタバコでiPhoneと睨めっこしてる…”

ヤン車に乗ってる彼氏でDVで束縛も激しいらしいって噂話は全部噂話の域を出なかった。一度車を出したのにわざわざコンビニまで戻ってお釣りを返しにきた。リリックにはなってないけど合いの手として会話が聞こえる。”大変すね、遅くまで”君の彼氏くんはそう言う。噂話では彼氏くんは最低なやつだったのにほんとは違った。お釣りをわざわざ返しにくるだけじゃなくて労いの言葉をかけてくれた。それに対して僕はいちゃもんをつけられると思って構えていた。身なりや噂話で人を判断する僕と、排気音の良い車(たぶんマフラーとかにお金をかけてる)に乗って他人を気遣えて僕が好きだったあの子の隣に座ってる彼氏くん。全部が反対で嫌になる。

でもこれも”よくある事っちゃよくある事”だよね。あるある〜ってポップに流せるほどチープじゃない現実。どうしようもできないこと。これはきつい。


ここまで読んでくださってありがとうございます!「フロント9番」からは先は10月1日更新予定です!

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