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幸せの核に近づくための自分メモ #6

◆ THE MATCHを観に行った。さすが、各団体のチャンピオンやそれに準じる実力者たちの試合とあって、どの試合もハイレベルだったが、最後の2試合(海人vs野杁正明、那須川天心vs武尊)は迫力と緊張感が違った。

◆ 今回の興行で、出場選手中、誰よりも株を上げたのが海人選手だったと思う。彼が強いのは知っていたが、ここ最近の野杁選手の勝ちっぷりは怖ささえ感じさせるほどだったので、この試合も野杁選手がKO勝ちもしくはダウンを奪って判定勝ちと予想していた。ところが、これまでの対戦相手に有効だった、野杁選手の鉄壁のガードからのボディフックや奥脚への前蹴りが、海人選手には明確なダメージを与えられない。我慢比べ+ハイレベルな技術の攻防が計4R続き、最後は海人選手に軍配が上がった。もともと階級が上とはいえ、あの怪物=野杁を下すとは。今回の判定結果に不満があるわけではないが、最初から5Rで観たかったと思わせる内容だった。野杁選手の株が下がったのではなく、ただただ両者の強さ、特に海人選手の強さが光る試合だった。

◆ 天心vs武尊について、私は決定以来ずっと中立派を自認してきたが、今回の武尊選手の入場にはウルッときてしまった。武尊選手の試合を初めて観たのは2012年5月3日の嶋田将典戦だった。タイのムエタイ選手さながらの軸足払いを見せる実力者=嶋田選手を、左ボディフックで沈めた強さは記憶に残っている。あの日はたしか興行の第1試合で「両選手、入場」スタイルだったと記憶しているが、私の所属ジムの選手がKrushで試合することが多かったため、彼が3OH!3の「Touchin on My」で入場するのを何度も見てきた。彼が天心戦以外で唯一敗北を喫した京谷祐希戦も、怒涛のフック連打でKrushチャンピオンになった寺戸伸近戦も、新生K-1旗揚げ後にチャンピオンの座に就いたトーナメントも、すべて会場で観戦している。10年前の5月3日にはヘイターもそれなりにいたかもしれないが、押しも押されもせぬK-1 3階級王者となった今、誰もが認めるK-1の顔だ。その過程を一般の人よりはだいぶ知っている(と思っている)せいか、感傷に浸っている自分がいた。

◆ いざ試合はというと、天心選手がさすがの一言。絶妙なタイミングでダウンを奪った左ストレートはもちろんのこと、鋭いリードジャブが何度もガードの隙間から武尊選手の顔を跳ね上げ、終始ペースを握っていた。バッティングや投げを受けた際にはしっかり時間を取ってペースを乱さないようにし、打ち合いに応じるかと思いきやフックをウィービングでかわし距離を潰す。競技者として二枚くらい上手だったように思う。これだけのビッグ・マッチであれば5回戦で観たかったのが正直なところだが、それでも同じ結果になっていたのではないかと思えるくらい、説得力のある動きだった。

◆ 今回の試合にかける思いの強さは武尊選手のほうが上、というのが一般的な見方だったと思うし、私もそう感じていた。しかし、判定の結果が告げられるやいなや涙を流し、試合後のマイクで「勝ったぞー!」と絶叫する天心選手を見て、あぁ、この人もまた、この人にしか分からない重圧を感じていたのだなと、当たり前のことに気づかされた。相当に孤独な戦いを強いられていたと思う。そして、試合後のリング上で、そんな天心選手を慮る言葉を武尊選手が掛けていたのを知り、やはりジーンときてしまった。これからもきっと孤独な戦いを強いられるであろう天心選手の、次なるステージでの活躍を願ってやまない。

◆ 魔裟斗さんは(本人の意思ではないものの)ペトロシアンと対戦することなく現役生活を終えた。畑山隆則さんも現役当時、同階級の王者だったフロイド・メイウェザーとの統一戦は行っていない。それでも二人とも偉大な元チャンピオンであるという事実に変わりはない。武尊選手にもそれと同じような選択肢があったはずなのに、今回の試合を熱望し、実現させた。結果として負けはしたが、これは本当に本当に尊いことであり、誰にも奪えないものだと思う(私が言うのも僭越で気が引けるが)。「一度でも負けたら引退」を常々公言してきた武尊選手の去就が気になるところだが、まずは本当にお疲れ様でございました。そして、ありがとうございました。

◆ 人生における目的って、究極的には「幸せになること」以外にないと思う。幸せとは名誉でなく、内なる自分自身から抽出できるものだということは、相当数の人々の間で共通認識となっているはずだ。これは海人選手とて野杁選手とて天心選手とて武尊選手とて例外ではない。ならば、何が彼らを駆り立てるのだろう? 理屈が及ぶ範囲の話ではないことを重々理解しつつも、時々ふと気になることがある。先日、故モハメド・アリの"Service to others is the rent you pay for your room here on earth."という言葉を知った。天心選手や武尊選手がしばしば口にする「格闘技には人にパワーを与える力がある」という言葉を思い出した。そうか、これが彼らなりの家賃の納め方というわけか。そうであるならば、自分にどんな家賃が払えるのかを考え、動こう—とすぐにでも奮起するのが正しい姿なのだろうが、今のところはただ余韻に浸らせてほしい。いつか彼らの姿を思い出して自らの原動力に変えて、滞納した分を支払うから。

◆ 格闘技は最高だ。

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