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堀部圭亮さん

昨日、堀部圭亮さんが出演している『ドライビング・ミス・デイジー』の舞台を観に行ってきました。草笛光子さんと市村正親さんとの3人芝居。とても上質で、大人用に作られた舞台でした。会場は満席で、高齢の方々がすごく多く、杖をついて歩いてる方が何人もいました。それでもみなさん、本当に満足して劇場をあとにしてました。

映画なんかでも終わらせ方で監督のセンスが出てしまうのですが、この舞台の終わらせ方はとても自然で、大人な演出に感動しました。そして、舞台そのものにも感動したのですが、草笛光子さん、市村正親さん、もう1人が堀部さんというところにも感動しました。凄いと思いました。

堀部さんとの出会いは12年ぐらい前だったかと思います。去年、映画『Shell and Joint』を作った時のプロデューサーである伊東さんとやった仕事でした。伊東さんが独立してクロマリズムという会社を作る前です。伊東さんとは、私もその仕事で初めて会いました。

その時の仕事は医療系のWebムービーでした。今となってはWebムービーは当たり前なのですが、その当時にしっかりとお金をかけて作るWebムービーは珍しかった気がします。しかも、医療従事者しか見られないというクローズドなものでした。

1話が5分だったか10分だったかの連続ドラマでした。トータルで90分ぐらいのドラマだった気がします。脚本は港岳彦さんでした。毎回の終わりに、主人公が短歌を詠むという、渋いドラマでした。

その仕事で初めて堀部さんと仕事をしたんです。何でその仕事の記憶がうろ覚えなのかと言いますと、その仕事が「お蔵入り」してしまったからなんです。たぶん数千万円かけて作ってると思うのですが、クライアントの中でのゴタゴタがあり、お蔵入りしてしまいました。

もしあの上質なドラマが世に出ていたならば、私は「若いのに上質な人間ドラマが撮れる監督」と思われ、国民的ドラマや映画を作っていたかも知れません。でも、あのドラマがお蔵入りしたことで、私はやさぐれて、しばしば「意味不明」「独特」と言われる作品を作る方にカジを切ったんです。

いやいや、そんな事は無いのですが。

そして次に堀部さんと作ったのが『BABIN』という作品です。文化庁委託事業『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』というプロジェクトの1本として作りました。

堀部さんの下半身を地面に埋めて撮影をしました。

本当にやりたい放題やった作品でしたが、ndjcの試写会のアンケートには厳しい意見もたくさんありました。その時の試写会は、一般のお客さんではなく、日本の映画業界にいる方々に対しての試写会なんです。「あんな設定は俳優に対して失礼」「俳優がやりたいと思える話を書くべき」みたいな意見もありました。試写会後の懇親会でも偉い方にいろいろ言われましたが、「だから何ですか?」みたいな不遜な態度を取っていたのを、懐かしく思い出します。あの時は大変失礼しました。

この作品がロカルノ国際映画祭で上映され、すぐに「次を作りましょう!」ということになり『aramaki』という短編映画を、堀部さんの1人芝居で作りました。

『aramaki』は、1人の男が森の中で自殺するまでを、1カットで見せている作品です。セリフはありません。堀部さんには大体の段取りと、位置関係を説明して、あとは成り行きで撮影しました。

「成り行き」

ヒドいですね。私は最近やっと気づきました。役者に対しての説明が足りな過ぎることを。大して説明もしない。読み合わせはやらない。リハもやらずに「リハ本番!」て言う。

先日作ったブランデッドムービーのお披露目の場で、MEGUMIさんに「監督はドSですね」と言われてハッとしました。もしかしたら、MEGUMIさんが言っていた「ドSポイント」は別なのかも知れませんが、私は「リハ本番」という自分のドSさに気づかされました。

『aramaki』では「成り行き」かつ「リハ本番」で撮影しましたが、堀部さんのおかげで1テイクでOKになりました。「成り行き」でやってるぐらいだから、2テイク目をやるつもりは最初から無いでしょうね。当時の私は。

私は堀部さんと会って、役者に対する見方がすごく変わりました。役者というのは、元から輝く才能を持っていて、カメラの前に立てば誰でも物怖じせずにやるものだと思ってました。

でも、堀部さんが1人で公民館を借りて芝居の練習をしているのを目の当たりにして、考え方が変わりました。役者も演出部や撮影部みたいなのと同じで「技術職」なんだなと思いました。訓練なんだと思いました。

私は役者になりたい若者がいると「役者って技術職だから訓練した方がいいですよ」と言うんですが、伝わっているかどうか。「遊ぶことが芸の肥やし」と思って、遊んでれば役者になれると思ってないか心配です。しっかり訓練された人が遊ぶから「肥やし」になるんですけどね。

堀部さんとはすぐに『Shikasha』という短編映画を作りました。たくさんの捜査員が、地面に埋められている母子を掘り出すという話です。埋められている母親は尾野真千子さんなのですが、セリフがありませんでした。私はやっぱりドSなんでしょうか。

堀部さんと作った短編映画が立て続けに、ロカルノ、ベルリン、カンヌに決まりました。長編映画を作ることがあったら、まずは絶対に堀部さんと作りたいと思っていたので、去年作った『Shell and Joint』でそれが実現して、ホッとしています。そして、やっぱり安定の堀部さんでした。

堀部さんとは作品から仕事までいろいろやってきましたが、まだまだこれからもやっていきたいと思ってます。むしろ『キッズ・リターン』風に言うと、「俺たちもう終わっちゃったのかな?」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」でしょうか。

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