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子ども番組も作ってます

プロフィールにも映画の事しか書いてないですし、作った作品はいかにも難しそうで、面倒くさそうだなコイツは、と思われてるかもしれないのですが、『しまじろうのわお!』というこども番組を2012年から作っています。正確に言うと、幼児教育番組を作っています。2019年で8年目に入ります。

実は私が作っている短編映画などの作品と子ども番組は、真逆にあるようで、すごく近い考え方で作られています。

私の映画作りで一番優先しているのが、日本人以外の人が見ても分かる普遍性と表現です。基本的に短編映画は海外の映画祭に向けて作って来たので、国内でだけ通用する表現にはしません。極端に言うと、セリフ無しでも分かる作品を目指します。そして扱うテーマも、世界共通で本質的で普遍性のあるものにします。

一方で子ども番組も、本質的な表現をしないと子ども達に伝わらないんです。例えば、会話の「間」で子どもたちの笑いを取ることは出来ません。「転ぶ」と笑うんです。そういう意味では、ドリフターズの「8時だョ!全員集合」が、子どもたちから絶大な支持を受けていたのも頷けます。転んだり、タライが落ちてきたり、粉が降ってきたり。私が作っている番組は、小学校に上る前の未就学児を対象にしているので、よりプリミティブな表現になっていきます。

私たちは、子ども向け番組ではなく、幼児「教育」番組を作ってるので、定例会議には幼児心理学の先生が同席しています。その表現が子どもたちに伝わるレベル感かどうかと、教育的意義を先生に確認します。

例えば、ターゲットにした年齢の子どもの短期記憶が30秒しかないとした時に、フリからオチまで1分あると、子どもにはその面白さが伝わらないんです。フリがフリとして機能しないんです。そういう子どもの認知レベルと照らし合わせて番組を作っています。短期記憶だけじゃなく、他にもたくさんのチェック項目があります。

だから、ただ面白いだけの企画や表層的な企画を持っていくと却下されます。どれだけ偉そうに話そうが、やる意義をプレゼンしようが、粉々に粉砕されます。でも、「心理学の先生の検閲がある」というイメージではありません。どちらかというと先生が一番過激です。教科書みたいな伝え方をしても伝わらないのが、未就学児だからです。教育をエンタメで包まないと届かないんです。

それでも、「普遍性のあるテーマを!」「本質的な表現を!」と私たちが一方的に言っても、テレビの向こうには視聴者がいます。本質的すぎる表現をするとお叱りを受けます。例えば、野生動物の食うか食われるかというシーンをそのまま見せたコーナーはお蔵入りしました。未就学児を対象にしていると、それだけで終わらず、そのコーナーを見て怖いと思ってしまった子どもが、私たちの番組自体を二度と見てくれなくなるんです。

7年前に始めた時は、TV番組を作るのも初めて、もちろん子ども番組を作るのも初めてというチームで『しまじろうのわお!』は始まりました。でも、週に一回行われている定例会で喧々諤々議論をし、たくさんのコーナーを作っているうちに、いつの間にか子ども番組を作るスペシャリストになってしまった気がします。もちろん、遥か上の方には、ものすごいスペシャリストのNHKのEテレの方々がいるのですが。

そして、すみません。ここから自慢話を書いてもよろしいでしょうか。

その『しまじろうのわお!』が、今年のアジアテレビ賞(Asian Television Awards)で、Pre-school部門での最優秀作品賞を受賞しました。

映画祭というのは割とポピュラーなので話が通りやすいのですが、TV番組を対象にしたメディアフェスティバルというのは、一般的には馴染みがないと思います。

世界的に一番有名なのは、アメリカのエミー賞じゃないかと思います。国際的には、国際エミー賞、バンフワールドメディアフェスティバルが有名です。アジアテレビ賞というのは、アジアを対象にしたメディアフェスティバルになります。国際エミー賞、バンフワールドメディアフェスティバルでは、ノミネートまでは行ってるのですが、まだ受賞はしていません。

このクラスの世界的なメディアフェスティバルに行くと、ライバルはBBCやディスカバリーチャンネルやセサミストリートだったりします。世界的大スターが動物について語ったりしています。深海探査艇が深海1万メートルに潜ったり、吹き出す火山の上をドローンが飛んでいたりします。そこでの戦いになります。いや、そもそも戦いになるんですかね?

でも、それらライバルとも言えないほどレベルの高い番組も、結局は普遍的な本質を見せているんです。幼児番組なのに、答えのない哲学的な問いを描いたりしています。普遍的な本質を描いているから、レベルの高い番組になっているとも言えます。

それらの番組は私たちの予算の100倍は軽くあると思いますが、「しまじろうのわお!」はノミネートされることで、隣に座らせてもらっています。それは、予算で差の出る見た目のクオリティを差し引いた時に何が残るかを、ちゃんと見てもらっている証拠なんじゃないかと思っています。

私が映画でも子ども番組でも海外を目指そうとするのは、着飾った見た目ではなく、骨格を見てくれるからだと思います。日本の有名人が出ていても、海外の場ではそれがアドバンテージにならないですし、まさに普遍性と本質を見られる場ですから。

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