3分で読みコント『もうすぐクリスマス』

3分ほどで読める『読みコント』です。





『もうすぐクリスマス』


「いやあ、もうすぐクリスマスやね〜」

大きなあくびをしながら内藤完二は呑気に言った。僕は率直な疑問をこの内藤にぶつける。

「もうすぐか?」

「もうすぐやんか〜、この『もうすぐ』っていうのは人それぞれの捉え方やからな、その人ならではの『もうすぐ』があんねんな」

「相場があるやろ」

「もうすぐで言うたらクリスマスイブももうすぐやな」

「そうなるわな」

「クリスマスイブイブももうすぐやな〜」

僕は、いつまでもマイペースな内藤の言葉を無視し、読んでいた小説に目を落とす。最近、スマホで電子書籍を読んでいる。電車の中でも読めるので非常に便利だ。

今、読んでいるのはジェフリー・ディーヴァーの『クリスマス・プレゼント』という短編集である。短編ながら各話、どんでん返しの結末に手に汗握らずにはいられない。別に手に汗握りたくないとは思っていない。

ふと、内藤を見ると、自分のかばんの中をガサゴソし、スケジュール帳を取り出した。

僕は聞いた。

「予定でも書き込むん?」

「いや、今日がクリスマスまで、どれぐらいイブなのかなと思って」

僕はありとあらゆる感情を込めてこう言った。

「は?」

内藤は、僕のせっかくの優しさと慈しみと真心が込もった「は?」を聞かず、スケジュール帳の日にちのマスを指でなぞりながら、数えていった。

「イブ、イブ、イブ、イブ、イブ、(中略)」

「イブイブうるさいぞ」

「ちょっと、ややこしくなるから口を挟まんといて。イブ、イブ、イブ」

僕は内藤の意見を尊重しようと思い、もう絶対口挟まん、と誓う。


「うわー!」

内藤が叫び声をあげ、僕を見た。

僕はさきほど『口挟まんの誓い』を立てたばかりなので、真一文字の口で内藤を見返した。

「見てくれ!大発見だ!」

だから僕は『口挟まんの誓い』を立てたんだって。

そんな僕の思いに何の関心も持たず、内藤はその大発見とやらを僕に発表してきた。

「今日は、なんと!・・・」





溜めてやがる。『なんと!』の後の言葉を溜めてやがる。

生意気なやつだ。そんな生意気なやつには、火を通せ。そしたらば、焼意気になるから。







何でもない。


内藤は目をランランと輝かせて言った。



「今日はな、クリスマスイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブやわ!」


イブって33個言いやがった。



そう、今日は2018年11月22日である。

クリスマスはほぼ1ヶ月先だ。

内藤の『もうすぐ』の射程範囲は広いのである。



「うわー!」

また内藤の素っ頓狂な叫び声がこだました。

「なに?」

僕は、もうすっかり『口挟まんの誓い』のことを忘れて聞いた。

そもそも、なんだ?『口挟まんの誓い』って。


「すまん!今日、クリスマスイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブイブちゃうかったわ!」



「うそーん!?ちゃうんかえー!ちゃうんかえー!」






なんて、明るく反応するわけがない。実際は

「ん?」

である。

内藤はもちろん僕の「ん?」なんて耳に入ってない。内藤はそういうやつである。



「今日は、勤労感謝の日イブやったわ!」

2018年11月23日は勤労感謝の日である。今日が22日だから、イブなのだろう。




僕は優しさと慈しみと真心を山盛りに、それはもう山盛りに込めてこう言った。









「は?」




おわり

おもしろいこと、楽しいこと、皆さんの心を動かすことだけに集中させてください。どうか皆様からのご支援をよろしくお願いいたします。