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メンターは88歳・❹

主人公、29歳のわかめさんは会社以外に居場所がなく、日々の生活に悶々としていました。会社の人間関係に依存し、週末はひとりぼっちにならないように必死です。自己分析をしても何の特技もないことに打ちのめされます。SNSを見ながら他人の充実した生活に心揺れ動かされてばかり。自己啓発にチャレンジしようと思っても行動に移せず時間だけが過ぎていく。自称言い訳名人。孤独と将来への不安に心がザワザワする日々を送っていました。そんなわかめさんが88歳のなおえさんとバス友になり、「パラレルキャリア」という新しい生き方を教わります。この変化がわかめさんの人生に新たな色を加えるのです。

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第4章 わかめさんが思いきって実践してみた「パラレルキャリア」について


・確実に稼ぐ仕事(勤めでも自営でも)を作る(いつでもどこでもできる仕事がベスト)

 バス友で88歳のなおえさんは、わたしの人生における重要な師匠で、多角的な働き方についての豊かな知識を持っていた。

 「パラレルワークとは、一つの太い固定の仕事を持ちながら、他にも好きな仕事をすること」となおえさんは説明してくれた。

 「それは、安定と情熱を同時に追求する理想の働き方なのよ。」

 わたしはなおえさんの話を聞いてきて、完全にその考えに魅了されていた。

 安定した収入を確保しつつ、自分の情熱を傾けられる仕事を追求する。それはまさにわたしが求めていた生き方だった。なんのスキルも資格もない自分がいつ会社で退職勧奨の対象になるかわからないから。

 なおえさんは続けて、パラレルワーカーとして成功するためのノウハウを教えてくれた。

 自分にまったく自信を持てなかったわたしでも、自分の時間や知識を生かした働き方を模索する勇気を持てたのだ。

 なおえさんの教えは、わたしにとって新たな可能性の扉を開いてくれた。固定の仕事を続けながら、同時に情熱を注げる別の仕事にも取り組める。

 将来が不安で、なにをしても安心できそうにないわたしにとっての理想の働き方であり、自分らしい人生を歩むための一歩だった。

・特技や趣味でのオンラインスクール講師(ストアカ)

 前はテレビのチャンネルをいじるしかなかった夜。わたしはパソコンの画面を通じて、なおえさんのオンライン短歌教室に参加していた。

 88歳の彼女は特技や趣味を生かしてオンラインスクールの講師として活躍している。

 なおえさんの短歌教室は、彼女の豊かな経験と深い知識に基づいたもので、参加者は講師としてのなおえさんの教えに魅了されている。

 ただ短歌の技術を教えるだけでなく、その背後にある感情や思い、言葉の威力を伝え、参加者一人ひとりの心に深く響く言葉を見つけさせてくれる。

 他にも母親向けの子育てや難関校の受験講座も開講していた。なおえさん自身、高学歴のお子さんを持つ母としての経験があって、その知見を活かして多くの母親たちを支援していた。

 そのアドバイスには、実体験に基づく具体的で実用的なものが多く、参加者からは高い評価を得ているようだ。

 わたしは画面越しになおえさんを見ながら、人生のどの段階にあっても新しいことに挑戦し、人々に影響を与えられることをあらためて感じた。

 なおえさんはただの講師ではなく、人生の多くの局面において道しるべとなる存在だった。学ぶことは多く、わたしは彼女の教えを心から尊敬している。

 特に、生きてきたなかでの工夫や子育てを通じて得た経験には「語る資格の御紋」が見えたくらい。印象的だったのが、フルタイムで働いていることで悩むママさんへのアドバイスだった。
 
 そのママさんはハードなお仕事をされていて、帰りが遅くなる。「平日の子どもの誕生日にホールケーキを買ってあげられなくて、情けないきもちで仕事を辞めたくなったことがある」と泣いていた。聞いていたママさんたちもうなづく。

 ちょっと重い雰囲気のなかで、なおえさんの回答にギョッとした。
「平日にホールケーキって買えないわよね。いい方法があるのよね、子どもがみんな「わぁぁー!」って喜ぶ秘策があるのよ」

 てっきり「ケーキなんてなくてもいいじゃない」と言うのかなと思ったから、わたしの表情を見て、なおえさんが急に「わかめさん、おわかり? 」とわたしにふった。もちろんわからない。「ほらほら、あれ、31の! 」
 
  あ! サーティワンのアイスケーキなら事前に買っておける。しかもお子さんは大好きだろう。わたしも大好き。なおえさんは続ける。
「お誕生日から逆算して、冷凍庫を片づけて、アイスケーキを入れるスペースを作らなくちゃいけないんだけどね。」ペロッと舌をだしておどけて話す。
 泣いていたママさんや他のママさんもみんなが笑顔になった。

・特技や趣味で作ったものを販売する(ブログ、YouTube、ココナラ、メルカリ)

 夕暮れのカフェで、わたしは88歳のなおえさんと並んで座っていた。今日はなおえさんの新しい詩集の出版について出版プロデューサーと話した。

 なおえさんは、特技や趣味を生かして作った作品をデジタルの世界で売り出すことに長けている。

「わたしの詩集はね、電子書籍で出版したのよ。そして、ブログやYouTube、販売プラットフォームを使って、自分の作品を宣伝しているの」と嬉しそうに語った。

 なおえさんのSNSには、彼女の詩の一部が掲載されており、読者をその世界へと誘う。YouTubeでは、彼女自身が詩を朗読し、その魅力をさらに広げている。

 なおえさんは、年齢を超えたデジタルスキルと、創造性豊かな心で、多くの人々に影響を与え続けている。その詩集は、深い感性と経験を反映したもので、デジタルという媒体を通じて、多くの人々の心に触れていた。

 なおえさんの話を聞きながら、わたしは自分自身の特技や趣味を生かしたなにかをはじめたいと思うようになった。なおえさんのように、デジタルの力を利用して、自分の作品を世界に届けることができるかもしれない。

 なおえさんは年齢にとらわれずに新しいことに挑戦する大切さを、わたしに教えてくれたのだった。

・家、スペース、空間を商品化する(バーチャルオフィス)

 ある冬の日、わたしはなおえさんの家の縁側に座っていた。ある時期毎朝バスで会ってはおしゃべりしたなおえさんはわたしの人生の師匠で、いつも新しい発想でわたしを驚かせてくれる。
 
 今日の話題は、所有する家々についてだった。ここと長崎市、カナダに家があるのだそう。
 「夏はここ西宮と長崎の家を使わないから、フリーランス向けのレンタルオフィスにしているのよ」「冬はカナダの家もおなじようにしているわ」と笑顔で語る。
 なおえさんにとって、空間は単に生活する場所ではなく、価値を生み出す資源だった。
 
 なおえさんの家は、落ち着いた空間なので、フリーランスの人々にとっては、静かでインスピレーションに満ちた作業環境を提供している。それぞれの地域の風景や文化を反映したデザインとなっていて、訪れる人々には印象的な場所だ。
 「空間はお金になるだけではないの。人々に新しい視点や刺激を与えることもできるのよ」と言い、その言葉には実践者こその深い真実が込められていた。
 わたしはなおえさんの姿勢から、物事を見る新しい角度を学んだ。ただの物件所有者ではなく、人々の創造性を豊かにする場を提供することに情熱を注いでいたこと。
 そうだ、運転免許証を返納した祖父の駐車場をLUUPの置き場に貸してみてはどうだろう。管理人のアルバイトを申し出てみようかな。

・誰かに相談された頼まれごとを商品化する(面会サービス)

  なおえさんのお気に入りの衣類を丁寧に折りたたむ。88歳のなおえさんはわたしの人生の師匠であり、いまは病院のベッドに横たわっている。なおえさんから頼まれて、わたしはなおえさんの好みに合わせた衣類や必要な品々を病院に届けていた。

 ある日決済サービスに「実費と交通費、そしてわたしの時給」が送られてきた。なおえさんはわたしにこのサービスによって、新しいビジネスのヒントをくれたのだ。

 その前日、アパートのお隣さんとエレベーターの中での会話を思い出す。お隣さんは派遣契約を切られることになって、失業保険の手続きにハローワークへ行くと言っていた。

 なおえさんの部屋から窓の外を見て、わたしはふと思いついた。

 「もし、このような面会に行くことをサービスにして、お隣さんにも仕事の機会を提供したらどうだろう? 」

 そのアイデアはわたしの頭の中で膨らんでいく。病院にいる人々にとって、誰かの訪問や面会は大きな喜びだ。そして、訪問を提供する人々にとっては、それが新しい働き方となり得る。

 わたしはなおえさんにこのアイデアを話し、パラレルワーカーなおえさんの意見を求める。なおえさんはそのアイデアを聞いて、やさしい微笑みを浮かべた。

 「素晴らしいわ、わかめさんならきっとできるわ」と言ってくれた。その言葉を胸に、わたしは新たなビジネスプランの構築をはじめる。なおえさんの教えと支援を受けながら、わたしは新しい道を歩み始めようとした。

 なおえさんからもらったアドバイスは……

○ 「主軸となる仕事を探して雇用される」
大手企業なら週20時間以上、中小企業なら週30時間以上で雇用契約をして、社会保険と雇用保険に入れてもらうこと
○ 社会保障を受けられる要件を調べておく
○ 副業がOKな会社。副業を自営業でやると会社に説明する
○ 副業OKな会社に勤め、面会サービスを個人事業ではじめる
○ 事業計画を作って自治体の創業支援を活用する/法人化検討
○ 「面会サービス」の売上が年600万円程度になったら法人化を試みる
○ いつかはみんなおひとりさま。誰もが安心して逝けるように任意後見の提案もあり

・お別れ

 アパートのポストにあったなおえさんから届いた封筒を手にした。

 手紙となおえさんに似合っていたピンクのスカーフが入っている。

 なおえさんはわたしの人生の師匠であり、パラレルワーカーとしての道を教えてくれた。毎日がグレーだったわたしに新たな知恵と勇気を……言葉にならない。

 察知力が過剰に働く。

 突然のお別れの手紙が届いたのだ。

 急いでなおえさんの元に向かったけど間に合わなかった。
 なおえさんがこの世で一番信頼していると言っていた長男のパートナーであるみわこさんがいた。

 なおえさんから少し前に「お話ししたいです。お会いできませんか」というチャットがあったのに、たまたま仕事が重なっていて、「会えそうな日」を返信できずにいた。

 もう「あと数日かもしれない」と言われていたらしい。みわこさんは不義理なわたしを責めることなく、「母がお世話になりました」と下を向くわたしの手を握ってくれた。優しいぬくもり。
 
 なおえさんは亡くなっていた。バカバカ、わたしのバカ。電話一本できたはずなのに。ごめんなさい。会える日を連絡しなくて。

 ごめんなさい。なおえさんの笑顔の遺影の前で両手で顔を覆った。

 会いたいと言われたら会っておく。会いたいひとに会いに行く。

 これがなおえさんの最後の教えだった。

 「わかめさんのことずっと見守っているわ。お幸せにね。」「文章で言葉の力を学んだわよね。次はストーリーを習うとよいわよ。学びを続けていってね。」なおえさんの手紙にはストーリーを教えてくれる一流のプロの脚本家のスクールのことも書いてくれていた。

 涙があふれる。いつまでもバス友のわたしを心配してくれて導いてくれる。

 バスのなかで教わったたくさんのことが頭のなかを駆け巡る。なおえさんからの教えはどれもこれもかけがえのない宝物だった。

 ストーリーも学んでみよう。

 パラレルキャリアの道は時に困難だけど、なおえさんの教えとそのあたたかい言葉が折れそうな気持ちや「やれるかな」という不安を消してくれる。

 自分の人生を前向きに、そして自分に関わってくれる人たちのために、幸せに生きていくことを誓った。

 なおえさんの「なんとかなるわよ」というやさしい声は、わたしの心の中で永遠に生き続ける。

【第4章まとめ】
オンラインスクールを主宰したり、特技や趣味のものを販売したりする。
使用用途にこだわらず、誰かの役に立てる可能性があれば空間などを商品化してみる。面会サービスや任意後見という時代のニーズに目を向けて新しいビジネスを常に考えること。学びを続けることがたいせつ。

・エピローグ

「こんなはずじゃなかった」とグチっていたわかめさんはもういません。なおえさんの教えを通じて、自分自身を探求して、自分の本当の声に耳を傾ける勇気を持てたからです。

 わかめさんのように、だれにでも、自分の生活やキャリアをもっともっと良くする力があることを、おわかりいただけたら幸いです。

 自分自身としっかり向き合うと「ただ生きるための仕事」以上に意味がある仕事を見つけていけたのです。好きなことやできそうなことを追求して、さまざまな方法で自分自身を表現する道を歩いていけそうです。

 多方面にわたるキャリアに取り組む挑戦は、たとえ大変な状況でも、自分の可能性を意識して、心に従うことが大事だと教えてくれます。

 わかめさんが学んだことを思い出し、ご自分の人生の進む方向を考えていただきたいと思います。 
 
 どんな未来を作りたいですか?

  夢や好きなことを後回しにせず、今からでも行動を始めて、自分の未来を自分の手で作る勇気を持てますか?

 パラレルキャリアの取り組みは、仕事をすること以上の意味があります。自分自身のもつスキルや気持ちを理解して、それを通じて自分の持つ隠れた才能を最大限に引き出し、自分だけの「特別な道」を作ること。

 やるまえの不安を取っ払って、新しい未来を切り開く勇気を持ってくださいね。
 
 最後まで読んでいただきありがとうございました。
ぜひ「新しい始まり」を迎えてください。いくつになっても新しい夢を追いかけ、新たな自分を作っていけると希望をもって突き進んでください。
 
 人生の新しい章が始まります。
 自分の人生の主人公になって、毎日を意味あるものに変えていけます。
 わかめさんの成長ストーリーが、あなたの道しるべになって、新しいスタートに光を当ててくれると嬉しいです。

 さぁ、あなたのストーリーも話してください。

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