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退職願を出したとき

退職願を出すという決断は、ビジネスパーソンにとって重大な一歩です。私も、15年間働いた職場を辞めることを決めたため、長い時間をかけて慎重に考えた末の結論でした。

私はこれまで、上司に代わって若手社員の退職の引き留めを幾度となく実施してきました。管理層にいながらも比較的若い年齢であったため、若手社員の気持ちも十分に理解できると期待されていました。若手社員の退職理由の多くは、直属の上司との関係性や自分の立場に関するものでした。私との話を経て残留するに至った社員も多くいました。それらの一連のやり取りの中で、引き留めることができる社員と意思の固い社員の行動が漠然とわかるようになったように感じます。

私は退職の意志が固かったため、事前に会社の誰一人とも相談せず、直属の上司に退職願を提出することにしました。退職願は、会社の就業規則に定められたフォーマットに従い、手書きで丁寧に書きました。そして、それを3つ折りにし、白封筒に入れて提出しました。公式な手続きを重んじることで、後戻りしないという私の姿勢を示すものでした。

提出日は、いつも上司が朝一番に出社することが多いことを考慮し、他のメンバーのスケジュールも参照して日時を決めました。予想通り、提出する当日の朝は上司しか出社しておらず、緊張の中、アポなしで上司の机上に足を運びました。主旨を伝えて退職願を渡すと、上司は最初に差出人を確認し、私が差出人であることに驚いていました(私の部下から預かったものだと思ったようでした)。

提出後、上司と会議室に移動し、話し合いました。冷たく扱われることを覚悟していましたが、上司は穏やかな口調で、「わかる、わかる」と常に私の意見に同調してくれました。辞めることに対して責めることもなく、その配慮に感謝の気持ちで満たされました。

その後、何人かの上司と面談を行いましたが、いずれも私の意見をよく聞いてくれました。彼らは残留に向けた代案を提示してくれるなど、私の将来に対して真剣に考えてくれる姿勢が伝わってきました。

退職願を出した時、最も印象に残ったのは、上司たちの理解と配慮でした。通常、辞める意思を示すと、人から人へ徐々に伝わり、周囲から引き留めがあることもありますが、私が出社しなくなる直前まで、部下や同僚には知られていない状態でした。上司としても私の意思を尊重し、戸惑いがないように配慮してくれたのだと感じています。

退職願を出すことは、新たな始まりへの扉を開く行為だと思っています。次の人生に向けた希望を持ちつつ、会社の人々に対する申し訳なさを噛みしめ、覚悟をもって行動しました。退職を決意した人一人ひとりには、様々なストーリーがあると思いますが、私にとっては、人生で何度も味わうことのない、言葉には表せないほど貴重な経験でした。

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