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5スターを狙う航空会社チーフパーサーの5秒の目利き

【前編】世界中の航空会社は、ミシュランの航空業界版Skytraxの星獲得を狙っています。私が18年間お世話になったANAは現在、日本で唯一2013年から5スターに認定されているエアラインです。5スターを取ると、その後の連取は、現状維持では達成できません。改善・攻め・改善・攻め。

Skytraxの調査員は、いつ、どこに出没するか分かりません。ふつーのお客さまのフリをして、映画に集中しているフリをして、旅に不慣れなフリをして、実は厳しい目でサービスを見ています。なので、星を狙う航空会社にとって最も大切なことは、「金太郎飴」です。どこを切り取られても、高品質でなければいけないということです。

今日は、金太郎飴の品質を追求するチーフパーサーが普段から大事にしている視点をご紹介します。この情報は、社内で「スーパーCA」といわれる人たちへの3年以上のリサーチ・取材と私自身の経験が元になっています。


※はじめに用語説明
・チーフパーサー ・・・ 客室全体の責任者
・パーサー ・・・ 各クラスの責任者
(例:ビジネスクラスパーサー)


チーフパーサーの最初の仕事は、ポジションアサインです。15名くらいのCAが出社し、一人、また一人と、長机に集まってきます。チーフパーサーは、このとき、全神経をCAを見抜くことに注いでいます(内緒)。誰を、どのポジションにつけるかが、めちゃめちゃ、めちゃめちゃ大事なんです。(みんな優秀ですが、適性ということです)

このポジションアサインに掛けられる時間は、だいたい1~2分。ポジションが決まらなければ、フライト準備を始められないので、すっごく大事なのに、じっくり時間を掛けられないのです。

保安上の理由から、フライト開始後のポジション変更は基本できません。適材適所にできなくても、長い15時間を乗り越えるしかありません。アサインがビンゴ!!であれば、15時間はあっという間に、お客さまの笑顔と、CAの爽やかな疲れと共に終わります。なので、チーフパーサーは、ポジションアサインに全神経を使います。


まず、出社してくるCAひとりひとりを、見ます。かる~く見ながら、見抜きます(笑)あいさつ、目線、表情、所作、周囲への態度、もちもの、制服の着こなし、五感をフル活用して情報をキャッチし、チーフパーサーの経験をもとに、ポジションを決定します。見抜く時間はひとりあたり、だいたい5秒以下です。短い。だから、工夫が必要です。その工夫が、「金太郎飴か」という視点です。

たとえば、チーフパーサーへの挨拶は素敵だけど、仲間への態度が雑。そんな人が、責任者(パーサー)になることは、まずありません。出社前にたまたまトイレで見かけたときに周囲への気配りが感じられなかった人の笑顔がいくら素晴らしくても、その人がパーサーになることもありません。


「相手が自分と関わり合うことが分かった段階で」出てくる礼儀や笑顔から生まれる仕事を、チーフパーサーは信用していません。相手や状況によって変わる仕事に安定を感じにくいからです。「この人と関わると分かっていれば、最初からちゃんとしたのに」これはつまり、普段から目の前にいる人を大切に捉えていないということの、残酷な証拠です。

「あの時はバタバタしていたから、相手に気を遣えなかった」という諸事情を鑑みても、他の安定した人を選びます。チーフパーサーの中にある不安要素を拭えない段階で、その人を責任あるポジションにつけることは、フライト前から品質追求を諦めているようなものです。


私はポジションアサインに失敗した記憶がありません(笑)そのスキルを活かしてほしいと言われ、外国人スタッフの採用もしました。見抜く秘訣は、「かる~く見る」です。リラックスできる環境を作り、「私は怖くない人オーラ」を出し、最初から素を出してもらうことです。時短テクです。


いざフライトへ!

【後編】では、フライト中に必ず目の当たりにする「素晴らしいマネジメントをするCAの共通点」をご紹介予定です。


注意)この記事は、元CAの個人的な考えに基づいています。
御礼)スーパーCAのHさん、Kさん、Fさん、Sさんに感謝します。


※チームの力【必要性・チーム単位・航空会社・孤独な人】


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